第6話 合理的迷子!

「ねえ、英夢くんはダンジョンに行ったことある? 私は何回か行ったことあるから頼ってくれていいよ! ねえ、聞いてる?」


 しかし困ったな……まさか比奈とペアでダンジョン実習とは。


 つい一週間前に不良に釘を刺されたばかりなのに、そんなことを知られたら間違いなくまた絡まれる。

 比奈は俺のことを友達と思ってくれているようだが、関わっていると僕の学院生活から平穏が失われてしまう。


 ただでさえアーチャーというだけで目を付けられやすく、理不尽な目に遭うというのに……これ以上の悪化は防ぎたい。


「それでは今からダンジョン実習を始めます! 各班、1層のモンスターを倒して手に入れたドロップアイテムを3つ確保したら戻ってきてください!」


 1層のモンスターを3体倒したら達成か……初めてのダンジョン実習だから、誰でも達成できる難易度になっているのだろう。


「ちなみに、比奈のジョブは?」


「私はパラディン! レベル3だから2層のモンスターならギリギリ戦えるって感じ!」


 パラディン……前線で味方を守りながら戦う適正か。

 防御に特化しているとはいえ、並以上には対面でも戦えるだろう。


「英夢くんのジョブは?」


「僕は……アーチャーだ」


 アーチャーを明かすのは少し抵抗がある。もし態度を変えられたらどうしよう。


「へー、アーチャーなんだ! 私たち、前衛と後衛でいいチームだね!」


 ……あれ、意外と馬鹿にされない?

 アーチャーだと明かして態度を変えられなかったのは初めてかもしれない。不思議な感覚だ。


「じゃあ、私たちも行こっか! フォーエバーフレンズ、レッツゴー!」


「……その掛け声はやめないか?」


 苦笑いをしながらダンジョンに進もうとしたその時。


「おい影山。ちょっと面貸せよ」


 僕の肩がグッと強い力で掴まれる。振り返るとそこには――この前の不良がいた。


 こいつも同じクラスだったのかよ!?


「星翔さん。ちょっとこいつ借りてくわ。なに、ちょっと平和的に話すだけだよ」


 何が平和的にだよ。この前は小突いてきたくせに。

 とはいえ、ここで拒否するという選択肢はなさそうだ。仕方ない、少し話してやるか。


 俺たちは比奈から見えない場所に移動し、向き合う。


「なんだ。言っておくけど、今回の実習は偶然隣の席だからペアになっただけだぞ」


「わかってる。単刀直入に言う。お前、ダンジョンに入ったら星翔さんとはぐれろ・・・・


 ……は? 何を言ってるんだ?


「俺は星翔さんと楽しくダンジョン実習と行きたいわけ。だからお前は一人でどっか行ってろよ」


 なるほど、さてはこいつ比奈のことが好きだな?

 そうならそうと言えばいいのに、いちいち回りくどい言い方をした上に俺に迷惑をかけてくるのはやめてほしいな。


「でも、お前にもペアがいるだろ?」


「いいや。今日はたまたま・・・・休みなんだよ。っていうかお前が気にすることじゃねえから。端の方でスライムでも狩っててくれや」


 こいつ、ペアの生徒に欠席を強いたな。おそらくは今朝見たような手口で。


 突然の申し出。こいつの言い方は気に食わないが、意外にも悪くはない。

 僕が比奈と一緒にいると、こいつはずっと付きまとってくる。そうなると僕の学院生活は脅かし続けられてしまう。


 だが、こいつの要求を呑めば、少なくとも僕が比奈に対して馴れ馴れしいという疑惑は晴れる。

 それに、1層のモンスターを3体倒すくらいなら一人でも出来るし、僕の場合は弓チク戦法の方が楽だ。


「わかった。そうするよ」


「それでいいんだよ。じゃ、よろしく頼むぜ陰キャくん」


 僕たちは納得し、それぞれダンジョン実習を開始した。



「うーん、手前の方は皆が探してるみたいだね。私たちは奥の方を探してみようか」


 ダンジョンに入ると、中では他の生徒の声が反響している。

 <第六感>で感知してみても、確かに手前は生徒が集中しているようだ。


「ねえ、英夢くんはダンジョンは初めて?」


「まあそんなところかな」


 いきなりレベル10なんて言っても信じてもらえないだろうし。


「そっか! じゃあもし危ないと思ったらすぐ言ってね! 私が守ってあげるから!」


 比奈は金色の模様が入った白い大盾を構えて笑った。

 比奈の笑顔は可愛い。彼女が笑うのを見て嫌な気持ちになる人はいないだろうし、実際それで男女問わず彼女は人気者だ。


 それに、改めて考えると比奈は美人だ。おそらくはクラス――いや、学院でも1、2を争うレベルだろう。

 美人で優しくて人気者。僕とはまるで正反対だ。比奈と一緒にダンジョン攻略というのは、それだけで羨望の眼差しでみられるようなことなのだろう。


 ――まあ、僕には関係ないけど。


「<隠密>」


「ん? 英夢くん今何か言――あれ、英夢くん?」


 スキルで気配を消した。これで比奈とはぐれることには成功。

 さて、後はその辺りをフラフラして、適当にモンスターを3体狩ったら出口へ戻るか。


「あ、星翔さん!」


 その時、比奈の背後に不良が立った。

 偶然を装っているが、タイミングを計っていたのだろう。


「あれ、龍岡たつおかくん。ちょうどよかった、英夢くん見なかった?」


「うーん、見てないな……。あの陰キャのことだから、ビビッて逃げ出したんじゃないか? しかも、女の子を置いて!」


 あいつ、龍岡っていうのか。いかつい見た目が苗字にピッタリだな。


「それはないと思うから、きっと迷子になったんだと思う! 龍岡くんは誰とペアなの?」


「ああ、俺は最初からペアが欠けてるんだ。それより、星翔さんも一人なら、一緒に探索しようよ!」


「いいよ! せっかくだし、英夢くんが見つかったら3人でモンスターを倒そう!」


 よし、これで比奈と龍岡のペアが完成。

 晴れて僕の役割も終わりだ。さて、僕も散歩を――、


「なあ、せっかくだし、2人で2層まで行ってみないか?」


 ……んん?

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