第10話 川魚の悪ふざけ

暖かい日差しが続き、ユリの花が徐々に咲き始めた頃。僕らは川に遊びに行った。


僕はオカルトも好きだが、オカルト関係の所よりも自然豊かな所に行くのが好きだ。何故かというと虫や魚、動植物などが大好きだからだ。


関田は「『人間が完全に自然から離れることはない。あくまで人間は自然の一部だ』とエーリッヒ・フロムっていう人が言ってたんだ。あと、ゲーテの名言にも、『人はたとえ自然に反抗する場合でも、自然の法則には服従する。逆らってみようというときでさえ、自然とともに働くのだ』という言葉があるんだ。だから私は自然に興味があるからね」との事だった。


まぁ農業高校に通ってる人の多くは自然が好きだと思うが。


赤間曰く「オカルトは自然が多いところの方が多く起きるんだ」との事。


僕が駅に着くとみんながいて赤間のバッグからは折り畳み式の釣竿等が顔を出していた。


意外に赤間はアウトドアらしく1人で山に登るほどだった。そんな赤間がみんなで釣りをしようと言うのだ。


僕らの高校の近くには名のしれた有名な川が流れている。そこに決めたらしい。


赤間が決める場所は、ほぼオカルト関係の場所だったので僕はすぐに河童とかかな?なんて考えていた。


行く途中の電車でその川とオカルトが結びつくか調べてみたがヒットした情報は水難事故がたまに起こるくらいだった。これくらいで赤間が行くとは思わない。だったら余程手入れがされてない神社などの方がやばいだろう。


普通に魚釣りをしたいんだなと思い、僕は人生初釣りを楽しみにしていた。


着くと直ぐに僕たちは釣り具の用意を始めた。僕が出来なすぎて、20分くらいかかったが、そんなこんなで釣りを始めた。5分が経つ頃「おっ」の声とともに赤間が魚を釣る。その拍子に関田が魚を釣る。2人ともギンブナを釣っていた。僕らは1時間くらいやっていたが赤間は5匹、関田は3匹、僕は0匹だった。


僕は飽きてきた。というかめっちゃ飽きた。2人はギンブナなどを20分に1匹は釣っていたのに僕はゼロだ。


不意に茂みを見る。大きな岩と目が合った。いや違う、あれはお地蔵さんだ。お地蔵さんが居るところはちゃんと理由がある。


じゃあ何故ここにいるのか、過去に、何百年前に何かがあったのか。そんなことを考えていると「バレた」赤間が言った。


赤間はここら辺に魍魎がいると教えてくれた。自然は霊というより妖怪が住んでいる。魑魅魍魎だ。山にいるものを魑魅、水辺にいるものを魍魎という。河童もその類だそうだ。


約250年前。この川で大氾濫が起きた。その時に人柱を選んで鎮めようと考えた。この川の名前の由来は人柱になった人だ。


そんな事をぽつりぽつりと赤間が喋る。


その人柱の話が重い内容だった。


この川の周りにある6つの村にいる長達が蛇拳で決めたんだ。蛇拳というのはじゃんけんがまだグーチョキパーじゃなく、カエルナメクジヘビのじゃんけんみたいなもので、カエルはナメクジに勝ち、ナメクジは蛇に勝ち、蛇はカエルに勝つというものだ。


その蛇拳で負けたA村の全員で大会を開いたという。60人の村人は何も知らずに蛇拳を楽しむ。1対1で蛇拳をする。30人は負ける。次にまた、負け同士で蛇拳をする。


すると15人負ける。次負けで蛇拳をする。7人負けて1人余る。その8人で蛇拳をする4人負ける。負け4人で蛇拳をする。2人負ける。この2人で蛇拳をする。この時、不運なことにカップルが最後の2人になってしまった。


そして、彼氏がわざと負けてあげた。これがいけなかった。


負け1位と勝ち1位を決めて称えた。勝ちは村人を騙すようにするためだ。負け1位の彼はお祓いをするということで、1人で神社に呼んだ。


呼ばれて男が行くと6つある村の長全員と名のある霊媒師などが大勢いた。そこで男は気づく。蛇拳大会はあの川の氾濫を納めるために人柱を選ぶ大会なのだと。


男は死ぬのが怖かったためか、彼女にわざと負けたから彼女の方を人柱にして欲しいと懇願した。だが、男は人柱になった。人柱の方法はその川の水を沢山飲ませる。そして水死させその体を川に放り投げるというものだった。


ここまで話すとふと赤間は川を見た。


「この川は向こうの山から流れてきてんだ。けど俺はどうしてもここから水が湧き出てると思っちゃうんだ」


そんな事を言うので僕も関田も川を見る。魚拓のような影が見えるくらいで川底は見えない。やはり汚い川だ。


「普通の川だなここ」ぼそっと関田が言う。


僕は日本特有の胸糞が悪い話は嫌いだった。というか胸糞悪い系はダメだ。誰も救われないじゃないか。オカルトは死んだ人に会える。化学では証明できないこと。なんて夢があるからこそだと僕は思う。頭の中で溺れかけた人を想像して背筋が凍る。


赤間は焦ったように思い出したかのようにまた、話し出した。


男は涙を流しながら恨み憎しみ妬み、最終的に呪いを抱え死んだんだ。


村の人々にはお祓い中に川に飛び込んだ。自分が人柱になると言って亡くなったと伝えた。


彼女は泣いた三日三晩泣いて翌朝、川で亡くなっていた。


それから6つある村の長達の長男が全滅。そして赤ん坊は皆急死。また、川が氾濫し村の3分の2は全滅した。


このままでは、まずいと思った長達は川で三日三晩経を唱え続けた。村人が見に行くと4人の長は息を引き取り2人はものすごいやつれていた。2人を連れて行った村人達が全死し、生き残った長の2つの村が廃村になった。


他の4つの村にいる長の家族は全滅だった。


それを聞いた隣村の長が怒りを鎮めるために、お坊さんと一緒に川底と川岸に計16台のお地蔵さんを設置してどうにかしたらしい。


それからこの川の魚には怨念が着いているとか着いていないとか。


僕の手がブルっとした。一瞬思考を止める。「上げろ」横から声がして釣竿を引き上げた。


やっと釣れた。10cmにも満たない個体だったが僕と赤間は「おっ」と声が漏れた。関田は「すげーじゃん」と言ってくれた。


胸糞話は怖かったが、僕は楽しい一日だったと思った。


帰りに赤間は近くの黄色いユリを折ると僕にくれた。帰り道赤間は僕と関田に「今日の話どうだった?」と聞く。


関田は赤間を見るとニヤリとだけ笑いブリモドキの画像を僕たちに見せた。


赤間は「やっぱ無理か~」と悔しがっていた。だが、僕には「まだまだだね」と笑った。


家に帰り、黄色いユリを水に差し、釣ったウグイを調べると食べられるとの事だったので、塩焼きにすることにした。


ブロッコリーを周りに散らしたウグイの塩焼きを作り終え、もう一度ウグイを調べると魚言葉というものを見つけた。


花言葉や石言葉は聞いたことあったが魚言葉は初めて知った。例えばブロッコリーの花言葉は「小さな幸せ」


黄色いユリの花言葉を調べ僕はわかった。


黄色いユリの花言葉は「偽り」


ウグイの魚言葉は「実はあの時」で、関田が見せたブリモドキの魚言葉は「嘘八百」だった。


関田はすでに見破っていた。ブリモドキを見せた時には2人で僕を嘲笑っていたんだ。


赤間の話は全部作り話だった。やられたと思いながらウグイを食べた。泥臭い、美味しいとはいえなかった。僕は人生で1番悔しい食事をした。


食べ終わり、川のGoogleEarthを見る。冬に撮ったらしく草木が枯れ地面が見える。10個の岩を見つけた。いや違う。よく見ると全部お地蔵さんだった。


川底に6個あれば16個だ。石をなぞると六芒星1個と五芒星2個が浮かび上がった。6個は川の中にある図形になる。


何が水が湧き出てるだ。頭から嘘が湧き出ていただけじゃないか。結局2人に手のひらで踊らされてた。


明明後日、色々2人に説教をしようと思う。

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