異世界の魔王と配下、その血脈を継ぐものたちや妖が、現代日本に溶け込んで生活している。主人公はそこに転生してきた異世界の勇者だ。
まず、人でないものが人に紛れて生活している話というのが俺は好きだ。
人外好きの中には「人外は人外らしく」という人も多かろう。
一方で、人に化け人の世に溶け込み人と交わり、それでもどこか人とズレた所がある――そういうギャップに萌える趣味をお持ちの方もいるだろう。
この魔王がまた、その手の萌えの対象として大変よい。この見た目で強さで話し方でイケボで(イケボは俺が勝手に想像しているだけだが)作った料理をあの手この手で主人公に食わせようとしたり、超絶美形のくせに自転車に乗れなかったり、野良猫と交流したり、なんでもないことに無駄に洗練された無駄に高度そうな魔法を使おうとするわりには徒歩に拘ったりする。
本来あり得ない存在であるはずの彼らの真っ当な生活が淡々と描かれることで、なんでもない日常が面白さになる。
そんなおもしろ連中は無力な主人公の目線から描かれる。主人公には特別な力もなければ、前世知識でつえーすることもない。
むしろその心には、かつての世界で仲間と共に勇者という一兵士として戦の世を生き、死なれ死んだ傷跡が残る。
今世でも見えざる者が見えるばかりに、人に言いにくい悩みを抱えてきた側面もある。で、真っ当に生活してる魔王に会うわけだ。そういうのいいよな。
まぁ、つっても主人公の若く軽快なテイストでさくさくと語られるので、シリアスな重さは殆どない。ふっとそういう過去があると思わされるいい塩加減だ。
それにすぐ魔王に餌付けされちゃうし。なにより魔王の器がでかすぎるのでね。
いま俺は、魔王のエプロンのポケットからはトマトだけでなく冷え冷えのアイスクリームなんかも出てくるのではないかと疑っている。
この魔王、普通に生活しているだけで面白いからズルいのだ。