第7話 合理的追跡!

 今、2層に行くって言ったのか?


 今回の実習は1層のモンスター退治のはずだ。2層に行く必要はない。

 それに、レベル4で2層に行くのは危ないんじゃないだろうか。あの日のコボルトの記憶が蘇る。


「え? でも、2層なんて……」


「さっき下に続く階段を見つけたんだよ。少しだけ行ってみないか?」


「英夢くんのことも探さないといけないし……」


「少しだけなら大丈夫だよ。弱そうなモンスターを倒してドロップアイテムを持っていけば加点してもらえるかもしれない」


 比奈はさっきまでの元気が嘘みたいに消えている。それもそうだ、こんな危険な誘いに乗るメリットがない。


「大丈夫、何かあったら絶対に俺が守るから! 来てくれないなら俺一人でも行く!」


 そう言うと、龍岡はずんずんと先に進んでいってしまう。


「駄目だよ! ちょっと落ち着こう!?」


 こうなると比奈は付いていくほかない。

 龍岡、何がしたいんだ? 心霊スポットに来てるんじゃないんだぞ。ドキドキを味わおうとしているのか、はたまた頭がおかしいのか……。


 何にせよ、二人を放置しておくのは怖い。このまま着いていったほうがよさそうだ。



 前に前にと進んでいく龍岡と、嫌そうに着いていく比奈。

 しばらく歩いた後、龍岡がある空間で立ち止まった。


「ほら、ここだよ。階段」


 奴の目の前には2層に続く階段がある。

 龍岡は立ち止まることなく階段を踏みしめる。2層にたどり着くと、辺りをキョロキョロと見回し始めた。


「ねえ、戻ろうよ……さすがに2層は危ないって」


「大丈夫だよ。俺、何回か2層に来たことがあるし。ちょっとモンスターを倒して帰るだけだよ」


 二人はそのまま何度か角を曲がり、モンスターを探す。

 だいたい2分ほどだろうか。龍岡が足を止めた。


「お、モンスターだ!」


 彼の目の前にいるのは、小さな犬のような生き物だった。


「可愛い……けど、これもモンスター?」


「わからないけど雑魚に違いない。ここは俺が!」


 龍岡は背負っていた大剣を手に取ると、震えている小さな犬に向かって振り下ろした。


「オラァッ!!」


「キャイイイイイイイイイイイ!!」


 血しぶきが上がり、モンスターが真っ二つに叩き切られる。

 モンスターの断末魔を聞き、比奈が『ヒッ』と小さく悲鳴を上げた。


「ほら、2層のモンスターなんて大したことないんだよ! 出来ればもう少し歯ごたえがいい奴がよかったけど……」


 龍岡が自慢げに語り始める。

 その時、俺は違和感に気づいた。


 これはまさか……そういうことか!?


「ねえ、何か聞こえてこない?」


「ハハハ! 星翔さんは怖がりだなあ。そんなことあるわけ……」


 いや、確かに聞こえる。たくさんの数の足音が。そして、地を揺らすような唸り声が。


「ね、ねえ見て!」


 比奈が指した先。角を曲がって現れたのは――複数のコボルトだ。


「な、なんでこんなにたくさんコボルトが!?」


「もしかして、さっき倒したのがコボルトの子どもだったとか!?」


 モンスターはダンジョンの壁からスポーンするから、さっきのが本当にコボルトの子どもだったかは定かではない。

 だが、間違いなくさっきのモンスターがコボルトたちを引き寄せていることは間違いない。


 ダンジョンには長いこと潜っていたが、こんな現象はなかったはずだ。

 もしかして、僕も同じことをしたが、<隠密>で姿を隠していたから位置を特定されなかった?


「ほ、星翔さん! 逃げよう!」


「無理だよ、だってこっちにも……」


 コボルトは、比奈たちが歩いてきた道からも姿を現した。


 道は一本。前からも後ろからもコボルトの大群が来ている。

 絶体絶命。コボルトたちは少しずつ二人ににじり寄っている。


「どうしよう……この数じゃ勝てない!」


「お、落ち着け! 俺が、俺がなんとかするから!」


「なんとかするって、どうやって!?」


 龍岡から答えはない――否、無言は『不可能だ』ということを示している。


 ダンジョンで攻略する上で起こることは、全て自己責任だ。


 最初に2層に潜った時、僕はコボルトに殺されかけた。もし、あそこで僕が負けて死んでいたとしても、それは変わりない。

 僕が合理的であることにこだわるのは、どんなことでも自分で納得して、やれるだけのことをやってから死ぬためだ。


 そういう意味で、龍岡と比奈がこの状況に置かれたのも自業自得だ。

 自分の実力に不相応な場所には行くべきじゃないし、行くならリスクを考慮しておくべきだった。


「ほ、ほほほほ、星翔さんは下がって! お、おおお、俺の後ろに――」


「後ろからも来てるんだって!」


 コボルトの軍勢はすぐ近く。今から矢でサポートしてもこの数は間に合わない。


 まったく二人とも合理的じゃない。合理的ではない――が。


「本当に

、世話が焼けるな!」


「英夢くん!?」


 ――このまま見捨てるのも気分が悪い!

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