第25話 合理的脱出!

「出来ると……思うのか? それは何故だ?」


「ヴォルケンの考え方は合理的じゃない。だって、誰も壁を破ったことがないからと言って、絶対に壁を破れないわけじゃないだろ?」


「しかし、可能性は限りなく低いのでは……?」


「でもゼロじゃない。合理的に考えるってことは、時には可能性を排除する必要がある。でも、それは可能性を否定することじゃなくて、あらゆる可能性を信じて、検証することなんだ」


 その時、壁に矢がぶつかり、ピキッという音が響いた。壁にヒビが入るような音。今までで初めての感触だ。


「それに、僕には壁を破れる気がしてるんだ。僕がこの部屋に入る前に見た、壁の亀裂。あれは――ヴォルケンが攻撃し続けた影響なんじゃないか?」


 確証、と呼べるような代物ではない。だが、可能性は間違いなくある。


「私の攻撃が――無駄ではなかったというのか!?」


「かもしれない。少なくとも、今はその可能性に賭けるのが一番合理的だ!」


 そう言った途端、ヴォルケンは急に起き上がったかと思うと、僕と同じように壁を攻撃し始めた。


「ならば、私もその可能性に賭けよう!」


「いいね、悪くない」


 僕たちは壁を交互に攻撃し続けた。

 矢の威力は徐々に上がっていく。精度も、衝撃も、最初とは比べものにならないほどだ。


 1時間ほど経った頃だろうか。僕たちが疲れも忘れ、絶え間ない攻撃を与え続けていると――、


 パキッ!


 これまでで一番の音が鳴った。次の瞬間――、


 バラバラバラバラッ!


 壁が崩落し、真ん中に大きな穴が出来た。


「やった!」


「若人……ついにやったのだな!!」


 僕たちは喜び合い、壁の穴を通ってダンジョンへと戻った。


「若人よ。お主は私に大事なことを教えてくれた。私は可能性を信じることを忘れていた」


「こちらこそ、<具現化>の使い方を教えてくれてありがとう。師匠・・


 師匠と呼ばれ、ヴォルケンはなんだか嬉しそうだ。頭蓋骨なのになんとなく表情がわかる。


「これからどうするの?」


「さあな。この姿で地上に戻っても恐れられるだろう。まあ、これから考えるさ。私にはあらゆる可能性があるのだからな!」


 この様子なら大丈夫そうだな。


「若人よ。師匠ついでに教えておこう。<具現化>は物体だけではなく、スキルを生み出すことも出来る!」


 え……そうなの!? 思っていた以上にめちゃくちゃ強いじゃん!!


「しかし、具現化するには実際に体験するか、具現化に至るような確信を持つ必要がある。前者の方が簡単だろうな」


「ありがとう。おかげで、強くなるための道が開けたよ」


「うむ。まずは<具現化>をより上手く扱えるようになることだな。……さて、必要なことは全て伝えたし、私はここで別れるとしよう」


 ヴォルケンは飛来し、ダンジョンの廊下を突き進んでいく。


「さらばだ若人よ! またどこかで会おう!」


 ヴォルケンの笑い声は、道の角を曲がった後もしばらく響いていた。



「はあ、今日は大変だったな……」


 ダンジョンから出た僕は、外の空気を吸った後、大きく息を吐いた。


 閉鎖空間にいた後だから、空気が美味しく感じる。ましてや一生出れないかもしれなかったかもしれなかったわけで、解放感が全身を駆け巡っているようだ。


 トラブルはあったけど、順調にレベルは上がっているし、<具現化>という強いスキルも手に入れた。

 あとはひたすら具現化の練習だな。今はまだただの弓矢を出すことが出来るだけだけど、熟練すればもっと色々な機能を付けられるかもしれない。


「何にせよ、未来は明るいな……ん?」


 <観測者>が近くに人の気配を捉えた。数は3。僕のことを陰から見つめているようだ。


「何か用?」


 振り返り、隠れている人たちに向けて声をかける。すると、こそこそしていた3人組は姿を現した。


 彼らの顔を見て、僕はすぐにピンと来た。

 華美な見た目と大柄な体躯。彼らはさっき動画で見た連中だ。


「ずいぶん長いことダンジョンに篭ってたみたいだな。オレのことはわかるだろ?」


 次の試験の対戦相手――名前はなんだっけ。確か魔舌だっけ?


「今度のテストの対戦相手だろ? こんなところで会うなんて奇遇だね」


 そんなわけがないのはわかっている。さしずめ次の対戦者の僕によからぬ事でもするために付けてきたんだろう。


「影山英夢。オレはお前に挨拶しにきたんだよ。オレも初めてのテストだからな。対戦相手は誰だってリスペクトしたいしな」


 魔舌は僕に微笑みかけると、握手を求めて手を伸ばしてきた。

 断る理由はない。僕は彼との握手に応じ、手を握った。


 ーー次の瞬間。


「オラァ!!」


 魔舌は握手していない方の手をバッグに突っ込むと、コーラの入ったペットボトルを取り出し、それをひっくり返して液体を僕の頭にかけてきた。


「「「ギャハハハハハ!!」」」


 甘い匂いのする液体が頭にかかる。同時に、3人組の笑い声が聞こえてきた。


「バーカ!! 誰がお前みたいな陰キャに挨拶なんかするかよ!!」


 空になったペットボトルが魔舌の手から投げつけられ、僕の体に当たって地面に落ちた。

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