第21話 合理的範囲拡大!

 朝早くに起きるのは合理的じゃない。

 朝はぎりぎりの時間まで寝るべきだし、家を出た後もホームルームが始まるまでは睡眠時間を稼いだ方がいいに決まっている。


 だって、寝る時間は一番幸せな時間だ。寝る時間を増やすことは人生における幸せの量を増やすことに等しい。まさしく合理的で僕好みだ。


 ……そんな僕が、今日は。


「始業1時間前……何やってんだろうな、本当に」


 早起きして、ダンジョンの前に立っていた。それは、あることを試すためだ。


 僕はいくつかスキルを習得してきたが、中でも活躍しているのは<観測者>だろう。

 これは【必中】と相性がいいし、何より何度も強化されている。


 そして、昨晩あることに気づいたのだ。


 <観測者>で感知できる範囲は半径200メートル。これは、固定ではない・・・・・・のではないか。


 例えば、手のひらサイズの球が、スライムのように流動的なもので出来ているのを想像したい。


 最初はボールのような形のそれは、ぎゅっと握りつぶすと圧縮されて形が変わる。指と指の間からはみ出てくるかもしれない。


 このように、力を加えることで半径200メートルという範囲は球体から形を変えることが出来るんじゃないだろうか。


 イメージするのは半径200メートルの球体。その面積をダンジョンの下の層に細く伸ばしていく。


 今、僕はダンジョンの入り口に立っている。そこから入り口に入り、1層の階段を降り、2層に観測範囲を伸ばしていく。


「ガル?」


 見えてきたのは、憎きコボルトの姿だ。僕は奴に向かって矢を放つ。

 すると、コボルトの頭に矢が当たったのがわかった。


「本当に出来た……」


 ダンジョンに入っていないのに、2層のモンスターを倒せた。

 まだ練習だが、確かに<観測者>の感知範囲を広げることが出来た。もっと操作が上手くなれば、さらに下の層のモンスターにも攻撃を当てられるかもしれない。


「そうだ、そういえば昨日習得したスキル――あれも使えるかも」


 僕は<観察眼>を使ってスキルの詳細を再度確認する。


――


<矢強化>


矢にスキルを付与することが出来る。


――


 今までは矢に属性を付与していた。それのスキル版という感じだろうか。


 じゃあ、<矢強化>を使って、矢に<観測者>を付与したらどうなるだろう。


 さっきと同じ容量で、2層の壁に矢を突き刺して――、


「!?」


 嘘だろ!? 2層の壁から、さらに感知範囲が追加されている!?

 まさか、矢が刺さった位置からさらに半径200メートルの感知が可能になったのか!?


「じゃあ、この矢が持つ半径200メートルを操作して……」


 さっきと同じ容量で、さらに下の層に感知範囲を操作していく。すると――、


「やっぱり出来た。4層の敵が見える……」


 これ、もしかしてかなりの強化じゃないのか? 下に向けて観測範囲を操作し、ダンジョンの壁に矢を刺す。すると、また観測範囲が広がるので、さらに下の層へ――その繰り返し。


 理論上、この手段を使えば一番下の層まで見ることが出来る。

 まあ、さすがにここから一番下の層まで矢を飛ばすことはできないけど……いつかはやれるかもしれない。


「じゃあ、ひとまずはここから!」


 僕は矢を撃ちまくり、4層までのモンスターを一掃する。1本の矢でも、<貫通>があるので勢いが完全に消えるまで複数体倒すことが出来る。


 観測できる範囲のモンスターは、数発で全滅することが出来た。


「これくらいで終わるなら、ちょっとだけ早起きしてもいいかもな」


 とはいえ、今日はいくらなんでも早すぎたな……ダンジョン外からモンスターを倒す作業は今後もやっていくとして、今日はまだ眠いから学校で寝よう……。



「英夢くんおはよう! 今日は早いんだね!」


 いつもより30分ほど早い登校。教室には比奈の姿があった。


「おはよう。……比奈はいつもこんなに早いのか?」


「日によるけど、ホームルームの1時間くらい着くようにしてるの。朝に復習すると定着するし」


 そうか、そういえばそろそろ定期テストの時期か。

 筆記の方はそこそこの点数を取れる自信はあるが、気になるのは実技の方だ。


「なあ、実技試験って何をするんだ? 実習と同じでダンジョン攻略とか?」


「ううん。定期テストはダンジョンには行かないよ。イレギュラーがあった時に影響が大きいのと、個人の実力を計る目的があるみたい」


「じゃあ、何をするんだ?」


「1対1の、生徒同士の対人戦!」


 ええ、対人戦?

 正々堂々勝負とかするのか? 僕が一番嫌いなことだ。戦う前に準備したり、ズルを見つけるのは重要なことだろう。


 それに、正面からの戦いはアーチャーにとって苦手分野だ。正直面倒くさい。


「そして! 今日のホームルームで対戦相手が告知なんだよ!」

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