第27話◆人の中に紛れる者

 魔王曰く。

 魔王達がこの世界に移り住み数百年。

 魔王の時間感覚がものすごくガバガバなので詳しいことはわからないが、数百年前の戦乱の時代といっていたのでおそらくは戦国時代の頃だろうか? それより更に前だってことはないよな?

 とにかく魔王達がこの世界にきて、人間の寿命より遥かに長い長い長ぁ~い時が過ぎているのだ。

 どのくらいの規模であちらの世界からこちらの世界に来たのかはよくわからないが、彼らが人間の中に溶け込むには十分過ぎる時間だったのは間違いない。

 生活習慣的にも血統的にも。


 こちらの世界の住人に溶け込んで暮らしていれば、当たり前のことだが縁ができ、こちらの世界の人間と子を成すこともあるだろう。

 あちらの世界から来た全ての者がそうではないとしても、多少姿形が違っても人間との間に子供ができる種族は少なくない。

 あちらの世界でも人間とそれ以外の種族の混血は結構いたしなぁ。


 そうしてあちらの世界の者がこちらの世界の人間と混ざり合い、子孫を残し続けているうちにその血は薄まり、あちらの世界の者の血を引いているがその能力はほとんど失われ、こちらの人間と何ら変わりなくなり、普通の人間として暮らしている者も非常に多いという。

 その中には、自分の血筋に異世界の血が混ざっていることすら知らない者も少なくないらしい。


 そうして血は薄まったとしても、その影響が僅かに残る者もおり、そういった者は見えざる者が見えたり、先祖の能力が発現したりすることがあるとか。

 といっても薄まった血なので、俺のように見えるだけの者が圧倒的に多いそうだ。


 もしかして俺もその類い!?

 え? 俺の場合、そんなの関係なしに転生と前世の記憶が何らかの影響を与えているのだろうが、魔王でもよくわからない?

 魔王でもわからないことなら、考えても無駄だな。


 そうやってこちらの人間と交わり、その中に溶け込み、ほぼこちらの人間と同じようになった者達の全てを魔王が把握しているわけではないが、見えるだけで困っている者に気付けば力になっているらしい。

 また自分の血筋を把握している者ならば、自ら魔王の下を訪ねて来る者もいるそうだ。

 この流行らない喫茶店はそういう者への対応の窓口で、喫茶店業務は表向きでありそちらが本業だということだ。

 もちろん、あちらの世界の者の血を引いていなくても見えざる者が見える人間もいるので、そういった者も縁があれば力になることもあるという。


 ちくしょう、魔王のくせになんだかいいことをやっているじゃないか!!

 え? そういう窓口は各地にあって、見えざる者に対応できる力を持っている奴が表向きは普通に生活しながら、困っている人に力をかしている?

 モホロビチッチもその一人?

 ああ、あの駄菓子屋のおっちゃんね。うん、子供の頃からめちゃくちゃお世話になった。

 見えざる者への対処方法を教えてくれたことや、子供の小遣いでも返る線香やお守りを売ってくれたことは今でも感謝してるよ。


 魔王の昼休憩が終わったらお得意様のところに、俺が仕分けした魔除けグッズの配達にいく予定なのだが、そのお得意様というのがあちらの世界から来た者の血を引いており見えざる者が見えるだけの者らしい。

 見える理由は違っても、俺と同じような悩みを抱えている人に少し親近感を覚え、何もできない俺だけれど力になれたという気持ちが湧いてきた。


 その配達は魔王の運転する車でいくらしい。

 え……車? チャリに乗れない奴が車を運転する……?

 え? 自転車はタイヤが二つだけれど車は四つだからこけない?

 まぁ、その理屈はありっちゃありなのか?

 え? バイクなら乗れる? しかも、大型免許を持っている? 原付にしか乗らないけれど?

 意味がわかんねーよ!!

 自転車は自分で漕がないといけないから難しい? バイクは勝手に走るから余裕?

 誰だよ! こんな奴に免許を取らせたのは!? 部下の人達、ちゃんと魔王の面倒を見て!!


 しかも乗っている車がウサギのエンブレムがついたピンクの軽自動車とか、自分のキャラを考えたことあるか!? 間違いなくピンクとかウサギとかってイメージじゃないだろ!? というか魔王の身長が高いからめちゃくちゃ窮屈そうだけど!?

 異世界仲間がやっている中古車屋で勧められて買った? 間違いなく似合うっていわれた?

 それ、面白がられてるんじゃないですかね……。


 そんなちょっぴり不安のある魔王の運転で配達へ。

 異世界で魔王領に住んでいた者の血を引く者達、どんな者達なのだろうか。

 彼らはかつての俺と敵対していた者の血を引く者になる。

 自分と同じように見えるだけの者ということに親近感を抱きながらも、かつてのことを思い出すと少し不安になってきた。


 魔王軍との戦いではたくさんの人間が死んだ。

 それと同時に俺も魔王領に入ってからはたくさんの者を殺した。

 それは人語を解さぬ獣のようなものもいれば、人とは全く違う姿であっても会話のできる者もいた。

 そういった者にも家族がいて、その家族からは俺は恨まれているかもしれない可能性。


 気付いてしまったら、これから魔王について配達に回ることが怖くなってきた。

 俺があの世界にいた人間の勇者だと気付かれたら何をいわれるだろうか?

 そんな考えた頭をもたげ、魔王の運転する車の助手席で黙り込む。

 俺が自分の思考の中に埋もれてしまったため魔王との会話はなく車が進んでいった。


 最初の配達先は思ったよりも近く、不安な気持ちになったままそこに到着をした。

 最初の配達先は魔王の喫茶店から車で五分ほどの場所にある、まだ新しいマンション。

 そこに住む、ハルピュイアの血を引く親子が一軒目のお得意様らしい。







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