第3話 合理的ピンチ!
2層はまだ行ったことがない。行かなかった、というよりは行けなかったというのが正しい。
2層以降はモンスターがグッと強くなる。当然、僕のレベルで単独で挑めば即死だろう。
だから皆はパーティを組んで2層へ行く。僕はアーチャーだからソロで攻略するしかないんですけどね!
だがそれも今日までだ!
<直感>を駆使し、辺りのモンスターや地形を把握しながら進むこと数分。僕はついに2層に続く階段を見つけた。
ダンジョンの地形は日によって変わるので、階段自体は何度か見かけたことがある。だが、降りようと思ったのは初めてだ。
やっぱりちょっと怖いな……止めておこうかな?
いや駄目だ。さらなる効率的レベルアップの道をみすみす逃すわけにはいかない。
僕は深呼吸をし、2層に続く石段を一段ずつしっかりと踏み締めた。
階段を降り切った先に広がる景色はまるで別世界――、
……なんてことはなかった。1層と何ら変わず、洞窟が広がっているだけだ。
まあ、そうだよね。2層に行くことは特別凄いことじゃない。
「さて、2層のモンスターはどんなものかな……?」
<直感>を使うと、目当てはすぐに見つかった。
「グルルル……」
25メートル先。入り組んだ道の先に、一体のモンスターがいる。
気配だけなのでおおまかにしかわからないが……二足歩行で、オオカミのような見た目だ。
「……コボルトか!」
コボルトは見た目通り、オオカミのようなどう猛さと強さを兼ね備えている。
強さは1層のゴブリンとは比較にならないという。
<直感>を使えば、ここから奴を狙うことが出来る。
しかし、一撃で仕留められなければ位置を特定され、返り討ちに遭う可能性もあるだろう。
やれるだろうか? ――今のレベルの、この僕で。
「……悩むのは、合理的じゃないよな」
僕は覚悟を決めると、弓に矢をセットした。
やるしかない。今よりも、強くなるために!
「いけッ!」
いつも以上に力を込めて矢を放つと、風を切って矢が突き進んでいく。
数秒後。<直感>でコボルトの気配を追った僕は息を呑んだ。
矢はコボルトに直撃した。――が、倒し切れていない。
「さすがにそんな美味い話はないか……!」
僕は再び弓を放ち、さらに矢の準備をした。
コボルトとの距離は25メートル。オオカミと同等以上の身体能力を誇る奴に、その程度の距離は目と鼻の先だ。
矢の位置から僕がいる場所に向かってくることは容易だ。だから、こっちに来る前に仕留めないと!
「グルルルルァ……ガァッ!!」
コボルトに二発目の矢が突き刺さる。大きく体が動いたのがわかったが、それでもまだ生きている。
コボルトは自身へのダメージをものともせず、僕がいる方へ向かってきている。
マズい……もう曲がり角の手前まで来ている!
次の一撃でやり切れなければ、殺されるのは僕だ!
「ガァァァァァァ!!」
角を曲がり、ついにコボルトが姿を現す。
恐ろしい姿だ。頭部と肩に矢を受けて出血し、涎を垂らしながらこちらを睨み据えている。
目が合った。その眼差しはギラリと光っており、視線は剣で刺してくるようだ。
こんなに怖いと思ったのは初めてだ。全身から汗が噴き出し、高揚に似た、感じたことのない衝動が僕の中を巡っている。
だが――勝つのは僕だ!
「食らえ!」
僕は既に弦を目いっぱいに引ききっていた。
一直線に放たれた矢がコボルトの顔面に直撃し、頭を弾き飛ばす。
「グ、ガァァァ……」
それはコボルトの小さな断末魔だった。
頭部を失ったコボルトは膝を折り、その場に倒れた。
「ふぅ……危なかったな」
少しでも判断が遅れていたら今頃はどっちが立っていたかわからない勝負だった。
もう、しばらくはあんな緊迫感のある戦いはしたくないな……。
アーチャーは不遇な適性だ。さっきの戦いのように、一撃で仕留められなければ攻撃を放った位置から場所を特定されてしまう。
ソロで動けることに特化した適正なのに、ソロだと戦いの幅が狭まるってなんなんだよ。
――
レベルが4に上がりました。
スキル<矢生成>を習得しました。
――
おっ、レベルが上がった。
レベルが上がると身体能力はぐっと上がる。アーチャーの場合も、矢で放つ一撃の威力は上がる。
これでもっと安全にモンスター退治が出来るぞ!
よーし、今日はもう少し2層のモンスターを倒しておくかあ!
*
「あれ……?」
1週間後。僕はステータスウィンドウを見て首を傾げた。
――
影山英夢 レベル9
加護:【必中】
ジョブ:アーチャー
スキル:
<直感> <観察眼> <矢生成> <罠作成> <小治癒> <属性付与> <身代わり> <隠密>
――
なんか……思ったよりレベルが上がってないか?
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