第17話 七不思議のない学校 辰

友達にも聞いたがやはり皆知らないとのこと。


その日の帰り道、紫陽花が咲いていた。


青い紫陽花だ。


七変化


僕がちょうど4年前に体験した話だ。


雨が降っていたあの日。


僕は学校が終わり家に着いた。その頃には雨と言うより霧に近い雨が降っていた。


僕は黄色いカッパを着て出かけた。紫陽花が赤から青に彩られた道を1人で歩いていた。


綺麗だなと思いながら歩く、ふと後ろをむくと人が立っていた。


しかも大きい。2m以上はある。


一瞬思考が止まったが、その人影が動いた瞬間に僕は逃げた。後ろを見ると追ってきていた。


やばいやばい捕まったら終わる。心拍数が「ドクンドクン」と上がっている。足が遅い。もっと早く次の足を出さないと。


後ろを向いた。居た。黒い影だが、そいつは確かにそこに居た。


とにかく家に着くと家がバレてしまうので公園に行った。後ろを見るともういなかった。


心臓の音と水滴が落ちる音すら怖く感じた。10分くらい隠れて家に帰った。


途中ヤツには合わなかったが頭の中で次バレたらやばいと思っていた。霧に覆われている町並みはホラーゲームさながらで自分がゲームの主人公のように思えた。


っていう話。


そう言うと関田が「それブロッケン現象じゃね」と僕に指をさす。赤間は「なんだよそれ」と関田に聞く。


関田が「その日霧のような天気だった。そして太陽が出ていたんだろう。自分の影が太陽に照らされる。霧がスクリーン代わりになり映画のような仕組みで上映された。幽霊でもなんでもないただの影だ。」と説明をする。


「なるほど」と僕は記憶を思い返す。


気づくと駅の近くに着いていたようだった。しかも、ここはあじさい公園だ。


歩きながら、みんなで綺麗だねと言い合う。


ふと1朶の紫陽花を見る。「あっ」みんな驚いた。そこには、赤でも紫でも青でも白でもない緑色の紫陽花があった。


赤間がポツリと溢す。「死体が埋まってる」確かにそうだ。普通こんな色が一つだけ咲いていたらおかしい。原因が必ずある。


関田は少し困った顔をしていた。初めて見た顔だ。すると雨宮が言う。「死体はいないんじゃない。死体がいる場合は花の色が赤か青になるから。理由は死体にあるアルミニウムイオンが反応して色の変化が起きるんだ。でもこの色は緑でしょ」


僕は「ファイトプラズマ」と呟く。


雨宮が指を鳴らしそれだと僕を指さした。


ファイトプラズマというのは植物病原細菌で紫陽花の花の色などを緑にしてしまうやつだ。


関田が「葉化病ってやつか」といい、また雨宮がパチンと指を鳴らした。


関田が「焦って損した」と言い「言問はぬ木すら紫陽花諸弟らが練の村戸にあざむかえけり」と短歌を詠った。


僕らが「何それ」と尋ねると「万葉集に載っている短歌のひとつだ」と言う。続けて、「大伴 家持が詠んだ短歌だよ。ほら三十六歌仙の1人の」という。


赤間が「多すぎやろ」とツッコミ。僕と雨宮は「あはは」と笑う。


今日は漫才らしい。


僕の知っている紫陽花の知識と言えば学名がハイドランジアくらいだった。


赤間は「葛飾北斎があじさいに燕っていう絵を描いたり、博物学者のシーボルトがハイドランジア オタクサと命名した。オタクサの名はシーボルトの愛妾の楠本滝の名を忍ばせたらしい。」とか何とか言っていた。


もっと僕も勉強しないとなと思った。


勉強し過ぎるのも毒だろうか。紫陽花も青酸配糖体と言う毒があるらしい。また、紫陽花の花のような部分は萼と言う部分で花では無いとの事だった。


そういえば、関田が言っていた短歌は騙された的な意味の短歌だった。


ハリボテでもいいから僕は、夢を叶えたいと思った。

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