第17話 合理的封鎖!

 僕が名前を呼ぶと、彼女はふん・・と鼻息を漏らした。


「私のこと知ってるのね。でも……いい加減その手をどかしなさい!」


 手……? そういえばさっきから何か柔らかいものを掴んでる感触があるような……?


「……!?」


 自分の手の方に目をやると……僕が掴んでいたのは彼女の胸だった。


「ご、ごめん!」


「ま、いいわ。それよりどうしてくれるの!? ゴールデンスライムが逃げちゃったんだけど!」


 ゴールデンスライム? ああ、さっきのスライムのことか。


「ただの金色のスライムでしょ? 別に大して怒ることじゃ……」


「わかってないわね! ゴールデンスライムはレアなモンスターなの! 倒すと莫大な経験値が手に入るの!」


 そうだったの!?

 なるほど、彼女はゴールデンスライムを追いかけている途中で僕とぶつかったわけだ。


「ねえ、英夢くん!」


 比奈が僕の名前を呼ぶ。返事してあげたいが、あいにくミライの方がヒートアップし始めてしまった。


「責任取りなさいよ! 私は早く強くならなきゃいけないの!」


「そんなこと言われても、もう逃げちゃったし……あ、<観測者>で探してあげようか?」


「何よそれ! 感知系スキルのこと? そんなので見つけられたら苦労しないから!」


「ねえ、英夢くん! 壁が!」


 ……ん? 壁?


 ようやく視線を動かして比奈の方を見ると、そこには――、


 ――壁が出来ていた。


 ダンジョンの壁が、形成されている……? さっきまで道だった場所が徐々に壁になっている。

 道と天井を四つの辺と見立てたとき、それぞれの辺から壁が生えてきているようだ。道だったそれは壁の穴のようになりつつあり、もう比奈の上半身ほどしか見えない。


「なっ!? なんでいきなり壁が!」


「まずい、地形が変わってる!」


 ミライは慌てて起き上がると、壁の穴を手で広げようとする。しかし、穴は徐々に小さくなっていき――、


 ――やがて完全に閉じた。


「最悪! 出口に戻れなくなった!」


 僕も立ち上がり、さっきまで無かった壁に触れてみる。……間違いなくダンジョンの壁だ。壊せそうにない。


 そういえば、ダンジョンは来るたびに地形が変わっている。もしかして、その地形変動が今行われたのか?


「……ってことは、僕たち一生戻れない?」


「そんなわけないでしょ! 時間が経てば出口に繋がる道が開ける。それに、ここに壁が出来た代わりに他のルートで外に出られるかもしれないわ」


 ミライは辺りを見まわし、さっそく他のルートで歩き出す。


「あなた、学生よね? 私の側から離れないで。怪我されると面倒だから」


「なんか配信の時と喋り方違くない?」


「あれはあくまで役作りだから。それと、私の本当の名前は美玲みれい。プライベートではそう呼んで」


 ミライ改め美玲は、分かれ道で左右を確認し、右に曲がった。


「そっちは行き止まりだぞ」


「なんでわかるのよ。もしかして感知スキルでわかったって話? その冗談面白くないんだけど」


「本当にわかるんだよ。そこを右に曲がると、しばらく真っ直ぐの後に左に曲がることになって行き止まりだ。試してもいいぞ」


 僕の話し方を見て、美玲は訝しげに見つめてくる。


「あなた、何者? スキルだとしたら、学生の領域を超えてると思うんだけど。もしかして本当は学生じゃないとか?」


「学生だよ。1ヶ月前まではこんなこと出来なかった。……あと、僕の名前は英夢だ」


「じゃあ英夢。信じてあげるから私を案内してみてよ。その代わり、嘘ついてたらただじゃ済まさないから!」


 人使いが荒いなあ。まあ、それでも全く信用されないよりはマシだけど。

 本当なら今頃、比奈と楽しくダンジョン攻略をしてたはずなのに、気が重いなあ……。


 僕はため息を吐きながら、ダンジョンを歩きながら出口への道を探っていく。


 少し歩くと、前方にモンスターの気配を感じた。


「ちょっと待って、モンスターがいる」


 僕はいつものように弓を構え、矢をセットする。


「何やってるの? そんなところから用意しても意味ないわよ」


「意味はあるんだよ。ほら、こんな感じで」


 矢を放つと、【必中】の効果で矢が角を曲がり、モンスターに命中した。


「これが僕の加護だ。さあ、行こうか」


「ふ、ふーん。学生にしてはちょっとはやるみたいね」


 僕たちはそこからもダンジョンを歩き、出口に繋がるルートを探し続けた。


 ……しかし。


「こっちも駄目だ。……これで全部か」


「ちょっと! さっきから行ったり引き返したりしてばっかりじゃない!」


「行っても無駄なのがわかるからそうしてるんだよ」


 しかしこれは……少しまずいな。

 全部のルートを試してみたが、出口に続いているものはない。つまり、現状戻ることは出来ない。


 時間が経てばどこかしらのルートが通れるようになるだろうが、その時もいつになるかわからない。


「駄目だ。どうすることもできない」


「じゃあ要するに……閉じ込められたってこと!?」


 僕は美玲の表情を笑顔で見つめ、深く頷いた。

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