第2話 合理的レベルアップ!

「ゴブリンか……あれくらいなら僕でも!」


 どうやら向こうは僕に気づいていないらしく、呑気に歩き回っているようだ。


 モンスターの中では雑魚らしいけど、僕のレベルだと普通に戦うとそこそこ苦戦なんだよなあ……噛みつかれると痛いし。

 なるべくなら正面切って戦いたくない。バレてないみたいだし、あれをやるか。


 僕は木の陰に隠れながら弓に矢をセットし、弦をゆっくりと、かつ力強く引く。


「あんまり動くなよ……!」


 モンスターと言えど、仕留めきれなければ矢が飛んできた方向から僕の位置はバレるだろう。奴の意識外から攻撃を仕掛けられるのは、この一発だけ。


「……くらえ!」


 息を吐くと同時に弦から手を離すと、矢が放たれて空を切る。

 次の瞬間、ゴブリンの頭に矢が突き刺さり、小さな体は地面に倒れた。


 よし、上手くいった。大した戦闘スキルがない今、ゴブリンをノーダメージで倒せたのはデカい。


 こういうモンスター退治を1か月間、放課後の時間を使って繰り返している。

 強くなるためにはレベル上げが必要だ。そして、レベルを上げるための経験値はモンスター退治で手に入る。


ーー


 レベルが3に上がりました。

 スキル<直感>を習得しました。


ーー


「おお、ついに来た!」


 念願のレベルアップだ!

 レベルが上がると新しいスキルを覚えることができる。


「で、これはどんなスキルなんだ……?」


 僕は鑑定スキルの<観察眼>を発動し、詳細を確認する。


ーー


 <直感>


 感知スキル。半径25メートル内の生命体の気配を感知できる。


ーー


 なるほど、確かにアーチャーにとって索敵をする能力は必要だ。

 ……けど、僕が欲しいのは戦闘スキルなんだけどなあ。これもあまり役には立たないか。


 ――いや、ちょっと待てよ?


「もしかしたら、これがあればレベルアップの効率を上げられるんじゃないか?」


 思いついたら即実行だ。僕は再び岩陰に隠れる。


「まずは……あいつだ」


「キュキュッ!」


 僕が次に見つけたのは、一匹のスライムだ。この洞窟で最弱のモンスター。射れば一撃で倒すことが出来る。


「まずはいつものように!」


 僕はスライムを見つめながら、乱暴に矢を放った。


 スライムとは明後日の方向に飛んで行った矢。しかし、すぐにその風向きが変わる。

 矢が軌道を変えてスライムに向かっていき、ゼリー状の体を貫いたのだ。


 これが【必中】の効果だ。目に見えている相手なら、自動で追尾して攻撃できる。


「次はこうだ」


 次に、僕は目を瞑って矢を放った。


 目を開けて確認すると、矢は壁に突き刺さっており、これからモンスターを追いかけていきそうな様子はない。


「目視せず、なおかつ対象が明確じゃない場合は攻撃は当たらない……いつも通りだな」


 【必中】は万能ではない。このように、僕自身が対象を認識していなければ攻撃は当たらない。だからこうして前線で戦っているわけだけど。


「じゃあ、これなら?」


 俺は感知系スキルの<直感>を発動した。

 これを使うと、半径25メートルの敵の気配を見つけることが出来る。


 出来ればここから目視できない場所で……お、いたいた。


「グゲゲゲゲ!」


 角を曲がった先に、ゴブリンの気配がある。これで撃ったら、追尾してくれるのか?


 祈るような気持ちで弦をグッと引き、放つ。

 すると、さっきスライムに攻撃した時のように、矢がくるりと向きを変えて角を曲がっていった。


 数秒後、ゴブリンの気配が消えた。


「よし! やっぱり予想通りだ! <直感>で見つけた敵にも必中するんだ!」


 これはかなり革新的だ。今までは敵を目視して、敵を狙える位置に移動してから攻撃しなければならなかった。

 敵を狙うということは、すなわち敵から狙われる危険性もあるということ。そのせいでかなり慎重にならないと攻撃が出来なかった。


 しかし、<直感>があればそのリスクは飛躍的に減る。

 つまり、僕が導き出した合理的最適解はこうだ。


「<直感>!」


 まず半径25メートル内にいる敵を感知する。近くにいるのはゴブリン1体とスライム1体だ。


 モンスターを見つけたら、弓を構えて矢を放つ。


「ゲゲゲッ!」


「キュキュッ!」


 すると、数秒後にはモンスターは倒すことが出来るというわけだ。


 感知&追尾でノーリスクでモンスターを瞬殺。

 ……あれ。もしかしてこれってめちゃくちゃ強い?


 ダメージを負う可能性がほぼ0になっただけでなく、効率が一気に上がった。


「もしかして、今日中に2層まで行けちゃう?」


 ぽろっと呟いたとき、僕は半信半疑でいて確信めいた感覚を掴んでいた。

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