第5話 合理的学院生活!
「ふあぁ……」
朝は眠い。ここ1週間はダンジョンにいる時間がぐっと増えたからより日差しが眩しく感じる。
レベルはかなり上がったが、日常に大きな変化があったかと言われるとそうでもない。例えば通学中の今。街を眺めながら一人で歩くだけだ。
そして僕が通うレオニスク冒険者学院。一応はちゃんとした高校で、一流の冒険者を育成するための授業が受けられる――らしい。
それなりに偏差値が高いところなので設備は整っており、生徒の実力も高い。しかし、その一方で実力主義の思想が蔓延っているとも言える。
「お前、次のダンジョン実習棄権しろ。お前みたいなゴミが同じパーティだとこっちの点数が下がるんだよ!」
「で、でもそれじゃ僕の点数が……」
「ああ? 知ったこっちゃねえんだよ! 自分がザコ適正に生まれたことが悪いんだよ!」
お、今日もやってる。
入学して1ヶ月くらいしか経ってないけど、こういうやり取りももう何度も見たなあ。
あの生徒のように、実力がない生徒はこの学院では迫害され、淘汰される。いじめと少し違うのは、弱い生徒のことを『実力不足』とレッテル貼りすることで、言われる側に問題があると見なされてしまうこと。
学院側も、こうしたやりとりを厳しく摘発すると今度は証拠が残らないダンジョンでやられてしまうと懸念し、度を超えたもの以外は放置しているようだ。
それにしても、合理性に欠ける主張だ。ダンジョンにはいつでもベストな状況で挑めるわけじゃない。とても強いモンスターがスポーンしたり、地形の影響で上手く立ち回れない可能性だってある。
だというのに、味方の生徒を排除することでしか自分に有利な環境を作れないというのは滑稽だ。コントロール出来ない敵ならまだしも、味方すらまともに利用できないのは自分の実力のなさを露呈しているのに他ならない。
教室に着き、僕は自分の席に座る。
さて、ホームルームが始まるまで合理的睡眠時間の確保といきますか。やっぱり朝は寝るに限る……。
「やっほー! おはよー!」
机に突っ伏したその時、僕の背中を誰かがバシバシと叩いてきた。
……痛いなあ。それに、キンキンと高い声……女子生徒?
顔を上げると、僕の隣の席の女子生徒が笑顔で手を振ってきた。
「英夢くんおはよう! せっかく気持ちいい朝なのに、寝てたらもったいないよ!」
余計なお世話なんだけど……そもそもこの子は誰だっけ?
髪は長く綺麗なピンク色で、サイドが編み込まれている。僕を真っ直ぐに見つめる水色の目はビー玉のように透き通っている。
純真無垢で明朗快活という印象の少女。そういえば、前に一度話したことがあるような……?
「もう、英夢くん反応悪すぎ! 記憶喪失? 私、
……そうだ。この子が星翔さんだ。
他人に興味がなさすぎて名前をすっかり忘れていた。僕は少し前、彼女に勉強を教えてと頼まれ、少しだけ課題を手伝ったんだった。
……いや、それ以前にも何回か喋ってたような気がしないこともない。
って、ちょっと待てよ。少し前、僕を突き飛ばした不良が言っていた星翔さんってこの子じゃないか!
何を勘違いしたのか知らないが、この子のせいで僕はあの不良に襲われたわけだ。
「……本当に記憶喪失になっちゃった?」
文句の一つでも言いたいが、彼女からしてもそれはとばっちりだろう。気持ちをグッと堪える。
「大丈夫だよ、おはよう。星翔さん」
「もう、比奈でいいって言ったじゃん! 私たちズッ友! でしょ?」
あれ、なんか思ったより仲良しだと思われてる? いつの間にズッ友になったの? てか今どきズッ友って言わなくない?
なかなか合理性に欠けるな。僕はこういう自分と違うタイプを相手するのが苦手だ。おそらく過去の自分もそう思って適当に聞き流していたんだろう。
「そういえば、決まった? 名前。私は『フォーエバーフレンズ』がいいと思うんだけど」
何の話?
聞き流していたせいで全くついて行けていない。何の名前のことを言っているのか不明だ。
「もう、英夢くんやっぱり記憶喪失じゃん! 今日のダンジョン実習のチーム名だよ!」
「ダンジョン実習……?」
「そうだよ! 席が隣同士のペアでダンジョンに行くって話だったじゃん。で、せっかくならチーム名を付けようって」
え……今日、比奈とダンジョン実習に行くのか!?
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