第15話 七不思議のない学校 寅

学校の七不思議はその学校によって変わるらしい。


それはそうだ。メジャーな話としては二宮金次郎が動くという七不思議があるが、中には銅像がない学校もある。


友達や先輩、先生などから学校の七不思議を聞く。そうすることで、人間はいつも以上に神経を研ぎ澄ませる。そうして、そこで少しの音や影などを見る。面白おかしく、大袈裟にして心霊現象だとみんなに伝える。


そういう体験をしたい人などがそこに集まる。


そうして七不思議は出来上がる。


ここまでが、関田の考え。


怖いもの見たさで来る人。つまり、ヤンチャな人が多くなり、他の生徒や先生はあまり近寄らなくなる。そうなるとポイ捨てなどのごみが増え、掃除をする人が消えて汚い場所へと変わっていく。


そういう場所は怨霊などが溜まりやすく、いつの間にか本物が居たなんてことも普通にあるらしい。


だから、人が死んでようがなかろうが結局霊は巣食ってしまう。


これが雨宮理論。


とある学校の放課後、僕たちが作戦を立てていると先生が寄ってきた。僕らの副担任だ。


「先生どうしたんですか?」と赤間が聞く。


「お前ら勉強かと思ったらまた何か企んでんのか」そう笑いながら言うので、続いて僕は聞く「先生この学校の七不思議知ってます?」


だが、先生の返答は「知らん」という冷たい言葉だった。


あまりにも食い気味に言葉を吐いたので僕らは少し引いた。


腕時計を見たあと先生は「そろそろ会議だからお前らも早く帰れよ」と言って逃げるように帰った。


僕は「絶対なんかさ知ってるやん」とみんなに言う。


「いやそれな」と赤間は相槌を打った。麦茶を飲みながら「あの先生変わってるからな」なんて関田は言う。


突然、雨宮が「じゃあ、あの先生で決まりや」と言ってきたので、僕と赤間は「なにが?」と聞き返す。


雨宮が「えっと。あれ何の話や」と記憶喪失になったので関田に「まじか」と言われ、赤間に関しては「あんだぁってぇ?」とバカにしていた。僕は「あははは」とツボる。


今日もトリオ漫才は冴えていた。


帰り道。ふと思い出したように赤間が話した。


かえる道


そういえば俺が中学の時。


あの日は確か夏だったのにも関わらず風が吹き荒れていて少し肌寒かった。


俺は部活が終わり一人で帰っていた。辺りはまだ、明るく夕焼けが広がっていた。


両隣にある小さな田んぼを通り過ぎ、公園の横を通り過ぎようとした時「ポンポン」と背中を叩かれた。


俺がびっくりして後ろを見ると男の子がいた。俺より3〜4歳、年下の子だ。どこにでも居るような見た目だったが、真顔で少し怖かった。


「ぼぉくと遊ぼうよ」


「えっ まぁいいけど」俺は帰ってもやることが無いし、と思い遊ぶことにした。


「ぶらんこしようよ」と彼が言う。砂場やシーソー、滑り台が乱雑に設置してあったが、その中で一番俺がやりたかった物なので少しほっとした。


と言うのも彼が砂場で遊んで砂を投げつけたり、結局彼の手のひらに踊らされるのではと思っていたからだ。


「ぶらんこでどっちが高くまで行けるか勝負しよう」と俺に問う。


結局、俺が勝って勝負は終わった。


「帰るぞ」後ろから低い声がして俺は後ろを向いた。すると男の人が立っていた。


「遊んでくれてありがとう」と相変わらずの低音で男の人が話しかけてきた。そして俺にお菓子をくれると言った。


だが、俺は断った。その男性が少し奇妙だったからだ。その間、男の子は俺を睨んでいた。


何かが人と違う。俺は幽霊だとわかった。足が無かったからだ。「俺も楽しかったよ」と怖かったが恰好つけて帰路についた。


もし、あの時に男性からお菓子を貰っていたら、あの男の子との勝負に負けたら、そう思うとゾッとする。


だってその頃、ちょうど蛙のような姿で死んでいる事件があり、当時は新聞沙汰にもなった。そしてあの公園周囲で起きていた。


そう赤間が話した。確かに怖い。


「あの世の物は呪物や怨物などとは比べ物にならない。対策をすれば助かるのが呪物なんだけど、あの世の物はこの世に置けない。そうじゃないと重力も、相対性理論も意味をなさなくなってしまうからね。だから持ち主ごとあの世に送られてしまう。つまり、持ったら最後。死だ」と雨宮が説明を加えた。


近くに咲いていた雑草からぴょこんと蛙が飛び出してきて僕と赤間は発狂した。


関田が「この話は腑に落ちない」と言う。霊は1度見た人間をあの世に連れていこうとする。本当はもっと遊びたいだけらしいが、だから赤間は何回か同じ体験をするのが普通だと思う。


だから私は仮説を立てた。霊も心理現象はある。


あの霊は赤間をあの世に引き込もうとした。だが、赤間が色々な罠を掻い潜った。そして最後に格好つけられた。霊はきっと嫌いになったんだろうな。そしてもう会わないと誓った。最後睨まれたのは嫌いになったからだと思った。俗に言う蛙化現象だ。


僕は「カエル化現象って好きだった相手が自分のことも好きだと分かった瞬間に生理的に嫌いになるってやつだろ」と聞く。


赤間は確かに霊に会って、また会いてーなんて考えていたそうだ。


雨宮が「霊からも嫌われるってどういう事だよ」と肩を揺らす。赤間が「霊からもってなんだよ。もって」と嫌われるのは霊からだけで十分と怒っていた。


「でも、なんでこの話を今したんだ。」と関田が聞く。


「あぁさっき教室で先生と話してただろ。その時先生の腕時計とあの男の人が付けてた腕時計が似てたから思い出したんだ。でもあの男の人は右手に腕時計をしてたな。で、時計の文字盤が逆に書いてあった」


そう赤間が言って僕は納得した。鏡。文字がひっくり返る。


何故か無性に笑いが込み上げてきて雨宮に背中を叩かれた。雨宮「お前呪われたか?」僕は「呪われたんじゃなく…鏡だからひっくり返ると蛙で…」と一発かまし、その日お風呂で泣いた。


お笑いのセンスがないのか。みんなの反応が辛辣なのか。明日は「お化けを叔母蹴る」とみんなに言おうと思う。外からは「ゲコッ」と鳴くカエルの唄が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る