第23話 七不思議のない学校 戌
夏休みも終盤、僕と赤間と雨宮で宿題に追われていた。隣で呑気に本を読んでる関田は「まだ終わってないんかよ」と煽ってくる。
今日赤間の家に集まった理由は他でもない、今日はお祭りがあるからだ。まぁ宿題をみんなでやりたいと思ったのもある。
宿題も赤い丸を終止符に終わり、外を見ると夜が顔を出していた。
「お邪魔しましたー」と赤間の家を背にお祭りが開催されている場所に向かった。
電車に乗り、高校近辺に着く頃には祭囃子が辺りを包み街の街頭や電柱に吊るされた提灯の灯火が薄暗くなった街を照らしていた。
隣で赤間がはしゃいでいたが、周りに溶け込んでいた。
なんというか、祭りの雰囲気は大好きだ。よくネットでも怖い話を見ているが、やはりお祭り関連の話は特有の良さがある。
赤間はお祭りの屋台で売っている骨董品が目当てらしい。「お祭りの屋台で売ってる縁起物にはたまに化け物級の品物が出てくるんだ。例えば…」と話を始めた。
黒い果実
俺が彼女と祭りに行った時の話。祭りと言ったら夏というイメージだと思うが、俺たちは春に開催された梅祭りに来た。
空が淡く周りの桃色や紅色が辺りを着飾り、屋台と人々の行き交う声はスパイスとなって俺たちを包み込んでいた。
「○○くん(俺の名前)私トイレ行ってくる。」と彼女が俺に言う。「おん」と返事をして彼女が来るまで待っていた。
ふと前を見ると的屋のおっちゃんが手招きをしていた。
まだ彼女も戻らなそうだしと、的屋の前に行く。
なんかおかしい。別に的屋のおっちゃんがおかしい訳でもないし、売っているものがおかしい訳でもない。ただ、全体的になんか違和感を感じた。
露天商のようなものらしいおっちゃんは、木彫りの熊や熊手、小さな瓢箪などを売っていた。
「あんちゃんついてるねこれ500円でどうだ」と酔っ払った声で言う。
その手には野球ボールくらいの黒い固まりが入っていた。
「おっさんこれなんすか」そう俺が聞くと「あぁこりゃ自分がいちばん大切にしとる物の寿命がわかるんや」そう言いながらイヒヒと笑う。
「何言ってるかわかんないっす」と言うとおっさんは「こいつが大きくなったらそこが全盛期。こいつが萎んだら後半戦。こいつがまたでかくなって破裂する時あんちゃんの大事なものが、人が、消えるんやな。つまり寿命が分かるわけや」という。
俺は半信半疑だったが、彼女との寿命が分かったらおもろいだろうと買うことにした。「買いますけど安くしてくれませんか?」また、イヒヒと酔っ払った声で笑う。「じゃあ400円でどうよ」俺「分かりました」と400円を渡した。
おっちゃんは、「お釣りだ」と400円を渡した。「えっ」と俺が言うと「こいつがお前を気に入ったらしいからよ」なんて言うから俺は笑った。
「俺ゎもう店畳むからよ彼女さんとこ行ってこい」と酔っぱらった声で膝を叩いた。
気づくと元の場所に座り込んでいた。
それから楽しい日々が続いた。気づけば葉が紅葉していた。
彼女とは来月式を挙げようと考えている。あのおっちゃんにもらった黒い球体もサッカーボールほどになっていた。
あれからまた梅の花が咲く季節になった。結婚してからも夢のような楽しい日々が続いていた。ただ、黒い球体が萎んできて今はあの野球ボールになってしまった。
この日々が、俺の妻がなくなってしまったら嫌だと常々思う。
ちょうど結婚式から1年が経つ頃には、黒い球体がボウリングボールの大きさにまで膨れ上がっていた。
あぁ神様俺らの幸せを取らないでください。
そう毎日お風呂場で祈っていた。
そして今日破裂した。
最近は妻とも会話していなかった。この黒い球体の話をしてから関係がギクシャクしていた。
俺は酒に溺れるようになってもう何ヶ月だったろうか?
そう昔の話を思い出し、笑いながら椅子から飛び降りた。
この話を赤間がチョコバナナを食べながら楽しそうに話す。
結局いちばん大切なものは自分の命だったのか、と何故か合点した。
「あっ」と雨宮が唐揚げを落とし、りんご飴を食べていた関田が「そんながっつくからだろ」と笑う。
僕はベビーカステラを食べながらふと、この時間が1番大切なものかは分からないが、1番楽しいものだと思った。
みんなで焼きそばを食べ、関田と赤間が金魚すくいで覚醒してる隣で雨宮が3個綿あめを買って覚醒していた。
そして射的で僕が覚醒し、型抜きで関田が覚醒する。何故か赤間がその間にお面を全員分買ってきてくれた。赤間は狐のお面を雨宮はひょっとこのお面を僕は鬼のお面で、関田が某戦隊モノの仮面を…
「私はガキなんかよ」まぁ2人の口喧嘩は、僕があの屋台を発見するまで続いていた。
屋台が点々となり、一通りも少なくなってきた頃
僕は小さな路地にぽつんと佇む屋台を見つけた。
「みんなあれ見て」と言ってもふたりが喧嘩していたので気づいてくれず2人に初めてげんこつをした。いや、人生初かもしれない。
明かりは上にある街灯だけで暗くなんとも雰囲気があった。
「いらっしゃい」と低い声で言う。
ふーと吸い切りそうな曲ったタバコの煙を吐く。
売っているのは木刀?や、黄ばんだ古本、将棋の駒(何故か飛車1個)、木箱など
その中で僕はひとつの紙を持ち上げた。
なんかの地図?見たことがある気もする。その地図を囲うようにして線が引いてある黄ばんだボロボロの紙だ。
ふーと煙を吐き「お前さん、いい目してんな」と言ってきた。
赤間が「なんすかこれ」と聞く。
タバコの火を赤くし吐く「こりゃこの祭りの神輿が進む道を書き記した原稿だ。おめぇらここに住んどんか?」そう聞くので僕は「いえ、○△高校に通ってるだけっす」と言った。
「あーその高校もこの地図に乗っ取るよ」と煙を吐きながら言う。「まじっすか」と赤間が声を出す。
地図を見ると神社から僕らの高校を迂回してまた神社に戻るというルートだった。
僕らはなんか繋がった。いや頭のピースがカチッと音を立ててハマった。
とりあえず僕らはその地図と、江戸時代の植物図鑑と、鵺の化石を買った。
全部で4000円しなかったと思う。結構痛かったが、店主の「物を見下すんじゃねぇぞ下手すりゃ大災害が起こせる力を秘めてるんだからな」
と言う言葉が刺さり値下げはあえてしなかった。
江戸時代の植物図鑑は雨宮が、鵺の化石は赤間が趣味で買っていたがそのふたりは値下げしてもらっていたが。
このお祭りのお神輿が意図的に僕らの高校を囲み結界の役割をしているのか、はたまた偶然なのかは分からない。
だが、これが結界の役割になってしまっているという事実だけは確かだった。
月明かりがあたりを包むころ家に着いた僕は水槽の準備をしていた。青春の真っ只中に僕はいるんだと2人からもらった金魚を見て思った。
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