第11話 合理的強敵!

「今ならどんな敵でも楽勝な気がする!」


 僕は下の層に向かって矢を撃ちまくる。


「オラオラオラオラッ!」


 階段を降りた後も、撃ちまくる。ダンジョンの床はたちまちドロップアイテムだらけになっていく。

 アイテムを拾いながら歩いていると、10層に続く階段を見つけてしまった。


「す、すげー……もう見つけちゃったよ……」


 さっきまで9層のモンスターにビビってたのに、もう10層が目の前だ。

 このままグイグイ行きたいが、ここで調子に乗らないのが僕のいいところだ。下の層に向けての<第六感>は欠かさない。


「ん……な、なんだこれ!?」


 10層の様子を見た僕は、驚かずにはいられなかった。


 10層にいるモンスターは、これまで感じたことがないような強大な気配を放っていたからだ。


 今までのモンスターの気配が一気に矮小なものに感じられるほどだ。まだ実物を見たわけじゃないのに、心臓の鼓動が高まっている。


 大きさは3メートル……いや、それ以上はあるんじゃないか? 人型で筋骨隆々……というよりは、体が鉱物で出来ているようだ。


 これは馬鹿でもやめておくレベルだな。ここまでの敵とは圧倒的に格が違う。ゲームで言うならボスレベルだ。


 よほどの安全策でも用意されていない限り、戦うのはやめた方がいい。


「まあ、僕は安全だからやっちゃうんですけどね!」


 9層の階段から、下に向かって矢を放つ。


 幸い、10層にはこいつ以外の気配はなさそうだ。だから、心置きなくこいつを攻撃できる。


 3本の矢が敵の体を貫通し、二撃目を決める。これまでならモンスターを即死させるこのコンボはーー、


「……全然効いてないぞ!?」


 敵モンスターの気配が消えることはない。多少はダメージも入っているだろうが……やはり規格外。


「まだまだッ!」


 1回か2回当たったくらいでは大したダメージにならない。だったら、数打つだけだ!


 矢を連続で撃ちまくる。5回目の攻撃が敵の膝を貫いた時。


 ドゴオオオオオオオオ!!


「じ、地震!?」


 違う! モンスターが膝を付いたんだ。それだけでこの衝撃って、どんなフィジカルだよ!?


 だが、勝機は見えてきた。着実にダメージは入ってる。あとはこのまま撃ちまくれば……!!


「矢が尽きるのが先か、お前が死ぬのが先か、勝負だ!」


 手持ちの矢を全て取り出すと、僕は次から次へと矢を撃ちまくる。


 モンスターは既に体勢を崩しているため、矢鱈目鱈に上半身をばたつかせる。

 しかし、矢はモンスターにはたき落とされることなく、むしろ着実に体を貫いていく。


 確かに手応えを感じたのは、<矢生成>で4本目の矢を作ろうとした時。モンスターは両膝とも崩れ落ち、両手を地面について悶え始めた。


 いける……! このまま押し切るぞ!


 ついに、僕は<矢生成>の10本目の矢に手をかけた。


「これで最後だ!」


 祈るような気持ちで、矢を10層に向けて放つ。

 まるで燕のように空を切り、矢が突き進んでいく。最後の一撃はモンスターの額を貫き――、


「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 とどめの一撃となった。


 ゴゴゴゴゴゴゴ、という地響きのあと、まるで爆発でも起きたような音が下から聞こえてくる。


――


 レベルが14に上がりました。

 スキル<第六感>が<観測者>に変化しました。


――


「……勝ったん、だよな?」


 僕は勝った。レベルが一気に2も上がったことがその証拠だ。


 ただ、あまりにも激しい衝撃だったので、少し心配でもある。

 モンスターの気配がないことを確認し、僕はおそるおそる階段を下りる。


「…………!」


 初めて見る10層は、他の層のように迷路になってはおらず、広い空間だった。

 そんなだだっ広い空間一帯に、巨大な岩石が固まって落ちている。


 いや……ちがう。この岩石こそが僕がさっきまで戦っていた相手だ。


 巨石だと思っていたそれは、よく見るとまるでロボットアニメに出てくる機体のようになっていた。

 こんなデカい奴が相手だったのか……ますますこんな怪物を倒したという事実が現実味を失っていく。


 だが、僕は確かに勝ったんだ。入学からわずかな期間で、ついに10層を攻略した。


 それにしても、こいつは世間では一体どれくらいの強さなんだろうな?

 僕がノコノコ対面で戦いを挑んでいたら一瞬で叩き潰されていただろうし、相当強いはずだ。


「さて、矢を回収して帰るか……ん?」


 矢を拾い集めようとしたとき、足元に何かが落ちているのを見つけた。

 それは、シルバーのネックレスだった。


 一見するとただのファッションアイテムだが、ところどころ黒く変色しているし、何よりオーラが禍々しい。


「多分、レアアイテムだよな……ちょっと見てみるか」


 <観察眼>を発動すると、その仔細はすぐにわかった。


――


 破壊者のネックレス レアリティ:スーパーレア


 このネックレスを装備すると、攻撃の命中率が半減する代わりに、攻撃の威力が倍になる。


――


「は、はは……」


 僕は思わず乾いた笑いを浮かべてしまった。


 スーパーレアは、レアの一個上の等級だ。売る場合、レアアイテムよりもワンランク上の査定額を付けてもらえることが多い。

 だがそれ以上に……僕が笑ってしまった理由は効果にあった。


 『命中率が半減する代わりに、攻撃の威力が倍』って……僕の攻撃、必中だからデメリットないじゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る