第13話 七不思議のない学校 子

夏になりかけ積乱雲が僕らを覗き込んでいた。今日もいつも通り学校に行き、いつも通り帰るつもりだった。


アイスを食べながら赤間が「学校の七不思議って知ってるか?」と僕らに問う。今思えばこの一言から始まったんだろう。


「知っとるわそんくらい」とツッコミをいれ淡々と知っている情報を言う。


「例えば二宮金次郎の銅像が動くとか、理科室の人体模型が動くとか?あと4時44分に校庭が血の池になるとか?あーあと花子さんとかじゃね?」


すると赤間はあははと笑った。「お前馬鹿だな」


「舐めんな」と僕は拗ねる。赤間の方が馬鹿だ。「じゃあ何があるんだよ?てかなんで馬鹿なんだよ」そう聞く。


2人はそんな僕と赤間の会話を聞いて笑っていた。みんなから笑われて僕は少し恥ずかしくなった。


「七個しかないのに何で校庭で2個も使っちゃってんだよ。てか、学校の七不思議ってどう考えても7個以上あるだろ。例えば、理科室なら人体模型が動く。ホルマリン漬けの生き物が動く。骨格標本が動いて襲ってくる。白衣を着ている先生はいつも理科室で人体実験をしている。理科室の机が黒いのは血が付いて拭いても落ちないから黒く染めた。などがあるんだ。俺の小学校には『スケさん』という奴がいた。柳田の小学校とか中学校の時なんかあっただろ?」そう赤間が話終わると僕に聞いてきた。


中学校の時理科室に亀がいた。まぁ噂だが、その亀は実は死んでいてゾンビ亀だとか何とか。実際3匹居るらしいが僕は2匹しか姿を見た事がなかった。


そう話すと赤間はニタリと笑みを浮かべた。悪い顔だ。すごい悪い顔。その威圧感に負けじと「てかスケさんってなんだよ」と僕は聞く。


赤間は口角を限界まで上げ、ニヒヒと笑う。


「結構長くなるけど聞きたいか?」と言うので僕は聞きたいと言った。


スケさん


あれは俺が小四の時だった。いや小五かもしれない。まぁそんくらいだ。


小学校低学年くらいから怖い話やオカルトに興味はあったが、1人では霊現象が起こっても俺の妄想や見間違いになるから友達の関田と、やっちゃんと一緒に学校で囁かれている噂を試して本当かどうか確かめようとしたわけだ。


でも休み時間の20分じゃ足りないから放課後残ってやっていた。今思えばオカルト部みたいなことをしていた。


やっちゃんてのは俺の初恋の人だよ。八束 美玖。

俺よりもやんちゃで可愛くてオカルトマニアだ。その子と俺そして関田の3人で色々な事をやった。二宮金次郎の銅像が動くか見張ったり、降霊術をしたり、当時流行ってた怪談レスト〇ンとか読み漁ったりもしてた。


二学期の初めに、スケさんの話はやっちゃんから教えてもらった。当時理科室に骸骨の模型があったんだが、去年から姿を消していた。そして最近、骸骨が夜な夜な実験をしているという噂が流行っているとのことだった。


特に女子の間で流行っていた。夏休みの前日に忘れ物をしたAちゃんが学校に取りに帰ったら昇降口が閉まっていた。日が傾き、暗くなってきたので焦ったAちゃんは教室の窓から侵入しようとしたが、教室の窓は締まっていたため、教室の隣の理科室の窓から侵入しようとした。


すると骸骨が実験をしていた。びっくりしたAちゃんが校庭に逃げる。それを巡回していた先生が見つける。事情を話して先生とまた教室に向かった。その際、理科室を見たがなんにもなっていなかったと言う。


まぁよくある怪談話だ。


自称心霊探偵団の俺たちは行くしか無かった。オカルトの知識はやっちゃんが、頭脳は関田が、この学校ではトップだった優秀な面々で金曜の夜に探すことにした。それまで俺の人脈とやっちゃんの人脈。そして関田の先生たちへの人脈を使ってスケさんがどんな怪異か調べた。


とある子は昔の理科の先生の魂が憑依したとか何とか。ある子はバレると肉を剥ぎ取られ骨になっちゃうと。とある先生は実験をしてこの世界の生き物を骨だけにすると。色々な情報があったが、大体は「骨が実験をしている」と言う情報だった。


その日は6時間目の数学の山村先生が体調不良で5,6時間目を使っての実験だった。その時に窓の鍵を開けておいた。今日は光の実験だ。ライトに色つきのセロハンを当てると赤い光になったり緑の光になったりする。黒須先生がみんなにセロハンいる人と声をかけた。


黒須先生曰く発注ミスで多くセロハンが来てしまったらしい。かれこれ一学期から全然セロハンが減らないとか愚痴をこぼしていた。


俺たちはセロハンの筒を2つ持って帰った。理由は秘密基地を彩るためだ。


少し話がズレたが、その日の放課後俺たちは学校近くの公園に集合した。集合時間は夕焼けのチャイムと共にだ。


皆で意気揚々と道路を駆け抜け正門を超える。裏から先生にバレないように慎重に行く。理科室に着く頃には蝉の声が遠くで聞こえる夏夜のようになり、熱帯夜の手前俺たちは黄昏時が終わるのを眺めていた。


太陽がビルの水平線に隠れて俺たちは懐中電灯の灯りをつける。


理科室には何ヶ所かカーテンがしてある。カーテンのしていない所も中は暗くて見えない。


ふと明るくなる。やっちゃんが照らしたのだ。その瞬間俺は固まった。実験をしている。赤い液体や青い液体、緑に透明様々な液体が入ったビーカーが置いたあった。動く影もある。あれがスケさんなのかそう思っているとふと目の前が暗くなる。やっちゃんが駆け出していた。


「あぁ」と声にならない息を漏らすと同時に俺と関田も駆け出す。やはりやっちゃんは足が早い。そして関田も早い。俺は後尾になってしまった。


やばいこのままだと1番最初に死ぬのは俺だと思った。


「はぁはぁ」と耳に入ってくるのは、みんなの息遣いと脈の音、心臓の音、そして蝉時雨だった。


俺もやっちゃんも肩を震わせていた。ただ1人関田は息を整えぽつぽつと呟く「なんでなんだ。ものが動くわけない。こんなの初めてだ。いや前もあったか」そしてフフっと笑った。


そう関田が言った時は取り憑かれたんじゃないかって焦ったよ。でも関田は関田だった。「ちょっと理科室行ってくるわ」と言い行ってしまった。


俺とやっちゃんは顔を見合せやっちゃんが頷く。そしてやっちゃんも走って行ってしまった。俺はマラソン大会よりも全力で走ったのは言うまでもない。


着くとちょうど、ライトを当てるところだった。俺は息を整えながら歩み寄る。やっぱりと関田は言う。俺はやっちゃんの背後から理科室を覗き込んだ。


俺は目を凝らし、気づいた。ビーカーの水は色がついていなかった。じゃあなんでそう見えたか、セロハンだ。


セロハンに反射した光がちょうどビーカーを照らしていた。だから水に色がついているように見えた。関田は言う。緑の液体とかなんだよ。冷却水かよ。


やっちゃんが「冷却水って?」と聞く。関田は淡々と喋る。「知らんけどお父さんが持ってた緑の液体」俺とやっちゃんは「へー」と驚いていた。まぁこんな会話をしているとふと影が動いた。「あぁ」と関田が漏らす。


これ骸骨じゃなくて人体模型の影だろ。ほらと言ってライトを上下左右に動かした。


確かに動きに合わせている。動いているように見えた影は、光が動いていた。


「なんだ」と開けておいた窓から入る。確かにビーカーに入っている液体は透明だったし、人体模型の影だった。関田は「でも」と息を吐く。また、俺とやっちゃんは頭の中が「?」になった。


関田が説明をする。「なんで、机の上にビーカー置いてあんの?だって今日の六時間目僕たちが光の実験してちゃんと片したじゃん。しかも、この学校科学部ないよね」


俺たちは急いで窓から抜け出し自分たちの家に帰った。


次の日黒須先生がいや、黒須 慧雅が捕まった。理科の先生だ。塩酸を濃塩酸にして数学の先生に掛けたらしい。その週は教師の間での殺人未遂かという記事やニュースを目にした。数学の先生が体調不良だったのは。理科の先生がご飯にイチョウの葉を入れていたからだそうだ。


もしもあの液体を触っていたら、黒須先生に見つかったらと考えてゾッとした。


動機は色んなミスを自分のせいにされ職場関係を無茶苦茶にされたことへの憎しみだった。


数学の先生は顔に火傷を負ったが命に別状はなく顔も治り卒業は張り切りすぎて、階段でコケるほどになっていた。良い先生だ。


結局スケさんは理科の黒須慧雅。


「クロス ケイガ。クロ スケ イガ。スケさんだったわ」


そこまで聞くと「次は弥生。弥生駅です」とアナウンスが流れていた。


話を聞く限り、幼いながらにみんな今と変わらないんだなと思った。


ドアが開き「また明日」と雨宮に別れを告げた。


赤間と関田は僕の町に用があるらしい。帰り道に関田が、「柳田はこの話腑に落ちないところとかあるか」と話していたが僕には知る由もない。


「明日は授業めんどくせー」と捨て台詞を吐く赤間と小さい頃から変わっていないであろう関田と別れて帰路についた。


明日は確か科学の実験があったっけな。そんなことを考えて家の鍵を開けた。

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