第15話 合理的成敗!
「英夢くん、どういう状況?」
「……なんてことはない。ただのカツアゲだよ」
おそらく、あの土下座をしているメガネの男――おそらくは1年生が、2年生に傭兵代を請求されているんだろう。
といっても、あの2年生は頼まれたわけじゃなく勝手にやっている。それも強引に話を進めただろうし、彼らが傭兵として役に立ったことは一度もないだろう。
だが、金などの対価を払ってトラブルを回避するのはこの学院ではよくあることだし、一つの生存戦略だと思う。現にこういう光景は何度か見たことがある。
この学院に弱者として入ってきた時点で、自分が標的にならないように生きていくしかない。僕は幸い、まだ目を付けられていないので、出来ればこのまま逃げ切って――、
「助けよう」
……ん?
「比奈。今、なんて言った?」
「助けようよ! 弱いものいじめなんてカッコ悪い! それに、いじめられている人もお金は大事なはずだよ!」
うん、わかるよ比奈。いじめはよくないよね、いじめは。
「だけど、僕らがわざわざ首を突っ込む必要はない。あれはあの生徒の問題なんだ、それにとやかく言うのは合理的じゃない」
「でも、誰だってお金を取られていいわけじゃないよ。同じ学院の生徒同士でそんなやり取りするのはよくないよ!」
比奈は本当にいい子だ。接してみると友達が多い理由がよくわかる。こうして、全く知らない相手に対しても義憤に燃えることができる。
「足りねえなら親の金でもなんでも盗んでくればいいだろうが! なんでそんなことも出来ないんだよ!」
「で、でももう10万近く納めてるじゃないですか! そんなことしたら……」
メガネの生徒が口ごもった瞬間、上級生の二人が彼を押さえつけた。
「足りねえなら、その分ストレス解消に付き合ってもらう。1000円足りないごとに1発……2万円だから20発だ」
1発1000円も貰えるのか。僕も殴られてこようかな。
なんて冗談はさておき。体格差からしても、あのメガネの生徒が20発も殴られて平気でいられないのは間違いない。
「英夢くんがいかないなら、私が行ってくる! あんなの絶対許せない!」
こっちもこっちで怒りが爆発しそうだし……うーん。
――しょうがないなあ。
「比奈はそこで待ってて。僕がやるよ」
僕はそう言うと、<隠密>で気配を隠す。
<隠密>は人間に対しても有効だ。攻撃を加えたら話は変わってくるが、そうでもなければ気付かれることはない。
僕は揉めている4人の間に入り、リーダー格の男が持っている財布をスって比奈の元へ戻った。
「……おい。こいつの財布見なかったか? もしかしたらまだ隠してるかもしれねえぞ」
「はあ? 財布ならさっきお前に渡しただろ?」
「いや、俺は持ってねえ。この短時間で失くすわけねえし……」
3人の上級生は辺りを見渡すが、財布はない。もちろん、僕の手の上にあるからだ。
「お前、何をした!? まさかどこかに隠したのか!?」
「い、いや……そんなことは……」
「チッ、めんどくせえ。おい帰ろうぜ。どうせ金も持ってねえんだし、相手するだけ無駄だわ」
「そうだな。お前、次までに用意しておけよ!」
僕や比奈が永久にこのメガネの面倒を見てやることは出来ない。だから、助けるのは今回だけ。
「これでいいか? 比奈」
「ありがとう。……でも、あの人はこれからもずっといじめられるの?」
「いいや、それはわからないよ」
僕は懐から、さらに3つの財布を取り出した。
さっきいじめていた上級生の財布、3人分。全部スっておいたのだ。
「この財布から10万円抜いてメガネの彼の財布に戻して……残った3人の財布は……」
僕は<矢生成>で作り出した矢に財布を括り付け、3つともさっきの不良たちに向かって放った。
僕が腕につけている破邪の腕輪の効果で、人には当たらない。彼らの目の前の壁に突き刺さるようにしておいた。
これだけしておけば、相当舐められない限りもういじめられることはないだろう。
あとは彼次第だ。
「……英夢くんってなんだかんだ言って優しいよね」
「おい、僕が優しいなんていうデマを言うのはやめるんだ」
「はいはい。英夢くんは合理的なんだよね」
そうだ。僕は合理的だ。
メガネの彼を助けたのは、比奈がいじめの現場に割って入って怪我しないために。比奈が怪我でもしたら僕の貴重な仲間が減ってしまう。
「英夢くん。私のわがままを聞いてくれてありがとう。すごくカッコよかった!」
……まあ、こうして感謝されるのも悪くないな。
「ねえ、英夢くん。わがままついでにお願いがあるんだけど……放課後、ダンジョン攻略を手伝ってくれない?」
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