陰キャアーチャーの合理的ダンジョン攻略 ~何って、ダンジョンの外から矢を放って無双してるだけだが?~
艇駆いいじ
第1話 合理的アーチャー!
僕は『合理的』という言葉が好きだ。
合理的に、効率よく、最短の道を進むことこそが正しいと信じている。
逆に、『非合理的』という言葉が嫌いだ。非合理的な奴にはロクな奴がいない。陰口を言ったり、感情を露わにしたり――、
「生意気なんだよ、お前!!」
――気に入らない相手をいじめたりする。
目の前で僕を突き飛ばしたのは、隣のクラスの生徒。名前は知らないが、着崩した制服と鋭い目つきがどう見ても不良のそれだ。
放課後の校舎裏。僕は初対面の不良に詰められていた。
「
影山というのは僕の名前だ。なぜこの不良が僕の名前を知っているかは不明だが――それはさておき。
「星翔さんって?」
「とぼけるんじゃねえ! お前が星翔さんに馴れ馴れしくしてたって話は伝わってるんだよ!」
本当に身に覚えがない。仲良くもない人の名前をいちいち覚えるのは合理的じゃないし、僕が馴れ馴れしく人と喋ることはない。
しかし、どうやらこの不良は星翔さんに関することで僕に怒りをぶつけているようだ。
「で、僕がその人と話してたら何か問題でも?」
「星翔さんにお前の陰気が移ったらどうするんだよ! 星翔さんはお前が気安く声をかけていい相手じゃねえんだよ!」
「……どうして僕が話したら陰気が移るんだ?」
「お前、アーチャーらしいな。ってことは陰キャだろ」
全ての人間には『加護』がある。
体力が50%アップするとか、レベルアップの速度が上がるとか、人によって違いはあるが、たった一つのもの。
僕のそれは、【必中】だった。
効果はどんな攻撃でも必ず敵に命中するというもの。そこで合理的な思考をした僕はアーチャーというジョブを選択した。
しかし、そんな僕の考えとは裏腹に、
それこそがアーチャーだ。
陰キャがなりそうな職業1位、アーチャー。
『コミュニケーションを取れない人間が持っている適性』
『パーティにいても大して役に立たない』
『アーチャーには変人しかいない』
これらは僕が勝手に言っているわけではない。SNSでとあるインフルエンサーが少なくない人数にアンケートを取った結果、明らかになった事実だ。
この結果は、発表されると瞬く間に多くの口コミに乗せられ、やがて世界中に伝播した。
アーチャーをやっている奴は気持ち悪い陰キャだけだ、と。
アーチャーというだけで少なくない人が侮蔑し、嘲笑の的として見てくる。
そして、どういう縁があってか、僕はアーチャーに適性を持って生まれてきた。
「陰キャに発言権なんかねえよ。わかったら二度と星翔さんに馴れ馴れしくするな!」
つまり、この不良が言いたいのはこうだ。
星翔さんに話しかけるな。理由は、僕が陰キャで、話しかけると根暗が移るから。
……合理性の欠片もない。
こいつ、本当に僕と同じ16歳か? っていうか、ただ単にこいつが星翔さんとかいう生徒のことを好きなだけじゃないのか?
因縁も甚だしい。なんでこんな話に付き合わされなくちゃいけない?
「その目がムカつくって言ってんだよ!」
次の瞬間、怒鳴り声と同時に僕は顔面を殴られた。
……痛いな。こいつ、頭は悪そうだが力はかなり強いようだ。レベルが僕より高いのか?
「アーチャーの癖にうぜえんだよ! 見下したような顔しやがって!」
アーチャー、か。
こういう言い方をされるのは初めてじゃない。この世界では、アーチャーというだけでこういった迫害を受ける。
それは本人に非がある場合もあるし、一切そうではないこともある。だが、アーチャーならきっと誰もが通る道だ。
アーチャーは不遇なジョブだ。周囲からの評判も良くない。
「……言っておくが、チクるなよ? 悪いのはお前なんだからな、陰キャ野郎!」
不良は僕に背を向けて行ってしまった。
僕は痛む頬を抑えながら立ち上がり、そのまま下校した。
*
帰宅途中。僕はダンジョンに立ち寄った。
15歳になると同伴なしでダンジョンに潜ることが出来るようになる。
レオニスク冒険者学院に入学して1カ月。下校途中、家の近くにあるこのダンジョンで経験値を稼ぐのが日課だった。
「さて、今日は何匹狩れるかな……」
そう呟いた後、僕はステータスウィンドウを展開する。
――
影山英夢 レベル2
加護:【必中】
ジョブ:アーチャー
スキル:
<観察眼>
――
ダンジョンが解禁されてから、毎日コツコツとモンスター退治に明け暮れているが、なかなかレベルが上がらない。
僕は合理的なやり方を考えるのが好きだ。だが、アーチャーは不遇なジョブであり、パーティを組んでいる同級生の方が効率よく強くなっているのが現状だ。
アーチャーが不遇な理由は大きく二つ。
理由その1。覚えられるスキルが汎用的すぎる。
一見するといいことだが、他の職業は同じレベルでもクラスの強みを活かせる専門性の高いスキルを習得することが出来る。そして、そういったスキルは戦闘でも役立つことが多い。
しかし、低レベルなアーチャーは、他のジョブの基本的なスキルしか習得できない。
基本のスキルは戦闘で決定打にはなりにくい。こういったスキルを覚えなければいけないのは明確なデメリットだ。
理由その2。ステータスの上がり方が満遍ない。
スキルにも通じて言えることだが、アーチャーは一人でなんでもできるように成長していく。
ステータスに関してもバランスよく伸びていくので、器用貧乏になりやすい。
アーチャーは万能型にしかなれないので、仲間としてはどういうメリットがあるのかわかりづらい。
結局ソロでしか冒険できず、自己完結の陰キャと呼ばれるに至ってしまったというわけだ。
「やっぱりアーチャーは色々厳しいな……とにかく早く効率的なレベルアップ法を確立しないと……ん?」
その時、僕はモンスターの気配を感じ取って岩陰に隠れた。
「グゲゲゲゲッ!」
少し離れた場所に、緑色の肌の小人がいる。小人は大きく裂けた口から涎を垂らしながら、奇妙な動きで前進している。
あれはゴブリンだ。
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