第28話◆前世の俺と今の俺
ハルピュイアとは人に近い姿をしているが腕の部分が翼になっており、その翼の先には手のような形をしたかぎ爪がある。
また脚は一見人間の脚のようなのだが、膝から下は鳥の脚である。
ハルピュイアにも色々種族があるようで種族によって羽の色や模様は様々。それだけはなく、種族によっては人との違いが脚と腕だけ、もっと鳥に近いフォルムで体が羽に覆われている者もいる。
もちろん空を飛ぶことができ、風の魔法を得意とした種族だったのを覚えている。
ちなみに人に近い姿をしていても卵生らしい。
そして俺のイメージでは女性が多い印象。男性もいたような気がするが、何故か女性の印象の方が強い。
ハルピュイアの女性って露出が多い服を着ていたり、羽毛で少し隠している程度だったりで、健全な青少年な勇者だった俺には刺激の強いもので、ガン見をしないように注意をしてチラチラ見ていただけだったが、その印象がすごく記憶に残っている。
スケベすぎる姿に純粋少年だった俺はハルピュイアに近付くことができず、彼らとは戦ったことがない。
別に空を飛んでいたから近付けなかったのではなくて、えっちすぎる恰好で近付くことをためらってしまい、そのまま彼らの縄張りの近くを素通りしただけなのだ。
おかげで無駄な戦闘を避けることはできたのだが、今思えばもう少し近くでよく見ておくべきだったかもしれない。
そんなハルピュイアの親子なら綺麗な奥さんと可愛いお子さんかなぁ。
ハルピュイアなら前世で俺が倒した奴の中には多分いないし、なんだか気持ちが軽くなったし少し楽しみになってきたぞ。
ところで昼間のマンションに、魔王みたいな無駄にイケメンの奴が配達なんかにいったら変な噂とか立たないか?
この時間だと普通の家庭は旦那さんは仕事中で、奥さんと子供さんが家にいるとかだろ?
大丈夫? 団地妻の危険な火遊びとかって変な噂が立ってない? 旦那さんに浮気を疑われて修羅場になったりしない?
何となく心配になるのだが、魔王はマンションの前に車を停めてフロントガラスに配達中の札を掛け、慣れた様子でマンションの階段を上ってお得意様の部屋の前へ。
その魔王の後ろをチョコチョコとついていって、ピンポーンというインターフォンの音をボーッと聞いているだけの簡単なお仕事。
「はーい」
玄関のドアの向こうから聞こえてきたのは野太い男性の声。
平日の昼間だけれど旦那さんがいるんだ。
今日は会社が休みなのかな? それとも在宅で仕事をしている人かな?
「リシドだ。いつものを持って来た」
「いつもお世話になります~。今、開けますね~」
奥から少し間延びのする野太い声がして玄関が開き、中からひげ面の男がヒョコッと顔を出した。
「ふむ、息災そうで何より。見えざる者に困らされてはいないか? それで、これが今日の分だから、中身を確認してくれ」
ん?
「はい、家の方はお香を置くようになってからはだいたい平和ですね。僕はあまり敏感じゃないのでたまにいるかなーくらいですけど、娘の方はかなり先祖返りしちゃってるみたいで。でも今は学校で時々見かけるものの、お守りの効果のおかげで憑いてこられることはなくなりましたね。いやぁ、ほんとうちの婆さんに店長さんを紹介してよかったですよ。中身は問題ないですね~、これは今日の分の代金です」
玄関から出てきたひげ面のおっちゃんに、持って来た袋を渡してその代金を受け取る魔王。
そのやりとりで気になることが。
「そうだな、彼女もよく見える側だったからな。して、彼女も元気に過ごしているか? といってもハーピーの血統なら長生きだろうな」
ハーピーとはハルピュイアの略称である。
って、ハルピュイアの親子って親の方はこのひげ面のおっちゃんか!?
娘が見えるっぽいから、ハルピュイアの父娘か!?
前世で見たハルピュイア達のえっちな姿を連想して、美人でえっちな奥さんが出てくるかと思っていたのに、ひげ面のおっちゃん!!
ハルピュイアはひげ面のおっちゃん!!
「ええ、元気ですよ。全く見えない父の方が、老けて見えるくらいなってきましたね。しかしその理論だと僕ももっと若々しくてもおかしくないのになぁ~」
「お主の場合、その無精髭をなんとかすればよいのでは?」
「ははは、娘にも嫁にもそういわれますよ~」
ひげ面ハルピュイアにショックを受けている俺の横で、魔王とおっちゃんの話は続いている。
というか、魔王さんも無駄に貫禄のあるその話し方を、どうにかした方がいいんじゃないか?
部下の人もちゃんと教えてあげてよ。残念な厨二病の人みたいだぞ。
「それでこっちは今日からバイトに入っているみちるだ。この先、みちるが配達に来ることもあると思うのでよろしく頼む。見える側の者なので安心してその手の話をしてかまわないぞ」
魔王とヒゲピュイアの話をボーッと聞いていたら突然紹介された。
「みちるです。えぇと、今日からホッドミーミルの森でバイトに入ってます。向こうでは勇者でした。あちらでは敵対勢力だったかもしれませんが、今は見えるだけの学生です。よろしくお願いします」
いきなり紹介をされたのですごく変な自己紹介をしてしまった。
しかも余計なことを言ってしまったかもしれない。わざわざ自分があちらでは敵対していた勇者だと名乗る必要はなかった。
ああ~、ハルピュイアとは争わなかったけれど勇者ってだけで嫌われているかもしれない。
「へぇ……」
ヒゲピュイアのおっちゃんの視線が魔王から俺に移る。
その反応が短い言葉で一度切れたため、妙に緊張をした気分になった。
「君、学生って言ってたけど、向こうでは勇者だったってことは、店長と同じところからきたの? 店長がこっちにきたのはすごく昔って聞いたてたけど、どういうこと? ちょっと詳しく聞かせて? おじさんそういう話大好きなんだ!」
ものすごく前のめりで食いつかれた。
どういうこと!?
思わず助けを求めるように魔王の方を見た。
「うむ、彼は大潮八郎といってハーピーの血を引いている。僅かながらだが見える方で、職業柄我々の身の上に理解と強い興味を示してくれているうちのお得意様だ」
ハルピュイア要素全くない名前なうえに、なんか日本史の授業に出てきそうな名前だな。しかも職業柄って何だ、職業柄って!?
「すみません、つい興奮しちゃって。大潮八郎です。職業は少女漫画家です」
あ、職業柄。でも、少女漫画!? もうどっからどう情報処理していいかわからないよ!
「隠樹みちるです。僕の場合、転生なのであっちの世界の記憶があるだけです。今はただの新大学生です。あちらでは敵対勢力なんですけど……嫌だったりしません?」
先ほどついポロリをしてしまったので、改めて確認をする。
過去のことで嫌がられるなら、俺は配達にこない方がいいかなって。
「んー? 僕はご先祖様がそうだったっていう血筋なだけだからねぇ。それもすごく昔の話でしょお? ぶっちゃけ、自分が見える側じゃなかったら信じられない話だし、それに見える側だといっても、見えることをお婆ちゃんに話した時にそういう血筋だって言われただけだから、ご先祖様の世界のことは全く実感がないんだよね。それにそういう、世界だったんでしょ? 転生ってことは一度死んで別人になったってことでしょ? だったら新しい人生だし昔の人生のことは気にしすぎなくていいんじゃないかなって僕は思うよ? あとは当事者の店長さん次第?」
心底なんとも思っていない表情であっけらかんと言われ、心に引っかかっていたものが少し軽くなった気がした。
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