第20話 合理的ゴールデン!

「嘘……もしかしてさっきのやつ!?」


「それは定かじゃないけど……競争だ。どっちが先にゴールデンスライムあいつを倒せるか!」


 僕は自分の合理性のために、美玲は夢のために。


 この勝負、負けられない!


「上等じゃない。やってやるわよ! ただし、その代わり、あんたが負けたら……」


 美玲はビシッと僕を指差す。


「次のゴーレム討伐、一緒に来て!」


 ゴーレム討伐って……配信のことか。

 正直あまり魅力的ではない。ゴーレムは弓チクで倒せるし、チームにいるアーチャーは索敵のために前線の方に駆り出されてしまう。


「アーチャーはゴーレム討伐には不向きじゃなかったのか?」


「英夢は別。……それに、ゴーレムだけじゃない。あんたとならもっと凄いところに行ける予感がするの! だから、私は英夢と配信がしたい!」


 ……なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか。

 だが、僕も負けるわけにはいかない。


「じゃあ、僕が勝ったらどうするんだ?」


「そんなの、デートでも何でもしてあげるわよ!」


「そうか。テストが近いから、それが終わってからの方がいいな」


 言い切ると同時に、僕は矢を放つ。

 矢は軌道を変え、ゴールデンスライムに一直線に進んでいった。


「キュッ!?」


 矢が迫った刹那、ゴールデンスライムは脱兎の如く逃げ始めた。

 ……そして、ピョンと飛び跳ねて矢の一撃を避けた。


「矢を避けられた!?」


 こんなこと今までになかったぞ。【必中】の加護が効いていないのか!?


 ……いや、違う。矢はまだゴールデンスライムを追い続けている。

 まさか、当たらないように逃げているのか!? 動きが速すぎるだろ!


「上がってきてよ英夢。本気の勝負をしましょう?」


 美玲はふふっと笑うと、ゴールデンスライムに向かって走り出した。

 これは、僕も行かないとまずそうだ!


 僕たちはゴールデンスライムを追いかけて走った。レベル差はあるだろうが、お互いに持てる全力を出して。


 僕はその時間が楽しいと思ってしまった。そして、きっと美玲も同じなのだと。


「はあっ!」


 しかし、声が上がると同時にその時間は終わった。


 僕がゴールデンスライムを叩き潰したのだ。


――


 レベルが15になりました。

 <矢強化>を習得しました。


――


 前評判通りの経験値量だ。またレベルが上がった。


「はあ、はあ……疲れた……完敗ね……」


 美玲はその場に寝転び、息を切らしている。


「そうでもないさ。今のは僕も危なかった」


「またそうやって嘘をつく。私と違って、あんたは普通に追いかけてたわけじゃない。矢を使ってモンスターがいない場所に誘導してたんでしょ?」


 ……バレてたか。

 まあ、鬼ごっこの途中でモンスターに水を差されるのは合理的じゃないからね。


「立てるか?」


 僕が美玲に手を伸ばすと、彼女は僕の手を掴んだ。

 冷たい。そして柔らかくて小さい手だ。


「悔しいけど、あんたを配信に誘うのは諦めることにするわ。勝負は勝負だからね」


「ゴーレム討伐は嫌だけど……個人的にだったらダンジョン攻略に付き合うよ」


 美玲が本気で配信者として頑張っているのは伝わってきた。だから、僕も少しだけ手伝ってあげたい。

 そっちの方が、美玲が人気者になった時に感謝してもらえて合理的かもしれないだろ? うんうん、そうに違いない。


「いいの!? じゃあ私、英夢のことまだ諦めないから!」


「好きにしてくれ。ただ、もうすぐ5層だから気を張ってくれよ」


 それから、僕たちが目当てのモンスターを倒して地上に戻るのは約5分後のことだった。



「うわっ!?」


 アイテムを使用すると、一瞬で地上に戻ることができた。

 しかし、それはまるで強制的な転移のようなもので、僕は地べたに仰向けで倒れ込む。


 ……そして、僕の上に誰かが落ちてきた。もう考える間もなく先の展開はわかった。


「いたたた……あら英夢。クッションになってくれたの?」


「違う。美玲が勝手に落ちてきたんだよ」


「どっちでもいいじゃないそんなこと。私はこのままでもいいけど、どうかしら?」


 僕はなぜか乗り気な美玲を跳ね除けて起き上がる。

 そこには――、


「英夢くん、ミライちゃんと仲良くなったんだね……」


 冷たい視線を送る比奈がいた。


「比奈、無事だったか! よかった!」


「私も心配だったよ。助けるためにいろんなルートを探ったし。……でも、余計なお世話だったみたいだね」


 あれ、なんか比奈の言葉に心なしか棘があるような……?

 それに、機嫌も悪そうだし……戻るのが遅くなったからかな?


「ねえ、英夢。あんたその子と付き合ってるの?」


 その時、立ち上がった美玲が尋ねてきた。


「英夢くん、どっちなの!?」


「どっちなのって、ノータイムで答えられる質問だよね!? 付き合ってないよ!」


「ふーん、そうなんだ」


 美玲はニヤリと笑う。次の瞬間、僕の腕に抱きついてきた。


「私、これから英夢のことを追いかけることにしたから。よろしくね!」


「いや何のよろしく!?」


 その後、美玲を腕から放すのと比奈の機嫌を取り戻すのに一苦労だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る