第24話 合理的幽閉!
「スキルスクロールって……あのレアアイテムの!?」
スキルスクロールは、市場にめったに流通しないレアアイテムだ。
使うと立ちどころにスキルを習得が出来るため、ジョブや加護と組み合わせると想像以上の効力を発揮することもある。
「ああ、そうだ。この<具現化>は、想像をしたものを実物にすることが出来るスキルだ。私はこのスキルを習得し、空間からの脱出を試みた」
「で、駄目だったんだ」
「……そうだ。水分不足で動けなくなり、私は死を悟った。死を拒んだ私は、気づくとこの姿になっていたのだ」
回顧するヴォルケンの顔は、骨なのにどこか悲しげに見えた。
「なあ。そのスクロール、2個あるみたいだけど?」
「ああ、1つは私が使ったから、1つ残っている。……って、若人よ。お主まさか!」
「うん。それは僕が使おうと思って」
「正気か!? それを使ったとて、出られなければ意味がないんだぞ!?」
ヴォルケンは何か勘違いしているようだ。
「出るよ。僕は」
せっかくここまで強くなったのに、こんなことで諦めてたまるか。
お宝部屋に入ることが出来たんだ。貴重なアイテムは持ち帰らないとね。
僕はスキルスクロールを開き、表面に手を触れた。
――
<具現化>を習得しました。
――
よし、これでまた強くなれた。
「若人よ……どうやらお主は諦めていないようだな。ならば、私がお主に<具現化>の極意を授けよう!」
「そんなこと出来るのか?」
「可能だ。こうして現世に留まり続けている間、私は<具現化>について考え続けてきた!」
ヴォルケンは宙を舞うと、僕が持っている矢を鳥のように咥えて盗み、僕の前に浮かび上がった。
「イメージするのだ。お主が普段使っている弓と矢を。さすればそれが形になる!」
ずいぶんざっくりとした説明だな……要するに具現化する対象をよく想像しろってことか?
物は試しだ。やってみるか。
ええと、目を閉じて、普段使っている弓と矢をイメージしてみる。色は、形は、手触りは……様々な角度から探ってみて――、
「無理だろう? それも仕方ない。私が最初に具現化を成功させたのは何十回もの失敗を経てからだった。まずは焦らず――」
「……出来た」
僕の手には、想像した通りの弓と矢が握られている。
二つのアイテムはオレンジ色のオーラで包まれており、ゆらゆらと揺れているが確かにそこにある。
「えええええええ!? まさか一発で成功したのか!?」
「うん。合理的な弓と矢をイメージしたんだ。普段使ってる弓矢にアレンジを加える感じで」
「しかも、一発目からアレンジだとぉ!?」
その時、弓矢は火が消えるようにしてゆっくりと消えていった。どうやら僕の力では形を維持できるのはこれが限界らしい。
「そうか、『合理的』……! お主がさっきから言っているそれは、論理によって裏打ちされていたいわば方程式! 1に1を加えると2になることを疑いようがないように、お主の考える合理的な弓矢は疑いようのない事実! だから具現化に成功したのか!」
「何言ってるかよくわからないけど……とりあえず第一段階は突破ってことでいいんだよね?」
「第一どころではない! 第三くらいは一気に突破だ!」
ヴォルケンは咳払いをすると、改めて話し始める。
「次は、その壁に向かってその矢を放ち、壁に損傷を与えるのだ!」
「でも、すぐ消えちゃう矢なんか撃っても意味がないんじゃ?」
「否。具現化は精度を高めることで質量や威力をコントロールすることが出来る! 実物の矢は壁にぶつかるたびに劣化していくが、具現化で作った矢は何度でも撃つこと出来るのだ!」
なるほど。じゃあ具現化しまくって、撃ちまくれってことだ。
ヴォルケンは飛空し、壁の一点に向かって頭突きを数回した。
「ここだ! ここを狙うのだ!」
そこから、僕は弓矢をイメージし続けた。5回目ほどで、ようやく実際に矢を撃つことが出来るようになった。
……しかし、矢は壁に当たった瞬間に炭酸のようにすっと消えてしまう。
「まだだ! 何度でも弓を引くのだ!」
壁の一点に向かって、何度も矢を放つ。最初は衝撃で消えてしまった矢も、次第に壁にぶつかって音を立てるようになった。
「……若人よ。手は動かしながらでいい。私の話を聞いてくれないか?」
「今度は何? 手短に頼むよ」
「私がこの空間に閉じ込められ、喉の渇きが限界に達した頃。私は具現化した弓と矢を握りながら、ある可能性について思案したのだ」
矢が壁に当たる音がテンポ良く部屋に響く。
ヴォルケンの声はなんだか元気がなかった。
「それは、『ダンジョンの壁は破れない』という可能性だ。思えば、ダンジョンの壁を破壊したなんて話は聞いたことがない。このまま弓で壁を撃ち続けても、意味がないのではないかと思ってしまったのだ」
「……不吉なこと言わないでよ」
「私は死んで頭蓋骨になった後も、この体で壁の一点……今、お主が撃っている点を攻撃し続けた。体に痛みはなかったが、失ったはずの心が痛かった。いつしか壁に攻撃するのも辞めてしまった」
振り返ると、ヴォルケンは僕とは反対の方の壁を見つめながら俯いていた。
何十年もの孤独。僕には想像がつかない。ヴォルケンはこの狭い部屋で、それを痛いほど感じたのだろう。
「若人よ。こんな私を笑うか? お主は、ダンジョンの壁を壊すことなんて出来ると思うか?」
僕は矢を放ち、伸びをした後に言い放つ。
「出来るさ! きっとね!」
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