第23話 合理的ガイコツ!


 放課後。いつものようにダンジョン探索。

 索敵範囲が増えたことで、今日はいつもよりスムーズだ。


「よし、ゴーレムを倒した……!」


 前回よりも遥かに少ない矢の本数で、ゴーレムを一方的に倒すことが出来た。


――


 レベルが16になりました。


――


 やはりゴーレムは格上ということもあり、レベルが上がりやすいな。

 しばらくはゴーレムを倒しているだけでも強くなれそうだ。だが、そこに胡坐をかく僕ではない。


「さらなるレベルアップ! 合理的成長のため、行くぞ11層!」


 ゴーレムがいた場所を通過して、僕は11層に続く階段を降りていく。


 ついにここまで来たか……! 周囲を見渡すと、なんだか壁が10層までと比べて青みがかっているような気がする。

 ゴーレムはフロアボスだ。さすがにここから先のモンスターが皆ゴーレムより強いなんてことは……ないよな?


「念のため、<観測者>で周りを確認しておくか」


 初めての11層。モンスターは……お、いた。

 確かに9層のモンスターとは強さの段階が違う。楽々攻略とはいかなそうだ。


 だけど、ゴーレムより強いかと言われれば答えはノーだ。1体1体の気配はそこまでじゃない。


「これならなんとかやれそうだな……ん?」


 その時、<観測者>が何かの気配を感じ取った。


「なんだこれ、部屋か……?」


 100メートルほど先。ダンジョンの壁に、不自然な反応がある。

 一見するとただの壁だが、まるでその先に部屋があるような……?


 部屋がある、というのも漠然とした直感でしかない。まるでこの場所だけが霞でぼやけているような……そんな印象だ。


「どうしようかな、かなり怪しいけど……」


 この反応は今回が初めてだ。この壁を詳しく調べた結果、どうなるかはわからない。僕にメリットがあるのか、はたまた逆に危険があるのかは予測不能だ。

 うかつに手を出して即死、なんてパターンになるかもしれない。


「でも、ここで引く手はないよな」


 ここで止まるのは合理的じゃない。

 僕は気配を消しながら、目的の壁の前まで移動した。


「うーん、やっぱり普通の壁だな……」


 目視すると普通の壁にしか見えない。だが、<観測者>を通して見ると間違いなく違和感がある。

 試しに触れてみるが、確かに壁の感触がある。壁が偽物ということもなさそうだ。


「ん……? これは?」


 しばらく壁を見つめていると、真ん中の方に小さな亀裂があるのを発見した。


「なんでこんなところに亀裂が……」


 亀裂に向かって手を伸ばす。冷たい壁の温度を感じた瞬間――、


「……!? あれ、ここは!?」


 気が付くと、僕は別の場所に移動していた!


「なんだここ……? もしかして、瞬間移動とか……?」


 周囲には何もなく、閉鎖空間だ。決して狭くはないが、端を見ることが出来る。

 ここはさっき見えた部屋か? だとしたら、壁を触った時に、壁を超えたとか……?


 疑問は尽きない。現状を必死に理解しようとしていたその時。


「ハハハハハッ! よく来たな若人よ!」


 その時、背後から声が聞こえた。男の豪快な笑い声だ。


「誰だ!?」


 振り返ってみるが、人の姿はない。そこにいたのは――、


「ようこそ。私の部屋に!」


 青白い炎を纏った頭蓋骨だった。


「喋ったああああああああああ!?」


「そう喜ぶでない! 私も久方ぶりに人に会えて嬉しいのだ!」


「いや喜んでないが!?」


 落ち着け僕。見方を変えれば1層あたりにいそうなモンスターと大差ないじゃないか。

 会話が出来る分危険度は低い。


「で、あんたは誰なんだ? モンスターでも名前くらいはあるんだろ?」


「モンスターではない! 私はれっきとした人間だ。名をヴォルケンという」


 珍しい名前だな。外国の人かな?


「いや、人間と言われても……どう考えても幽霊にしか見えないんだけど」


「そう思われても仕方ないか。なにせ私は既にこの世を去った。この部屋に迷い込んだのももういつかもわからない。少なくとも数十年は経過しているだろう」


 なんか訳ありっぽいけど、それ以上に見た目のインパクトが強すぎてツッコむ気力にならない。

 こんなのお化け屋敷でしか見たことないよ。っていうかその話信じろって言うのか?


「なあ、若人よ。この部屋に入ったのも何かの縁だ、私がどうしてこうなったかを聞いてはくれないか?」


「別に構わないけど……なるべく合理的に頼むよ。空飛ぶ人魂骸骨ってだけでもうパンクしそうなんだよね」


 ヴォルケンはその場に座り込むと――座っているのかはわからないが――顎を地面に付けて、話し始めた。


「私はかつて冒険者だった。アーチャーとして、日々ダンジョンをコソコソと移動したものだ。<隠密>で姿を隠し、背後から矢を撃ってレベルを上げていた」


 こいつも僕みたいなことをやってたのか。どこにでも同じようなことを考える人はいるものだ。


「ある日、いつものようにダンジョンを散策していたところ、壁に違和感があるのに気づいた。この部屋が宝を隠すためのものだと悟った私は、壁をくまなく触ったところ――」


「ここに飛ばされたってわけか」


 状況は僕と同じだ。

 ――ってことは、もしかして僕もここでヴォルケンと同じように、一生このままとか?


「結果、私が見つけたのはそこにある<具現化>のスキルスクロールだけだ」


 ん……? スキルスクロール?


 ヴォルケンが見つめている先には、2つの巻物スクロールがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る