第2話 僕が初めて雨宮と出会った時の話

赤間が初登校の日からすぐに自転車事故で入院してしまって僕はまた1人になっていた。


ちょうど1週間経った月曜日。登校して初めての豪雨だ。僕はいつも駅から自転車で行っていたのだが、雨が凄かったのでその日はバス停に行くことにした。


バス停に着くと長蛇の列だった。これは1回バスを見逃さないとか~なんて考えていた。バスが来て、僕はギリギリ1回目でバスに乗ることが出来た。


バスの中を見渡すとクラスで見た顔があったのでバス停に降りた時、話しかけてみた。するとやはりクラスの雨宮くんだった。


雨宮の本家は九州にあるのだが、今は母方の家に住んでいるとの事。一通りお互いの自己紹介を終えて雨宮は神主一家で霊感があるとのことだった。霊が見える人と話すのは初めてだったので僕はテンションが上がった。


喜んでいる僕を尻目に淡々とした口調で僕に問う「雨はなんでたまにしか降らないんだと思う?あとさ、てるてる坊主って知ってる?」僕は急に質問攻めされてびっくりした。デジャブだ。


雨がたまにしか降らないのは簡単だ。中3で習った。雨が降るのは空が冷え、飽和水蒸気量が下がって空気中にある水蒸気が水になる。そして雨になって降ってくる。時間が経ち飽和水蒸気量と水蒸気量が同じになれば雨は止む。その他にもシベリア気団などの気団や、気圧配置によってだろう。だから僕は「たまにしか降らないんじゃなくて降れないんじゃない」と言った。


すると雨宮爆笑。「きみ真面目だねー」なんて言いながらずっと肩を揺らしている。僕は1ヶ月に2回、出会ってすぐの人を殴りたいと思うなんて夢にも思わなかった。


雨宮は静かだと思っていたが話すと今入院してる奴と一緒の性格だなと僕も「あはは」と笑った。


「ザー」と鳴り響く強い雨を切るように雨宮は言った「じゃあさ、てるてる坊主ってなんだと思う?」、僕はおまじないの一種だろうと言った。すると雨宮は人差し指を右左に振って「全然そんな可愛いもんじゃないよ」と笑った。

雨宮曰くてるてる坊主は呪詛、いわゆる呪いの一種との事。てるてる坊主の童謡も怖い唄だと雨宮は言った。


授業が終わり、帰りも雨宮と帰ることにした。外に出ると銃弾のような冷たい雨が水たまりを歪ませている。帰り道、ふと地面を見ると魚が2匹程度落ちていた。魚と言っても親指サイズくらいの小魚だ。


なんだろうと僕がのぞいていると傘に「どさり」と落ちてきた。上を向くと空と骨組みの間に1匹の小魚が落ちていた。傘を少し傾けると「ポタリ」と地面に落ちた。下に3匹落ちている。たった今落ちてきたのだ。


ビニール傘に当たる雨と水滴そして黒ずんだ空。何も無いと落ちている魚に目をやる。「ドサッ」また3匹落ちてきた合計6匹だ。僕と雨宮は「ファブロツキーズだ」と呟いた。


初めての光景にテンションが上がっていた反面少し恐怖心があった。ファブロツキーズは竜巻原因説や鳥原因説、飛行機原因説などがあるが魚はギンブナやモツゴなどの川魚じゃないことは確かだった。そしてここは海無し県だ。


天気は気象に則って動く、どんどんと天気予報の技術も上がっている。じゃあ空から降ってきた魚はなんなのか、しかもここら辺しか落ちていない。


不意に雨宮の足元にある水溜まりが「ぼちゃん」と一際大きな音を立てた。心臓が喉まで到達していた僕とは反対に雨宮は「だから雨やなんだよなー」と泡沫のように水溜まりを泳ぐ小魚を見て言った。


雨の音に交じって唄が聞こえてきた。「てるてる坊主てる坊主明日天気にしておくれいつかの夢の空のよに晴れたら金の鈴あげよてるてる坊主てる坊主あした天気にしておくれ私の願いを聞いたならあまいお酒をたんと飲ましょてるてる坊主てる坊主あした天気にしておくれそれでも曇って泣いたならそなたの首をチョンと切るぞ」横を見ると雨宮が口ずさんでいた。


歌い終わると次は祝詞というのか、「かしこみかしこみ」みたいなことを唱えだした。すると魚だったものはてるてる坊主になった。いや、魚が溶けていって中からてるてる坊主が出てきたというのが正しい表現だろう。


気づくと雨はやんでいて駅の方角に虹が出ていた。朝から降っていただろう激しい雨は、ここら辺一帯だけだったらしく天気予報で言う日本地図の一マスだけを青く塗りつぶし、そのまわりはオレンジ色になっていた。


その次の日、てるてる魚坊主(?)が降ってきた所の横の家で死体が見つかった。首をくくって亡くなっていたらしい。雨宮は「8か」と小さな声で言った。


雨という漢字は8画で構成されているのは言うまでもない。今日はLINEで赤間に雨宮の話をしようと思う。土産話と共に。

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