さくも月シリーズ

四季式部

出会いと慣れ

第1話 僕が初めて赤間と出会った時の話

桜の花びらが散り、落ちた花びらが茶色くなる頃。今日は初めての電車通学だ。そう思いながら「ようこそ農業高校へ」と書いてある看板を背に体育館へと入った。


長い儀式を終えた僕らは、親たちと担任が挨拶を交わしている中、30分くらい待たされていた。


そんな時後ろから声をかけられた。「あのさ友達になろ」僕はびっくりして後ろを向いた。すると満面の笑みを浮かべた子がまた、「友達になろ」と言ってきたので僕はすぐに首を縦に振った。

「えっと名前は?」と僕が聞くと「赤間だよよろしく」とニコニコした。とりあえず僕は「柳田です。よろしく」と返した。赤間は随分とフレンドリーな奴だなと思った。

その後も僕らはすぐLINEを交換したりと次第に打ち解けていった。なぜ普通科の高校に行かなかったのか?などたわいもない話をしていた。


なぜその話題になったかわからないが、幽霊は信じるかと言う話になって赤間は縁に亀裂が入ったお茶碗のようなものを渡してきた。


僕がなんなのか聞く前に赤間は話し始めた。「この器はじーちゃんが生きてた時に買ってきたんだ。」話を聞くと、7年前に祖父が骨董品店で買ってきたものらしく、亡くなった時に整理していた赤間がミスで割ってしまったとの事だった。


それは祖父の形見だったこともあり、まだ幼かった赤間は集めて自分の部屋の棚に隠したそうだ。その時に怪我したのだと言い僕に手のひらを見せた。見ると小指と薬指の間に線が一筋入っていた。


年月が過ぎ赤間はいつの間にか隠し持っていたことを忘れてしまったらしい。ある日、棚を開けるとあの器は貫入の入った器になっていたそう。それから日に日にヒビが無くなってきているとの事だった。


そこまで話すと赤間は「これがオカルトだ」とまたニコニコした。オカルトが好きだった僕は小中学生の時、オカルトを話し合える友人はいなかったのでこれは長い付き合いになるなと思った。


「もしこの器が完全に治る時、俺の手にある傷はどうなると思う?」真剣な顔で質問をしてきた。突然の問いに一瞬思考が止まったが、すぐに僕の脳みそは悪い妄想をした。気づくと額に冷や汗を浮かべていた。


さっき赤間は言った。器はどんどんと治っていると。だが、器を集めた時にできた傷は治っていないとも言った。物というのは生きていない。すなわち生命活動をしていないのだから、自ら治ることはない。


オカルトでよくある髪が長くなる日本人形も科学的に言うと物が生命活動をして髪という細胞が増えるということだ。だが、オカルトにもやはりマジックのように種がある。人形の髪が2つ折りに糊付けされていて、半分だったものが時間の経過とともに剥がれて1本の線になり髪が長くなったと錯覚すると言う事を何かで見た。だからきっとこの器も種があるだろう。例えば赤間の母が勿体ないと金継ぎをしたのではないだろうか。


では逆に傷が治らないことはあるのか?僕は理科が得意ではなかったので人体はさっぱり分からなかった。強いて言うならマンガの人切り主人公が治らない傷をつけていたことくらいだった。


結局僕は中学3年までに手に入れた知識を頭の引き出しから何とか探し、出た答えは「その器をレストランで使えば一生使える」だった。


僕がそういうと思いっきり「ガハハハ」とバカにして笑ったので、生まれて初めて出会ってすぐの人を殴ろうと思った。


頭の片隅で治らないということは、怪我がどんどん悪化していて、大きくなるスピードと治るスピードが同じため怪我が治らないように見えるんじゃないかと思ったり、大人になって治るスピードより怪我のスピードが…と少し考えてやめた。


気づくと赤間の親が来ていて僕らはまた2日後と挨拶を交わし、解散をした。赤間の手の中にあるあの器は5筋のヒビから、4筋になろうとしていた。

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