第13話 合理的衝撃!

 ミライたちのチームは着実に前に進んでいく。

 1層、2層と攻略していくごとに、メンバーたちが徐々に高揚していくのがわかる。


 それにしても、このメンバーが集まるのは今回が初めてだろうにすごい連携だ。

 動きを見るだけで、かなり熟練した冒険者たちだということがわかる。


 クラスメイトたちがときどきダンジョン配信者の話をしているのは耳にするけど、確かにこれは面白いな。

 凄腕の冒険者たちがリアルタイムで技を見せつけていく。モンスターの強さが上がっていくごとに、惹きつけられてしまう。


 そのまま見続けていると、ミライたちはついに9層まで到達することができた。


「あと少し! ついにゴーレムと戦える!」


 次から次へと襲いくるモンスターたち。それに抗う冒険者たち。

 その時、事件が起こった。


「ミライちゃん危ない!」


 一瞬の間。その時、ワニのようなモンスターがミライの肩に噛みついた。


「痛っ……!!」


「離れろ!」


 すぐさまアオイがミライの元に走り、剣を振るった。

 ミライに噛み付いていたモンスターは絶命し、彼女の肩から離れた。しかし……。


「酷い傷だ……これはここじゃ治しきれない」


 ミライの肩からは滝のように血が流れており、服も真紅に染まり始めている。


「大丈夫よ、このくらい……!」


「無茶だ。今のメンバーではその傷は治せない。すぐに地上に戻らないと後に弊害が出る」


 ミライは平気そうな口ぶりだが、彼女の表情は苦痛に歪んでいる。

 実際、アオイの言っていることは正しそうだ。


「私はどうだって構わない! そんなことよりゴーレムを……」


「倒せると思うのか? 今回のメンバーは、脱落者が出ないように少数精鋭で構成した。ミライを守りながらゴーレムに挑んだところで勝てる確率はぐっと下がるぞ」


「でも……だったら、私が脱落する。ここまで来たんだし、皆は先に進んで!」


「そんなことをしても意味ないだろう。私たちはミライがゴーレムを倒すところを見に来たんだぞ?」


 アオイがそう言うと、他のメンバーたちも頷いた。


「ミライちゃん! 今回は諦めよう!」


「どうせまた次があるんだからよ! その時は万全の状態で挑もうぜ!」


 メンバーたちから温かい声が投げかけられる。ミライは一瞬、悔しそうな表情をした後に頬を緩めた。


「……皆、ありがとう。わかったよ、今回は潔く諦める」


 ミライは画面の方を見ると、始まった時のようなテンションで話し始めた。


「リスナーの皆! ここまで見てくれてありがとう。今回は残念な結果になっちゃったけど……約束する。絶対に、次こそはゴーレムを討伐してみせるから!」


 ミライの言葉に合わせて、メンバーたちが拍手をする。動画のBGMが切り替わり、締めの雰囲気になり始めた。


「それじゃ、また見てね! 未来はいつか、手の中に!」


 …………。


 ダンジョン攻略ってこんなに大変なのか……。


 動画を見終わった後、僕は素直にそう思った。


 いつも一方的に攻撃して、隠れて移動してるから全く想像ができていなかった。……しかし、一般的なダンジョン攻略がどういうものなのかがよく分かったと思う。


 プロの冒険者や配信者が、20人で束になってもゴーレムまで辿り着かないのか。そりゃそうだよな。


 僕の感覚は麻痺している。改めて考えると、僕はどうやら規格外の存在だったらしい。


 ゴーレムを単独撃破。これが僕に出来てミライたちに出来ないことの要因の多くは、間違いなく加護の【必中】にあるだろう。


 現状、アーチャーを含めても、モンスターを目視せず攻撃を当てる方法はないに等しい。

 これは、例え<隠密>などのスキルで自分の気配を消しても不可能だ。攻撃の方向から位置がバレるので限界がある。だから多くの冒険者は正面からモンスターと戦い、それに適した戦略を取る。


 一方で、僕は上の層から攻撃ができるので、層を超えてでも来られない限りはノーリスクで戦える。だからソロでも問題なし。


 ゴーレムとタイマンで殴り合って勝てるとは微塵も思わないが、この戦法でレベルを上げ続けた先、いつかそれもできるようになるだろう。


「……ゴーレムを倒したことは黙っておいた方がいいかもな」


 そもそも言っても信じてもらえないだろうが、バレるとまた面倒そうだ。特にアーチャーである僕のレベルが高いことが知られたら、また風当たりが強くなる気がする。


 僕のここ1ヶ月の躍進を知っているのは比奈だけだ。……明日、口止めしておこう。

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