第22話 合理的迷惑配信者!
今日、対戦相手が決定かあ……。
ふーん。
どうでもいいや。
どうせ対戦相手が誰だろうと、実力は変わらないだろうし。そもそも名前を聞いたところでジョブやスキルもわからないし。
適当に当日を迎えちゃおう。
その後、机に突っ伏して寝ていた僕は、予鈴で目を覚ますことになる。
ホームルームが始まると、先生が何やらカードを持って入ってきた。
「今から定期試験の対戦相手の名前を記載したカードを配るぞ。もう決まっているから、覚悟するように!」
先生はそう言ってカードを一枚ずつ生徒の机に配っていき、ついに僕の番が来た。
真っ黒なカードだ。裏面には僕の名前が書いてあって、おそらくこれをめくれば対戦相手の名前がわかるのだろう。
まあ、一応見ておくか。
カードをめくると、そこには
まあ予想通り、知らない名前だ。そもそも僕が名前を覚えている生徒は数えるほどしかいない。
昼食の時間。僕は比奈に聞いてみることにした。
「なあ比奈、魔舌って生徒を知ってるか?」
「知ってるよ。もしかして、英夢くんもブレストに興味出てきた感じ?」
? なんでいきなりブレイブストリームの話になるんだ?
「魔舌ってどんな奴なんだ?」
「どんなって、ブレストの配信者に決まってるじゃん」
え……今度の対戦相手、配信者なの?
っていうか、うちの学院に配信者っているのか。考えてみたら、ブレストは誰でも動画投稿が出来るものだし、興味がある生徒はやっていてもおかしくないか。
「最近ちょっと伸びてきているチャンネルでね、登録者は1万人くらい。『デビルズタング』で検索すると出てくるんだけど……見るなら覚悟した方がいいかも」
美玲の時は楽しそうに紹介してくれたのに、今回の比奈はなんだか乗り気ではなさそうだ。
言われるままにスマホで『デビルズタング』で調べると、何本かの動画が見つかった。僕はその中の一本を再生してみる。
「よぉ! デビルズタングの『凶』だ!」
喋り出したのは、いかにもガラの悪い大柄の男だった。こいつ本当に僕と同級生なのか? 黒っぽい服装のせいもあるだろうが、いかつい雰囲気が昔のアニメのガキ大将のような雰囲気を醸し出している。
二人くらい取り巻きがいるが、こいつらも同じ学生なのかな?
「じゃあ今日の企画説明! 『陰キャを成敗してみた!』」
……は?
「今日は特別ゲストでオレの
「は、はい……」
そう言って画面に入ってきた少年はいかにも弱そうで、友達という風には全く見えない。
「お前、強くなりたいんだよな? だったら、オレが友達として稽古してやるからよ。もちろん、受けるか受けないかは自由だ」
「ぜ、是非やらせてください……」
何が自由だ。どうせ画面外で脅迫のようなことでもしているんだろう。
だが、凶はそんなことをおくびにも出さず、ニヤリと残虐に笑った。
「決まりだな」
場面が切り替わり、二人が向き合うシーンになった。これから実戦が始まる。
「レディー、ファイッ!」
取り巻きの一人がそう言った瞬間、凶は強烈な右ストレートを相手の腹に叩きこんだ。
「あ、あああ……」
攻撃を受けた生徒は苦しそうに悶え、その場に座り込んだ。同時に、凶の取り巻きは笑い始めた。
「なんだよ今の笑い方! 気持ち悪!」
「座ってんじゃねえよ雑魚! お前まだ何もしてねえだろうがよ!」
体を小刻みに震わせる生徒の髪を掴み、凶は無理やり顔を上げさせる。
「まだ始まったばかりだぞ? それじゃ強くなれねえよな!」
凶はそう言い放つと、拳を振るって生徒を殴りつける。
生徒の体が吹っ飛んだ瞬間、面白おかしく効果音や字幕などの編集が入った。
この学院は実力主義だ。モンスターと戦う冒険者を育成するという性質上、実力がない者が淘汰されるのは仕方ないという空気は強い。
しかし、これはいくらなんでもやりすぎだ。認められる範疇を通り越している。
「もう終わりか? じゃあ、選手交代だ」
すると、取り巻きの一人が前に出てきた。
「次は不破さんとの実戦だ。3人と戦うまで終わらないからな?」
そう言って、取り巻きがニヤリと笑いながら生徒に向かって走り出した。
僕はそこで動画を消した。
「……見なくて正解だよ。そんな動画、面白いと思ってる人の気が知れない」
比奈は義憤に燃えているのだろう。辛そうな顔で拳を握っていた。
僕はというとそうではない。もう見なくても結果がわかっているんだから、見る必要がないと判断したまでだ。
「こういうの、学院は許可してるのか?」
「許可してるわけないよ。でも、関わると厄介だから黙認してるだけ。動画の内容はあんなのばっかりだけど、法律に触れないギリギリだから何もできないの」
……こんな奴と定期試験で戦わないといけないのか。
気が重いなあ。
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