第8話 合理的ヒーロー活動!

「英夢くん! 助けに来てくれたの!?」


「比奈はそっち抑えててくれ! こっちは僕が何とかする!」


 比奈と背中合わせの形で立ち、襲い来るコボルト達に向き合う。

 前後合わせて、ざっと15体はいるな……かなり厳しい。


 刹那、一体のコボルトが飛びかかってきた!


「〈合理的ストレート〉!」


 腕に噛みつこうとしてくるコボルトの横面に、貧相な腕をした僕のグーパンチが叩き込まれる。

 コボルトは衝撃で宙を舞い、地面を何度かバウンドした後、絶命した。


「す、すごい! 英夢くんってこんなに力強かったの!?」


「冗談じゃない。これが限界だよ」


 これまでレベルを上げてきた時とはまるで違う。相手は僕の存在に気づいていて、隠れてチクチクなんて出来ない。

 おまけに僕はアーチャーだ。肉弾戦でこの数相手に余裕綽々とはいかない。


「おい龍岡。お前、前衛職なんだろ? なんとかしてくれ」


「あ、あ、あ……」


 こいつ……気絶してやがる。

 何が『俺が守るから大丈夫』だ。一番役に立ってないじゃないか!


「英夢くんごめんね、こんな危険なことに巻き込んで……」


「巻き込まれたのは比奈もだろ。それに……これは合理的な手段なんだ」


「合理的な手段?」


 僕はコボルトたちをいなしながら、明晰な頭脳をフル回転させる。数秒後、僕の算盤は完璧な理論を構築した。


「比奈。君は僕とパーティを組んでくれる貴重な人間だ。これから先、僕は自分一人で倒せないような敵と戦うことになる。そんなとき、君は僕にとってレアな存在になる!」


「何の話!?」


「だから、ここで君を守るのは合理的だろ!? つまり、ここに踏み込むのはベストな選択ってことだ!」


「色々言ってるけど……要は普通に助けてくれてるだけだよね!」


 違う、言いがかりだ! 僕がそんな非合理的な判断をするわけないだろ!


「グルルルガァッ!」


 飛びかかってくる2体のコボルト。これはパンチじゃ無理そうだ。


「ちょっと借りるぞ!」


 僕は龍岡から大剣を拝借し、思い切り振り回す。

 ズバッという爽快感のある音が鳴り、2体のコボルトたちは胴体を真っ二つに切り裂かれる。


 さすがに大剣の適性があるジョブと比べると剣さばきは見劣りするな……だが、レベル差でなんとか対応できている。


「英夢くん、こっちもお願い!」


 完全防備の構えで時間を稼いでいた比奈だが、コボルトが波のように押し寄せており、もう限界そうだ。


「ナイスだ! あとは任せろ!」


 ぐるりと向き直り、大剣を持ち直す。

 もしかして、スキルを応用すればあれ・・もできるんじゃないのか?


「<属性付与・炎>!」


 スキルを発動すると、なんと大剣が炎を帯び始めた。

 予想通り。アーチャーはこういうときに潰しが効く!


 まるでバリケードに波打つゾンビのようなコボルトたちに、炎の一撃を叩き込む。

 すると、コボルトは全身を炎に焼かれてその場に崩れ落ちた。


「さて、まだやるか?」


 炎を見て、残った半分程度のコボルトたちは狼狽始める。自分たちが劣勢だと悟ったようだ。


「ガ、ガウ!!」


 それでも、コボルトたちは決死の覚悟で戦うことを選択したようだ。


「なら、付き合ってやるよ。いくぞ、比奈!」


「うん!」


 僕たちはコボルトの群れに正面からぶつかり合った。それはそれは正々堂々と。

 大剣と盾でコボルトを跳ね返すこと数分。


「――これで終わりだ」


 最後のコボルトを切り伏せた僕は、そう呟いた。


「か、勝っちゃった……夢じゃ、ないんだよね?」


「夢じゃない。僕たちの勝ちだ。辛勝ではあったけどね」


 はあ。つい最近、ハラハラする戦いはもうしないと誓ったばっかりだと言うのに……しかも、相手はまたコボルトとは皮肉なことだ。


「英夢くんっ!」


 刹那、比奈が僕に抱きついてきた。

 柔らかい感触と、鼻腔に漂ってくる花のような香りーー心臓が大きく跳ねるのを感じた。


「や、やめろ! まだ近くにモンスターがいるかもしれないだろ!」


 嘘だ。<第六感>でモンスターがいないことはわかっている。


「だって、怖かったんだもん……」


「……わかったよ。じゃあそのままでいいから帰ろう。そこの役立たずも連れて」


 僕は左手で龍岡を引きずり、右手で比奈と手を繋ぎながら2層から1層へと戻っていく。


「……英夢くん、助けに来てくれてありがとう」


 歩いていると、比奈がポツリと呟いた。


「僕も一人にしちゃって悪かったよ。次からは迷わないようにする」


「あの時、なんで割って入ってくれたの? 勝てるかわからないなら、見捨てればよかったのに」


「言っただろ。君は僕にとって特別な存在なんだ。助けた方が合理的だと判断したまでだよ」


 ……まあ、実際はあの理論は後付けで、助けに行ったのは自分でもなぜかはわからない。

 僕としたことが、まだまだ合理性が足りていない。修行が必要だな。


「ただ、フォーエバーフレンズは辞めような? あれだけはむず痒くなるから」


 そう言って横を見ると、比奈はなぜか顔を真っ赤にしていた。


「……うん。私も、英夢くんとはずっと友達・・じゃない方がいいかも」


 ん……? なんか、今の言い方に違和感があったような?

 まあ、納得してくれたならよかった。


「ねえ、英夢くん!」


 さっきまでしおらしかった比奈は、今度は思い立ったような表情で僕の名前を呼ぶ。


「週末、空いてる!?」


「いきなりどうした……? まあ、空いてるけど」


「だったらさ、一緒に遊びに行こうよ!」


 一緒に、遊びに……。

 僕の合理的思考が、その言葉を解釈した結果。導き出された別のワード。


 それはデートなのでは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る