第9話 合理的デート!

 その後、僕たちは無事にダンジョンから抜け出すことが出来た。


 迷子になった(ことにした)僕は先生から注意を受けるだけだったが、龍岡は謹慎だという。

 あいつのせいで怒られたのは気分が悪いが、成績に支障が出ることもなかったし、まあいいとしよう。


 全ては一件落着。だが、僕の心中は穏やかではない。なぜなら――、


 今日が週末……比奈とのデートの日だからである!


 弱ったな……女の子と二人でどこかに遊びに行くなんて初めてだ。

 とりあえず集合場所は近くの商業施設にしたけど、果たしてこれで合ってるんだろうか……?


「ごめーん! 英夢くん、お待たせ!」


 しばらく待っていると、お約束のような一言とともに比奈がやってきた。


 普段は制服に身を包んでいる比奈が、今日はカジュアルな服を着ている。

 上は白いニット地の服で、下は……確かフレアスカートという名前だったような気がする。


 色合いのチョイスも、比奈の明るい雰囲気や清楚系の印象を良くしている。


「合理的な服のチョイスだな」


「それはつまり褒めてくれてるってこと? ありがとう」


 嬉しそうに微笑む比奈。まるで蕾が花開くようだ。


 比奈と学院で話すようになってから、彼女が想像以上に多くの生徒の視線を集めていることに気づいた。

 彼女は控えめに言って美人だ。今、私服の彼女はいつも以上に周囲を惹きつけているのがわかる。


「なあ、あの子可愛くねえ? 俺、声かけてみようかな……」


「やめとけよ。あの子の横に男いるじゃん。あれが彼氏なんだろ」


「いやいや、あんな美人とあの男が釣り合うわけないだろ! だって明らかに陰キャっぽい見た目してるし、ホームレスみたいな服着てるじゃん!」


 ……あの通行人、僕の服がホームレスみたいだって言わなかったか?


「まずどこ行こっか。カフェでもお喋りでも――英夢くん、どうかした?」


「比奈。正直に言って欲しい。僕の服装って変かな?」


 そう聞くと、比奈は少し考え始める。


「……そうだね。英夢くん本人はともかく、その服は変だと思われてもおかしくないと思う」


「ど、どの辺りが!?」


「その服、多分だけどずっと着てるよね? 全体的によれてるから汚く見えるんじゃないかな」


 確かに、この服は中学の時から着ているやつだ。改めて見ると、確かに汚く見えてきた。


「でも、まだ着れるし……それに、同じ服を着続けた方が安く済んで合理的じゃないか?」


「確かに価格面では合理的かもしれないけど……それって、服のパフォーマンスが考慮されてないよね」


 な、なんだ!? なんだか比奈から神々しいオーラが出ているような!?


「例えば、高級料理に髪の毛が入ってたらそれだけで食べられないでしょ? それと同じで、服はしわとか汚れがあると清潔感がないように見えるの。そういう意味だと、古い服は定期的に新しくした方が合理的だと思わない?」


 す、すごい! なんという合理性! 反論の余地がまるでない!

 最初は比奈のことを合理性の欠片もないと思っていたが、僕の目が節穴だったと言わざるを得ない。


「比奈の言う通りだ。そこでなんだが、服を選ぶのを手伝ってくれないか?」


「オッケー! じゃあまずは服を買いに行こうか!」


 ここでデートの場所を商業施設にしたのが功を奏した。

 僕たちは比奈がよく行くという服屋にやってきた。


「英夢くん、どう?」


 比奈が選んでくれた服を試着室で着てみる。鏡を見てみると、そこに立っている自分はまるで別人のようだった。


「凄いな。シンプルなアイテムばかりなのに、一気によくなった……」


「英夢くんは素材がいいから、シンプルなシャツとパンツでも綺麗にまとまるね。やはり私の目に狂いは無し!」


 比奈に選んでもらった服を買った後、僕たちは近くのカフェに入った。


「さっきはありがとう。代わりと言ってはなんだけどここは僕が出すよ」


「ううん。それなら私だって、英夢くんに命を助けてもらったし。お互い様ってことで」


 比奈はアイスのカフェラテをストローでチューっと吸う。


「ところで……英夢くんってなんであんなに強いの? 昔からダンジョン攻略をしてたとか?」


「いや、ダンジョンに入るようになったのはここ1カ月くらいだよ」


 僕は<直感>を習得してから、どのようにしてレベルを上げていったかを話した。


「じゃあ、英夢くんは1週間でレベル3から10まで急成長したってこと? なんか現実味がなさすぎて……」


「まあ、それは僕もそうだよ」


 レベルが一週間で一気に7も上がるなんて、普通に考えてありえない話だろう。

 僕が驚いたくらいなんだから、ましてや比奈は信じられないだろう。


「でも、英夢くんが強かったおかげで私は助かったわけだし……あの時の英夢くんはかっこよかった。だから信じるよ!」


 比奈はお人好しだ。こんな僕の言うことも信じてくれるし、僕との話も楽しそうにしてくれる。

 だが、そこに甘えて歩みを止めるほど僕は非合理的じゃない。


 あの日、コボルトたちに囲まれた時、勝てるかは危ない賭けだった。実際、大剣を使わなければ負けていたかもしれない。

 次また自分や比奈の身に危険が振りかかった時に対処できるよう、もっと強くならないと。

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