第14話 七不思議のない学校 丑

僕らは今日も皆で帰る。いつもの4人だ。昨日のスケさん話は好評だった。


「てか、解決してたら七不思議じゃないやん」と誰かが言う。関田は目を大きくさせ「スケさんの話なんだけど。なんで先生は自分の家じゃなくてバレそうな理科室でやったんだ」と呟く。「ケータイで調べると出てくるが理科の黒須先生は自分の家でやったと証言していた。だからこの話は腑に落ちないんだ」とも言った。


確かにそうだ。ほかの先生もいる学校でやるより自分の部屋でやった方がいいし、自分で供述もしている。


じゃあ誰が、そう考えたところで赤間が「そうゆうのいいから」と言った。


赤間が言いたいのは、理科室だけで七不思議は完成するのだと。


続けて言う。学校によって違う。全部王道の七不思議で構成される学校もあるし、マイナーな七不思議で構成される学校もある。特にその学校の場所、生徒、先生そして歴史が大きく関係している。


確かに僕もそう思う。例えば、僕の通っていた小学校は教師が飛び降り自殺をした事件があった。だから七不思議のひとつとして飛び降り自殺をしている人が見えるだとか噂が飛び交う。


今日みたいな蒸し暑い日とは裏腹に乾燥していて、息を吸うたびに喉が冷える。そんな日だった。


飛び降り自殺


あれは僕が小六の時のお話だ。「学童って覚えてる?」と僕はみんなに尋ねる。雨宮がわからんと言うので、なんて言えばいいか悩んでいると関田が「授業が終わってから親が職場より戻るまでの間、家庭に代わる『生活の場』を提供して、児童の支援をおこなうことを目的とした取り組みだろ」と言うので、僕は参りましたと頭を下げた。本当にこの男は歩くWikipediaだ。


まぁ学童に通ってた人は分かると思うが、校庭で遊んだりする。


僕は友達が居なかったため、いつも校庭の横にあるブランコに乗っていた。


ふと背中を押され冷たい風に晒される。僕はびっくりして「ヒャッ」と声が出た。


「あははは」と後ろで笑い声が聞こえた。叱ってやろうと後ろを向くと女の子がいた。


「君さいつもブランコで楽しいの?」と聞く。「楽しいよ」と僕は意気揚々と話す。隣のブランコにその人が乗るとブランコは風に揺れる様に振り子運動を始めた。


「君何年生?」と僕に聞く。「えっ6年生」と僕が答えると、少し彼女はムッとして「私7年生だから私の方が年上」と言ってきた。7年生なんてないよと冷静にツッコみをいれる。中学1年生だよと彼女は訂正した。


僕は何故か納得した。結局その日は質問攻めに会い僕は幼いながらに警察官かよと考えていた。


名前、学年、好きな食べ物、家族構成など色々聞かれた僕は彼女が立ち去る時に名前は?と聞く。


彼女は空を見上げたあと「天使かな」と言って逃げるように帰った。そんな彼女は僕の心を射抜いたようだった。


僕は彼女が見ていた方向を見る。日暈だ。


太陽の周りを虹がぐるりと回っていた。「おー」とか「見て見て」と声が飛び交っていた。


次の日もまた会った。そして質問攻めだ。僕はその頃、自然と怖い話にハマっていたため。それを話す。「えっ怖い話好きなんだー」と彼女は言う。


「この学校、先生が屋上から飛び降りたんだよー」と続けて笑みを浮かべる。


それから僕らは月日が経つにつれ仲良くなった。


ある寒い日、彼女が僕に言う。「二人で屋上行ってみない?」僕は乗り気にならず、「先生に怒られちゃう」と断った。でも、彼女が行きたがるので「どうなっても知らんよ」と結局ついて行くことにした。


彼女が考えた作戦は三階まで登って校庭の反対にある窓からハシゴに飛び移ると言う計画だった。


まず、彼女が飛ぶ。次に僕が飛び移る。カンッと金属のハシゴを掴むと予想以上に冷たく焦った。登りきると綺麗な屋上に出た。それにしても風がすごい。一円玉天気の青空が広がっている。冬特有の空だ。


僕らは茶色い枝だけになった木々が手を大きく広げている街を眺めていた。


空が黄色くなり反対の空は星を光らせていた。「もうすぐ夕方だね」と彼女は笑う。


風がふと止んだ。誰かがこっちを見ている気配がして振り向こうとしたら彼女が「見ちゃダメ」と怒鳴る。


僕は目を瞑った。


目を開ければ彼女ともう1人を見ることになる。ふと風が僕を押し上げる。


目を開くと彼女が屋上から飛ぶ瞬間だった。


バサッと翼を広げ羽ばたく。あれが天使なのか、聖書にある天使はおどろおどろしい見た目だった気がする。


じゃあ悪魔?


日が沈む瞬間緑の閃光が見えた。


「楽しかった」この声はその瞬間こだましていた。「いかないで」そんな言葉も彼女には届かなかった。


僕は頬が冷たくなる感覚を覚えたと同時にガタンとドアが開いた。


「柳田くんなにしてんの」と声が聞こえた。あれは先生の声だ。振り向くと先生が3~4人いたが皆、口を大きく開けていた。どこか痛いと、声を掛けられ僕は「えっ」と声を漏らす。



「だって柳田くん今、泣いてるよ」僕は口の中に甘酸っぱい味のしたものが入ってきて口を噛み締めた。


その後、親が来て色々説教されたが、ずっとあの子のことを考えていた。


名前も知らない友達。また会おうと思い、その後ずっとブランコに乗っていたりしていたが会えなかった。


中学校に入り2年生の先輩に居るかと探したが結局見つからず。最終的には夢扱いされた。


僕が中学校2年生の時山で死体が見つかった。


名前は天野 汐里 新聞で見た当時の写真と一致したその人は、僕の中では悪魔でも天使でもない、大親友へと変わっていた。「最期のありがとうも言えなかった」僕は今でも後悔している。


そんな話をしていると風が吹いた。飛ばされた葉っぱが1枚僕の制服に付く。


雨宮が「椛の葉っぱだ」と声を漏らしていた。そして「柳田くんその花言葉は大切な思い出だよ」と言ってまた、涙腺が壊れそうになった。


この椛は今も、本の詩織として使っている。

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