第4話 合理的弓チク!

 僕が驚いたのは、レベルアップした理由がわからなかったからではない。


 僕はこの一週間、平日は学校帰りに、休日は朝からダンジョンに潜っていた。

 <直感>&【必中】によるノーリスク弓チク作戦でモンスターを狩りまくり、その数はもはや覚えていないほどだ。


 僕が一番驚いたこと。それは、レベルアップのペースだ。


 いつの間にこんなに強くなっていたんだ?

 レベル9に至るのは簡単なことじゃない。確か、レベル10になるためには半年くらいかかると授業で聞いたはずだ。


 考えられる理由は一つ。弓チク作戦の効率が高すぎるということ。


 岩陰に隠れて矢を撃ちまくるだけで大抵の敵が死ぬので、無限に戦うことが出来る。

 これがウォーリアーなどの他の適性だったら、対面で戦わないといけないのでこうはいかない。


 さらに、ソロで攻略しているのも効率上昇に貢献している。

 一人でコソコソ行動しているので、モンスターには見つかりにくい。最近はスキルの<隠密>を使って気配を消しているので一度もモンスターに気づかれていない。


 僕は今、6層にいる。ここにいるモンスターも大体はすぐに倒せるようになってきた。

 やり方はこうだ。


 まず、<隠密>で気配を消す。これでモンスターに気づかれることはなくなった。

 この状態で<直感>を使ってモンスターの位置を探知する。


「よし、次はあいつにするか」


 僕が見つけたのはマッスルオーク。一見するとただの豚のような見た目の男だが、膂力はゴリラすらも凌駕するほどだ。


 <矢生成>で一本の矢を作り出す。今の僕では一日10本までしか出せないが、それでも貴重な供給となっている。


 ある程度の距離を保ちつつ、生成した矢を弓にセットする。グッと弦を引っ張ると同時に、僕は呟く。


「<属性付与・炎>」


 すると、矢が炎を帯び始める。これも新しく覚えたスキルで、炎・水・風・雷から好きな属性を纏わせることが出来る。

 これをやるのとやらないのとでは、一撃の威力が大きく変わる。……と言っても、他の適性の上位スキルと比べたら雀の涙ほどだが。


 そして一気に――放つ!


 炎を纏った矢が一直線に進んでいき、数秒後に豚の悲鳴のような声が聞こえてくる。

 よし、これでマッスルオークを討伐完了。


 こういう感じで、コソコソ隠れながら一撃でモンスターを仕留め、次の獲物を探す。

 慣れてくるともはや作業だ。こんな心持ちでダンジョンに臨んでる奴なんていないだろうな……。


――


 レベルが10に上がりました。

 スキル<直感>が<第六感>に変化しました。


――


 ん……? スキルが変化?


 聞いたことがない言葉。だが、意味はすぐに分かった。


「な、なんだこれ!? 見える……見えるぞ!?」


 <直感>は半径25メートルの敵の気配を感知するスキル。

 しかし、今はその先が見える。これは25メートルどころじゃない。30、40……下手したら50メートル先まで、モンスターの気配が手に取るようにわかる。


 スキルが進化したってことか!


 これはかなり嬉しい。感知できる範囲が広がったということは、すなわち攻撃できる敵の範囲が広がったということ。

 それに、50メートルもあればフロアのかなりの範囲を網羅できる。当然、次の層へ続く階段の位置も。


「……ちょっと見てみるか」


 僕は見つけた階段に向かって歩き出す。

 単なる興味本位ではある。だが、見てみたい。7層にはどんなモンスターがいるのかを。


 階段の手前までやってきて、<第六感>を使った僕は息を呑んだ。


「なんだ……こいつ!?」


 下の層。かなり遠い位置に、他のモンスターに比べてひと際大きな気配を感じる。

 四足歩行の獣のようなモンスター。何といってもサイズが大きく、人が余裕で昇れるくらいのこの階段も昇ってくるのは無理だろう。


 見ているのはこっちなのに、なぜか心拍が高まっていく。間違いなくボス級。とてつもないプレッシャーだ。


「これは、しばらく下の層にはいけそうにないな……いくらなんでも実力差がありすぎる」


 ため息を吐き、地上へと帰ろうとしたその時。


「……いや、待てよ?」


 僕はあることに気が付き、くるりと向き直った。


 気配は感知できている。そして敵は階段を昇ってこられないほどデカい。だったら――、


「ここから攻撃しまくれば勝てるんじゃ?」


 僕は試しに弓を構え、階段を下りることなく6層から7層のモンスターに向かって矢を放つ。

 ――数秒後。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 す、すごい雄たけびだ! あのモンスターに違いない。攻撃は当たってるんだ!

 だったら話は早い。矢をここから撃ちまくってやる!


「ハハハハハハ! 最高だ!」


 気分はまるで映画の悪役だ。丸腰のモンスター相手に一方的に攻撃するなんて!


 手持ちの矢を使った後は、矢生成で弾を補充していく。

 2~3分ほど撃ちまくると、モンスターの気配が消えたのが分かった。


「え? 今ので終わり?」


 何度確認しても、7層のボスモンスターの気配は消えている。間違いなく絶命している。

 ……この戦法、強すぎでは?


 矢を大量に使ってしまう点に目を瞑れば、格上の相手にも勝つことが出来る。

 おまけに、僕は上の層にいるから向こうは手出しが出来ない。


 これで、さらに効率的にレベルアップをすることが出来るようになった。

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