第11話 仲直りの乾杯

6月に差し掛かろうとしていた頃、僕たちは雨宮を呼んだ。久しぶりの4人で久しぶりのイタリアチェーン店。最初は皆もどかしくしていたが、雨宮が最初に口を開いた。


「あの後、ねーちゃんと僕で橘さんをどうするか考えたんだ」


僕は頭に「?」を浮かべた。「えっ雨宮のねーちゃん」赤間が言った刹那、関田が頭を叩いた。赤間が「痛っ」と漏らす。関田は焦りながら言う。「バカかお前、人じゃないのか」


赤間は我に返りすまんと手を合わせた。それを見て雨宮は「あはは」と肩を揺らした。僕は久しぶりに雨宮の笑い声を聞いて少しほっとした。


「ねーちゃんは死んだけど僕の守護霊になったんだ。だから今はねーちゃんが守ってくれてる。僕は霊感があるから話せるんよ。だから僕もねーちゃんも後悔してない」そう雨宮は話す。僕と赤間は納得をした。なぜか、そんなわけないだろ。とか、精神がおかしくなったとは思わなかった。


関田は精神科がどうとかこうとか言っていた。懐かしい。この感じ、やはりこのメンバーがいいと僕は思う。


雨宮は話を持ちかけた。「ねーちゃんと話したんだけど橘さんはそこら辺の神社じゃどうにもならないと思う。しかも、高校生のお金じゃお祓いも出来ない。正直橘さんを祓うほどの人にお祓いをしてもらうのは金銭面的に無理だ。あと、きっとだが長期戦になってしまう。例えば山で1年生活して少しずつ祓っていくとかにね」


また、雨宮は「そこで僕は考えた」そういうと斜め上を向き「僕たちは考えた」と言い直した。きっと雨宮のお姉さんが「私も考えた」みたいなことを言ったんだろう。


「悪霊には悪霊だ。」関田が吹き出した。「映画の見すぎだろ」雨宮は斜め上を見て青ざめる。「関田、言い過ぎや」と赤間が頭を叩く。それを見て「おっ」と僕は思う。



もはやファンタジー世界な雨宮だったが、やはり以前から不可解なことが立て続けに起こっていたので僕はどうしても雨宮がおかしくなったとは思えなかった。


その後も色々ふざけながら話したが、簡潔にまとめる。


橘さんは八尺様やアクロバティックサラサラよりも強い怨霊らしく村であれば余裕で潰せるんじゃないかとのこと。


そこで悪霊に悪霊をぶつけて疲れさせ、下級霊の力にする。そのためにみんなが好きな心霊スポットに行く。そうすれば心スポの霊たちと戦い力を抑えることが出来る。そうして弱くなったところでお祓いをする。そうすれば成仏させられるとのことだった。


だが、もしも橘さんが心スポの霊に負けたら僕らは死ぬ。今は橘さんが取り付いて僕らが弱るのを待っている。つまり、他の怨霊や呪いに喰われないように見張ってくれているのだ。だが、これは守護神なんて良いもんじゃないとのこと。あくまで自分の獲物だから守っているだけらしい。だが、もっと強い怨霊に出会ってしまって橘さんが負けてしまったら巣食われている我が身もやられるという事。つまり死だ。


もし、心スポに行かなかったり、オカルトに触れていないと橘さんの力が強くなり最初に赤間がやられるとの事だった。


赤間には兎と猫の守護霊がいるが瀬戸際らしい。僕は手が5本あるやつが守護霊としていて強いとの事。関田は曾祖父や曾祖母などの家族が守護霊としているため良いらしかった。


まぁ心スポとか降霊術とかみんなで行こうとのことだった。僕たちは元々オカルトが好きなのですぐに承諾した。赤間に関しては「最高だぜーう〜」と某亀の真似をして自問自答していた。


下級霊は怖い話をするだけで来てくれる。逆に言うと怖い話を聞いているだけでも少しだが、効果はあるということだ。


そんな話を一通りして飲み物を取ってくる。


僕はメロンソーダ。雨宮はカルピス。赤間はコーラ。関田は烏龍茶だ。赤間が「雨宮のおねぇーちゃんと橘さんとオカルトに乾杯〜」と言って僕らのお疲れ会&怖い話大会が始まった。


今日は一番盛り上がった赤間の怖い話をしようと思う。


兎と猫の命


俺がまだオカルトにあまり興味を抱いていない頃。いつだったかな。小1の秋くらいか、俺は近所の小山がある公園で遊んでいた。その日は1人でその公園の林に入った。理由はどんぐりが食べられるらしいと学校で聞いて、どんぐり拾いに来たんだ。林に入ると結構暗く俺は子供ながらに怖いと思った。


子供だから怖いと思ったというのが正しいか。


とにかくどんぐりが欲しかった僕は葉が茶色くなり、落葉している木々を見ながら進んだ。


奥の方に毛の塊が見えた。なんだあれそう思い警戒をした。タヌキか?違う猫だ。近寄ってみると足を怪我していた。俺はどう思ったか、自分が食べようと持ってきたヨーグルトを与えた。すると猫は美味しいそうに食べた。


その日からその猫に会いに行った。1週間もすると立てるようになり俺に懐いていた。そうして猫の名前をどんぐりにした。色もどんぐりのような茶色だったからだ。


ある日見に行くとどんぐりの近くにうさぎがいた。うさぎはどんぐりと仲がいいらしく、くっ付いていた。俺が近寄るとそのうさぎは怪我をしていた。まじかと思ったがとりあえずスダジイの実を食べさせた。あれはどんぐりでも苦味がない実だ。


うさぎの名前はすだじい。うさぎの色がスダジイの殼斗に似ているのも名前の由来だ。もうすぐ傷が治るという日に雨が降った。俺は急いでどんぐりとすだじいの元に向かった。


大丈夫、きっと大丈夫だ。なんて自分の心を落ち着かせながら、猛スピードで二匹のいる林へと走っていった。着くと2匹とも丸まっていた。


俺はひとまず安心して傘を置いて帰った。当たり前だがびしょびしょになった。


そして次の日、陽が照り水溜まりや雨の雫が輝いていた。俺は堂々と歩き、2人の元へ向かった。おかしい。黄色い服を着た人達が、2匹を捕まえていた。俺はみんなを説得させようとしたが結局怒られてしまった。「君がこれ育ててたのダメでしょ。この子達は保健所に連れてくからね」そう言われ泣いた。たぶんそこら辺の水溜まりより泣いたと思うわ。


そう言って最後に「さっき雨宮が言ったウサギと猫の守護霊はこの2匹かな」とつけ足した。


ちょっと感動した。赤間を見直した。でも、どこが、怖い話か分からなかった。「何が怖い話なん」と雨宮が聞く。「あー雨の日びしょびしょで帰ったらまぁ親に怒られてさ、それがめっちゃ怖かったって話」そう締めくくる。


僕たちはただ良い話じゃねーかとツッコミを入れる。


「じゃあ帰るか」と、みんなで会計の計算をしている時ふと赤間が言う。「今日さ感動的な話したやん。でさ、今日財布忘れちゃったから奢って」前言撤回。


赤間は良い奴なんかじゃねー欲望の塊だー


みんなで罵声を言っているとふと雨宮のお姉さんの笑い声が聞こえた気がした。

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