第19話 合理的冒険!
「合理性を試すって何よ?」
モンスターを倒して3層へと進んでいくと、美玲は聞いてきた。
「簡単な話さ。もしこの人生がゲームだとしたら、僕は合理的な方法でゲームを攻略したい。自分に渡された武器を最大限活かして、最強になるんだ」
「ふーん、ちょっとカッコいいけど……それで身に着けたのがその戦法っていうのがね。いやまあ、別にいいんだけど……」
僕が歩きながら片手間に矢を放つのを見て、美玲はもごもごと何かを言っている。
「ねえ、今3層でしょ? 私にもモンスターと戦わせてよ」
弓を引こうとしたその時、美玲が僕の腕を優しくつかんだ。
「どうしたの? 僕が危険な目に遭ったら1層まで引き返さないといけないよ?」
「もう英夢が強いのはわかったからさっきのは無し。それより私もモンスターと戦いたいの!」
美玲はそう言うと、腰に差した双剣を引き抜いた。すると、右手に持った剣からは火花が、左手の剣からは白い氷気のようなものが出る。
配信で見たときに使っていた武器だ。彼女はマジックソルジャー。剣と魔法を扱って戦う、万能型の戦闘スタイルが得意のジョブだ。
「さっきもゴールデンスライムにあんなに躍起になったり、今もいきなり戦おうとしたり……美玲もなかなか戦うのが好きなんだな」
「好き……っていうのは少し違うわね。正直に言うと焦ってる」
「焦ってるって、どういう意味だ?」
「私の配信、見てくれてるでしょ? この前、ゴーレムに到達できなかった。それが悔しいの。私が、もっと強くならないと!」
そう言って、美玲はウォーミングアップで剣を振り回し始めた。
身のこなしは軽く、体の動きはなめらかだ。だが、手には力が込められている。
「……この前の企画が失敗した原因は明白。私が傷を負ったこと。もう少しだけ強ければ、倒せる相手だった。もう、みんなを落胆させたくない」
「メンバーはみんな納得してたし、コメント欄も応援の声が多かったような気がするぞ?」
「でも、全員がそうってわけじゃない。それに、私が一番私自身にガッカリしたの。あんな思いはもう嫌」
ストイックだな。動画で見ていた時以上に、彼女が本気で配信者をやっていることがわかる。
「なら、あいつと戦うといいよ」
僕は前方を指す。その先には、真っ赤に充血した目玉のようなものが浮いている。
『ゲイザー』と呼ばれているモンスターだ。奴は僕らの存在を確認すると、急激に迫ってきた。
「言っておくけど、手助けはしないからな」
「上等よ!」
美玲は地面を強く蹴り、宙に飛び上がってゲイザーに斬りかかる。
「はあああああああああああああ!!」
勢いよく振るわれる刃。――しかし。
「キエエエエエエエエ!!」
刹那、ゲイザーが目力を込めると、奴の目の前に火球が出現し、美玲に放たれた。
「……速いっ!」
美玲はなんとか火球を一閃して斬り伏せたが、衝撃を殺し切ることが出来ずに弾き返され、壁に激突してしまった。
「まだまだ……痛っ!」
起き上がろうとした時、美玲は肩を抑えた。
この前の攻略で怪我したところだ。そこまで経っていないし、そんなにすぐ治るようなものでもない。
「こんな傷……全然大したことない!」
美玲は再びゲイザーに向かって走り出す。ゲイザーは火球を1つ、2つと連続で放ってくるが、美玲はそれを躱す。
「<アイシクルフレイム>!」
双剣から放たれる、炎と氷の斬撃。それはゲイザーを十字に切り裂いた。
「はあ、久しぶりに強敵と戦ったから疲れた……もうギブ」
「いい戦いぶりだったね。僕の出る幕もなかったか」
「……嘘つき。あんた、私が気づかないとでも思ってた? ゲイザーは
……バレてたか。
「私が1対1で戦えるように残り2体を瞬殺しておいて、出る幕がなかったなんてことないでしょ。ちょっとムカつく……けど、ありがとう」
美玲は僕に礼を言うと、らしくもなく顔を赤らめてそっぽを向いた。
ちょっと前まで嫌な奴だったが、可愛いところがあるな。いや、容姿で言うと間違いなくかなり可愛いから今さらな話ではあるが。
彼女の配信のコメントには、少なくない数、彼女の見た目の可愛さを褒めるものがある。おそらくは男女どちらからも支持されているのだろう。
「ジロジロ見ないで。ヘンタイ」
「はいはい。ちょっとぼーっとしてただけだよ。そんなことより……次は僕も手加減しないよ」
僕が指し示した先――そこには、<観測者>で捉えた別のモンスターの姿があった。
「え、あれって……」
小動物ほどのサイズに、黄金色のボディ。
ゴールデンスライムだ。
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