第5話 赤間退院誕生日会 承

「どうした」バッグを凝視していると関田が話しかけてきた。僕は首を横に振りみんなの会話に入った。


最初は少し亀裂があったがもうみんな仲良くなっていた。誰が最初に切り出したか分からないが、怖い話大会が始まった。


さっきのお祝いロウソクを7本立てて火を灯す。そして電気を消した。僕らは気づくと暗闇とお祝いが混ざりあった空間にいた。


きっと赤間と関田はいつもおめでたい日にこうするのだろう。祝いと怖いが交ざりあった空間はなんとも言えなかった。


1番印象に残ったのは雨宮の姉が九州にいた時に倒れた話だ。


雨宮は怪談師宛らに話し始めた。「あれは私がまだ九州に住んでた時のお話です」少し改まった口調で雨宮は言う。関田はいつも通り良い姿勢で、赤間はニヤリと笑いそして僕は前屈みになり話を聞いていた。


キツネ様


僕のねーちゃんは16歳でひとつ上の歳だ。そして僕はあまり友達がいなかったが、ねーちゃんはたくさんいていつも誰かしらと遊んでいた。


そんなねーちゃんは僕なんか比じゃないほどの霊感がある。


以下 ねーちゃんを姉とする


僕が小四で姉が小五の時の夏。ちょうどコックリさんが学校で流行っていた。


姉は霊感が強くオカルトが大好きだった。将来はゴーストバスターズ巫女になると喚いていた程なので僕はコックリさんをやろうといつ誘われるかドキドキだった。


僕だって一応は神社の家系だから霊感はある。だからって安倍晴明のようにはいかない。


コックリさんで呪われたと言う話を何回か聞いたことがあった。そして、隣のクラスの子がやっていたのを見た僕はまじで焦っていた。その机を回る影を見たからだ。子供ながらにコックリさんはダメと思った僕は、姉にやろーといつ言われてもおかしくない状況に脅えていた。


拒否すればいい。そんな単純じゃなかった。ただでさえ姉には逆らえなかった。特にオカルトになると絶対無理だ。怖いテレビも、心霊スポットもいろいろ見せられたり、行かされた。


そんな姉だったがコックリさんは断固としてやらなかった。逆に僕は田んぼのあぜ道を行ったり来たりさせられていた。


姉の話によると田んぼのあぜ道は時空が歪むことがあって歩いているのを遠くから見ると輪郭や顔が歪むらしい。


今思うとくねくねの正体を突き止めようとしていたんだと思う。くねくねっていうのは知ってるだろ白くてくねくね動いている生き物?神様?で、間近で見ると精神がおかしくなるやつなんだよ。


僕と赤間は「あ〜なるほど〜」と声を漏らす。


関田は「小五でそれは相当頭良いな。多分あんたの姉さんは、田んぼは水が張ってあって冷たい空気になる。そしてあぜ道は水のミの字もないから、暖かい空気があるそうするとあぜ道と田んぼの上の空気の密度に差が生じ、光が不規則に屈折をするそうして陽炎のような現象を起こしてくねくねは農作業をしている人達で自分の思い込みで脳に何らかの影響を与え精神異常を引き起こしていると思ったんじゃないかな」なんてことを言う。


赤間は笑いながら「考えすぎだろ」とツッコミを入れ、


僕と雨宮が「あははは」と笑う。


今日も赤間関田コンビは面白い。


まぁとにかくそんな生活を送ってたんだ。したら放課後急に姉が何も言わず○△山まで僕と行ったわけだ。正確には血相を変えて自転車で○△山に向かう姉を心配した僕がついて行っただけだが。


自分の家から40分くらいで、〇△山に着くのだがその日は爆走して20分くらいで着いた。着くと自転車を止めずに倒して、直ぐに姉は駆け出した。


姉の背を見失わないよう僕も走った。ふと姉は立ち止まった。姉の背から背景へ視点を向けた僕は「あっ」と口から声がこぼれ落ちた。


〇△山は稲荷さんがいる。京都にある伏見稲荷のようにすごい数の鳥居は無いが、少なくとも青々しい真緑色の夏山を朱く彩っていた。


鳥居の色は大好きだ。赤ではなく朱色。僕の家が神社だからではなく、深緑に抗うように聳え立つ風貌に目を奪われる。


鳥居に魅了されている僕を背に姉は鳥居をくぐり祝詞を唱えながら供えていた日本酒を少しペットボトルに入れ拝借するや否やまた駆け出した。


そんなこんなでまた20分掛け家に戻ると次は学校に走っていった。正直うちの小学校の自転車通学の人以外は自転車で学校に入るなと言う謎ルールはうざいと改めて思った。


姉の教室に入ると夏なのに少しひんやりとしていた。田舎の学校だからクーラーなんかない。さっきまで走っていて汗だくだったが次は冷や汗が出てきた。


教室の真ん中で4人組が何かをしていた。コックリさんだ。姉の友達のA子とB子そしてもう2~3人。5人組かと思い再度、目を細めてよく見る。我ながらだが、目が悪いわけでは無いし、教室が広く遠くから見ている訳では無い。椅子を数えると3つしかない。でも人を数えると5人とか4人居る。僕はさっぱり分からなくて姉を見た。


姉はさっきとは違う祝詞を唱えながらコックリさんをしている人達に近寄っていく。どんどんと気温が低くなってまだ5時なのにもう外は灰色がかり、暗くなっていた。姉が机にさっきの日本酒を撒くと同時にマッチに火をつけて机に投げた。


「ぼっ」と青い炎が広がり3人は手を離す。すぐに姉が机を蹴り濡れた雑巾を被せた。2分もしないで火が消えた。3人は「ほんとにありがとう」と姉に言っていた。その時に姉が倒れたんだ。


姉が起きると今日みたいに青白い顔をして僕に言った。「障りに触れた」僕は今日で三度目だ。この話が初めての時。2度目の時は船で海に行った時。まぁそれは置いといて。


姉は障りに触れた。僕のお母さんがいち早く察して僕ら家族で〇△山の稲荷さんに謝りに行った。その狛狐がぼろぼろに欠けていた。


僕たち家族はその狛狐を新しくお納めし、謝った。


っていう話だよ


僕は「コックリさん怖え〜」と声を漏らし、赤間は「最高な話だわ」とニヤニヤしていた。


「すごい話だったけど分からない点が何個かあったんだけど」と関田はいう。


雨宮は「どこが分からなかった」と聞く。


なんで姉は自分家の日本酒を持っていかなかったかだ。姉ならわかるはずだ。まず、コックリさんと言うのはキツネの神様を呼んで占ってもらうというものではなく、キツネという定の幽霊を呼ぶ降霊術だ。


キツネが神様になったからと言って文字を読めるわけじゃないからな。だからキツネの神様用のお酒で除霊しなくてもいいと言うことだ。


また、いくら日本酒でもぼっとだけ火がついてすぐに消える。雑巾を被せなくてもいいんだ。なのに燃え続けたこの2つが不思議な点だ。


雨宮は「関田よく言ってくれたわー中学の頃も話したことあったけどみんな深堀しないんよ」そう言いあははと笑う。


呆気に取られた僕と赤間が口をポカーンと開けているとまた雨宮は話し始めた。


簡単に言うとコックリさんで呼んだのがキツネの神様だった。本物を呼んでしまうことが極たまにあるらしい。


それをいち早く察した姉は稲荷さんのお酒が必要だと思った。そしてペットボトルに入れたと言ったがペットボトルに元々エタノールを入れていて日本酒と混ぜたみたいだった。


親は姉を少し叱り褒めた。危険なことはしてはいけない。でも少なくとも3人の命を救った。


なんでこの話を話したかというと今日倒れたからだ。


そう言うとケーキを1口食べ、また話し出した。


今日姉が久しぶりに倒れた。実は看病してる時に言われたんだ。あんたの友達がやばいのに触れた。なんかあったらすぐに連絡してね。


私じゃ手に負えないからお父さんにも出来ればして欲しい。そう姉は言うと行ってらっしゃいとだけ言いった。


で、僕が行ったらって感じ。


雨宮は僕のプレゼントのことを言っていたんだろう。まだ主役に渡してないから濁していたが…


まだそれに気づいていない「ポカーン」と口を開けているお馬鹿さんの番になって唐揚げの怖い話を始めた。


「唐揚げと言ったらマヨネーズだと思うだろ」結局この怖くて楽しい時間は長いようで短く。僕の心に布が巻かれていった。

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