第16話 合理的衝突!

 放課後、僕たちは星景丘ダンジョンにやってきた。


「ここが英夢くんがいつも行ってるダンジョンかあ。ダンジョンってどこも同じような感じなんだね」


「比奈は普段はどこのダンジョンに行ってるんだ?」


「普段って言うほど何度も行ってるわけじゃないけど……蒼坂台あおさかだいダンジョンだよ」


 蒼坂台というと、学院の最寄りから二駅ほど離れた場所だ。僕たちがいる星景丘は学院から最寄り駅の反対方向へ歩く必要がある。


「帰り道と逆になっちゃうけど、本当にいいのか? それに、どうしていきなり一緒になんて?」


 比奈からダンジョン攻略に誘われたのは初めてだ。それに、誘い方もダンジョン攻略の『手伝い』だったし。


「そろそろ定期試験でしょ? 授業はちゃんと聞いてるから、筆記の方は大丈夫だと思うんだけど……」


「問題は実技ってことか」


 実技はその名の通り、戦闘に関する試験が課されることになる。

 もちろん、これも成績に反映されるので、コツコツ準備をしておかないと痛い目をみることになる。


「それでダンジョン攻略ってわけか」


「うん! 最初の試験はやっぱり頑張りたいし、私も英夢くんみたいに強くなりたい! そのために、一緒に行った方がいいかなあって!」


 試験かあ。正直言って、あんまり興味がないなあ。

 強くなりたいという気持ちはあるけど……別にそれでテストでいい点を取りたいとは思わない。試験は赤点にならない程度であれば何点でもいい。


「よーし、今日は3層まで行っちゃうぞー!」


「やめとけって。この前の龍岡みたいになるぞ。……だけど、2層までなら行けるかもな」


 僕のレベルもだいぶ上がった。この前みたいに何かあった時でも、2層までなら守れるはずだ。


「やった! じゃあよろしくね!」


 僕たちはダンジョンの中へと足を踏み入れる。


 比奈のジョブであるパラディンは、ダンジョン攻略にはかなり有利なもので、ソロ・パーティのどちらでも活躍できて潰しが効く。


 成績も優秀なので、実力的には学年でもかなり上位に入るだろう。


「ハァッ!」


 比奈は声を上げると、その細身からは想像できないほどの強烈な一閃をモンスターに叩き込む。

 大盾を持ちながら片手剣でモンスターを吹っ飛ばすって……なかなかエグいことをしてるなあ。


 ジョブによる補正もあるだろうが、比奈自身もかなり武器の使い方が上手い。授業で習ったことを落とし込めている証拠だ。


「そういえば、比奈の加護ってなんなんだ?」


「私の加護は【絶対反射】。10秒間だけ、どんな攻撃も反射するの。私がパラディンを選んだのもその加護の影響!」


 ん……?


「どんな攻撃も10秒間……?」


「うん。前にコボルトたちの群れから攻撃を凌いだでしょ? あの時も使ってたよ!」


「……そうだったの?」


「だって、そうでもしなきゃあの大群を抑えられないよ。加護が切れたあとは大変だったんだから!」


 あれ、もしかして比奈って思ってる以上に才能がある?

 そんなに強い加護なんて、使いようがいくらでもあるぞ。


「なあ、ちょっとその加護を使ってみてくれないか?」


「え? でも、一回使うとクールタイムが必要で……」


「大丈夫。クールタイム中に何があっても僕が比奈を守る。だから頼む」


「しょ、しょうがないなあ……何があっても守ってくれるなら、まあいいけど?」


 比奈は何故か顔を赤らめながら、大きく息を吐いた。


「【絶対反射】」


 比奈が加護を発動する。――と、同時に僕は思い切り彼女に弓を引いた。


「比奈、絶対大丈夫だから動くなよ!」


 弓を放つと、矢が真っ直ぐに比奈に向かっていく。

 彼女の体に矢じりが刺さりそうになったその刹那。


 キーン!!


 金属音のような音が響いたかと思うと、矢が僕の方にめがけて戻ってきた!

 しかも放った時と同じスピードで!


「うわっ!?」


 一瞬慌てた僕だったが、矢は僕の頬スレスレを通過すると壁に突き刺さった。


「英夢くん!? いきなりどうしたの! さっき守ってくれるって言ったばっかりなのに!」


「破邪の腕輪を付けてたから比奈にも僕にも攻撃は当たらないよ。そんなことより……その加護、めちゃくちゃ強いぞ!?」


 10秒間という制限があるとはいえ、どんな攻撃も完璧に跳ね返してしまう。これは雑魚モンスター相手には大したことがないが、強いモンスターになればなるほど効力は高まっていく。


 何をしれっと重要情報を隠してるんだ……使い方次第ではジャイアントキラーになり得るぞ!?


「英夢くんに褒められた……? えへへ、ちょっと嬉しいね」


「気を抜くのは良くないが、自信を持っていいと思うぞ。試験でも使えると思う。使い方だけど――」


 その時、僕は背後にモンスターの気配を感じ取った。

 振り返ると――こっちに向かって走ってきてるのはスライムだった。


「なんだ、ただのスライムか」


 けど、なんだか体の色が他の奴と違うような――?


 不思議に思い、<観察眼>を発動しようとした瞬間。


「そこ、どいてーー!!」


 高い声が耳朶を打ったかと思うと、僕の体は衝撃で吹っ飛ばされた。


「痛たたっ……何だ?」


 起きあがろうとしたが、体が重くて動かない。これはまるで、人が上に乗っているような……?


「もう、邪魔しないでよ! ゴールデンスライムが逃げちゃったじゃない!」


 ん、本当に上から声が……? それに、なんか柔らかい?


 目を開けると、間近に人の顔があった。均整のとれた顔の女性だ。ツインテールになっている青い髪に、水面を映し出したような美しい水色の瞳――。


 なんか、見たことがあるような……この人、もしかして。


「ミライ?」

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