第12話 合理的動画配信!
「はあ、疲れた。今日もなかなかハードだったな……」
学生の一日は多忙だ。朝早起きして登校して、夕方近くまでしっかりと授業を受けて、放課後はダンジョンでレベル上げ。
特に今日はレベルが一気に4も上がったし。……この上がり方もはっきり言ってバグだよなあ。
「そういえば、あのモンスターって何なんだろう?」
この先、10層以降にはあれくらいのモンスターがうじゃうじゃいるんだろうか。だとしたらはっきり言って無理ゲーだ。
もしかして、10層まではチュートリアルで、それ以降はパーティ必須なんてことはないよな。だとしたらアーチャーは極めて不利なんだけど。
「こういう時は調べるに限るよな」
僕はスマホを起動し、あるアプリを開いた。
『ブレイブストリーム』。動画投稿アプリの名前だ。
このアプリには誰でも動画を投稿することができ、中でも人気なのはダンジョン配信だ。
有名な冒険者やダンジョン配信者が投稿しており、彼らからの情報を動画で見られるので、検索ツールとしても有効。
……だけど、実際どういう人が人気なのかはあまり詳しくない。
「とりあえず、『ダンジョン10層』で検索してみるか」
アプリの検索バーに文字を入力すると、検索候補がいくつか出る。
その中に、目を引く文字があった。
「フロアボス?」
『ダンジョン 10層 フロアボス』。気になった僕はその文字で検索してみることにした。
一番上に出てきた動画は、美人な女性と赤い文字が大きく映るサムネイル。
【衝撃】
「あなたの視線を未来永劫ロックオン! ミライです!」
動画を開くと、サムネイルに映っていた青髪の女性がお決まりっぽい挨拶を始めた。
これ、毎回やるのか? 大変な仕事だな。僕なら耐えられない。
このチャンネルの名前は『ミライ☆on air』。登録者は5万人。中堅と言ったところか。
青髪の女性は目に星を宿している。どうやら彼女がこのチャンネルのメインのようだ。
動画は生配信を再編集したものらしく、見やすいようにBGMや効果音、字幕が調整されている。
「じゃあ、さっそくだけど今日の企画! 『フライトフェザー』のアオイちゃんと私のリスナーの合計20人でフロアボスを狩りに行くわよ!」
あれ、ちょっと待って。合計20人?
「初めてのリスナーに向けて説明しておくと……フロアボスっていうのは10層以降、20層、30層と10層進むごとに現れると言われるボスモンスターのこと! まあ、公式なダンジョン最高到達記録が27層だから、その真偽は定かではないんだけどね」
なるほど、10層以降はずっとあのレベルのモンスターが出てくるんじゃなくて、たまたま強いモンスターと当たっただけってことか!
それはひとまず安心だ。それにしても、27層以降に行った人ってまだいないのか……。
「で、今回は10層のボスのゴーレムを倒しに行くんだけど、戦力的にどうかしら? アオイちゃん!」
ミライが横に立つ女性に話を振る。
アオイと呼ばれる女性……この人も動画投稿者なのだろうか。彼女はどちらかというとクールな雰囲気で、黒い髪をポニーテールにしている。
「……こちらの方が少し優勢ではある。だが、メンバーのレベル的にほぼ五分と言って間違いないだろうな。気を抜けば死人が出るぞ」
「そうね。ゴーレム戦はかなりタフ。中途半端な気持ちや実力で挑んで、亡くなった配信者も少なくないわ」
「ゴーレム戦だけじゃない。道中のモンスターも、特に9層はかなり強い。連戦を耐え抜く前衛の精神力と、絶え間ない後衛のサポートが必要不可欠だろう」
確かに、道中のあの量のモンスターを正面から倒すのは少人数では難しいだろう。
……あれ、もしかして僕ってかなりヤバいことしてる?
「でも、今日の私たちならイケるわ! 実力第一で選抜した最強リスナーたちもいるしね!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ミライの後ろに立つ屈強そうな冒険者たちが声を上げる。
男女ともかなり強そうで、武器を見る限り様々なジョブの冒険者が集められているようだ。だがアーチャーはいない。
「今回、応募してくれたメンバーはかなり念入りに選んだわ。ゴーレムは岩石で出来た屈強な肉体を超えないと話にならない。だから、アーチャーやグラップラーみたいに攻撃が弾かれるジョブは今回はいないわ」
「さらに、ゴーレムは圧倒的な体格で絶え間なく攻撃してくる。前衛と後衛の絶え間ない連携が必要だ。だから、そういった意味でも前や後ろに出すぎるジョブは今回は不向きだ」
「そういうこと! その分選りすぐりになっているから期待も大ってことで! それじゃあ実際に潜っていくわ!」
ミライがウインクをすると、カットで場面が変わり、映像はダンジョンの内部になった。
この後の展開を、僕は全く予想できていなかった。
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