第15話◆見えざる者達のいざない
幽霊お姉さんの怖い真実に気付いたりもしたが、すぐに急行で次の停車駅へと到着した。
それでリサイクルショップへ行ったのだが、送料やらなんやらが入ると結局家電量販店で設置と配達無料の新品を買うのと値段が変わらないことに気付き、近くにあった適当な量販店で一式揃えて、アパートの部屋まで運んでもらうことにした。
表示されている値段が安けりゃいいってもんじゃないと学んだ瞬間だった。
買うと決めたら大型家電系は纏めて終わらせることができたので残りは細かいもの。
食器類や調理器具は朝と晩の飯は魔王のとこでお世話になるから、最低限であればいいか。
それと何か買わないといけないものがあったような……そうだ、カーテンカーテン。カーテンを買わないと外から部屋が丸見えだ。
このへんのものは最寄り駅の駅ビルに入っているショッピングセンターでも買えそうだから、あっちで買うことにしよう。
……あれ? もしかして、電車でここまで来たのにもう用事がなくなっちゃった?
でもせっかくでかい駅まで来たことだし、まだ昼になったところだし、少しぶらぶらとして昼飯を食って帰るか。
今来ている街の駅は複数の路線が乗り入れるため、駅も駅ビルも俺が住んでいる最寄りの駅よりもずっと大きい。
駅の周囲には大きなデパートのビルがいくつも並び、そこを中心に繁華街が広がっている。
実家の地方の繁華街よりもでかく見えるが、これでも都心ではなく郊外にある大きめの駅だから、都会とは恐ろしいところである。
アパートまで行く途中に電車の乗り換えで都心の大きな駅も乗り換えで通ったが、駅から出てしまうと駅に戻って来られない自信があるので、もっと大きな駅に行くのは大学で友達ができてから、詳しい友達に案内してもらってからにしようと思っている。
それにしてもこんだけでかい街だと、見えざる者の数も多いのかなぁ。
幽霊の数とか人口に比例しそうだよな。
ほらあそことか人混みの中にゾンビみたいな顔をしたサラリーマンが歩いている。
や、あれは疲れすぎた生きた人間か……お大事になさってください。
でも、やっぱいるいる。
あちらの電信柱の陰、建物の入り口、公園の噴水のそば、駅の階段の隅っこ、気にしなれば人混みに紛れて気付かなかったが、気にして見るとそこら中にゴーストの姿が見える。
逆に妖怪らしき者の姿はさっぱり見えないな。
まぁ、妖怪系は自然物が少なく人の多いところは嫌う者も多いから、こういう賑やかな街の明るいうちでは見かけることはなさそうだ。
しかし商店街の片隅に小さな祠やお地蔵様は見かけたので、今は姿が見えないだけでそういう者達もこの街のどこかに潜んでいるのだろう。
ま、今はそんなことは考えずに初めてきた街を楽しもう。
そう決意して、初めて訪れた街をぶらぶらと歩き始めた。
駅前や大通り沿いは新しくて華やかで綺麗な店が並んで、平日の昼間だというのに人通りも多く油断すると誰と肩がぶつかりそうになり、まさに俺の中の都会のイメージ。
駅から離れていくほど落ち着いた雰囲気の店が増えきて、田舎の繁華街にも似たようなところがあるなとなんとなく既視感を覚える雰囲気になる。
そして駅から続く綺麗な通りから逸れて細い道に入ると、古くからやっていそうな小さな店が多く目に付くようになる。
カウンター席しかない焼き鳥屋、やたら安い古着屋、小さなゲームセンターへ続く怪しげな雰囲気の下り階段、店頭にジャンク品が山積みされているパソコンショップ、入り口が塞がるほど本が積み上がっている古本屋、もう何が何やらよくわからないものが積まれている小さなリサイクルショップ。
どれもあまり綺麗とはいえないのだが、なんだかわくわくとする雰囲気の店がいくつも目に付いた。
その更に裏通りの辺りにうっかり踏み込んだら、俺にはまだ早い店がたくさん見えてびっくりして逃げ帰ってきた。
大人の通りには入らず、小さな古い店の並ぶ裏通りを何か目的があるわけではなくぶらぶらと歩いている。
平日の昼間だからこの辺りまで来ると人も疎らで、表通りと違って歩きやすくなる。
ただ少しあまり綺麗とはいえない店ばかりで、営業しているかどうかもわかりづらく、興味を引かれても入りづらさを感じてしまう。
そして人が疎らなせいで昼間だというのにやや暗く寂れているように感じられ、なんとなく不気味にも思えてきた。
こういう場所にはきっといる。人の多い表通りでは見かけなかった、見えないはずの者達が。
四月になったばかりの冷たさのある空気にプルリと震えながら、古本屋の軒先に積まれている古雑誌の山に目をやれば、手のひらサイズの小さな鬼が数匹、雑誌の上腰を掛け楽しそうに笑談しているのが見えた。
こいつらは前世にいたピクシーという小さな妖精と似たような性質を持った奴らだ。
自由気ままな奴らでそこら中にいる。ちょいちょいたちの悪い悪戯をするので厄介な奴らなのだが、それでも他のでかい妖怪に比べれば人間を取って食うような存在ではないだけましな部類である。
そのたちの悪い悪戯が洒落にならないレベルのこともあるのだが。
ま、もし向こうに興味を示されたら何か菓子でもあげておけば、そちらに興味が移り悪戯はだいたい回避できる。
あちらの質屋の前では白蛇の妖怪らしきものが、店の入り口の横でとぐろを巻いているな。
白蛇は縁起物だともいわれているし、商売繁盛してそうな店だなぁ。
あ、あそこのおむすび屋のすぐわきでは子狐の妖怪が物欲しげにいなり寿司を見ているぞ。
向こうに見える仏具店の入り口のマットの上では、三毛猫が丸くなって寝ているな。これも普通は見えない系のやつだ。
店に入る客が全く猫に気付かずマットの上を通って店に入っていく。不思議なのは、そこを通る誰もが猫を踏まずに店に入っているのだ。
それが面白くてつい猫をガン見していると、猫が俺の視線に気付き体を起こして前足で手招きするような仕草をした。
それはいかにも招き猫。
そういえばあの仏具屋、仏具屋にしては妙に人が入っているように見えるな。もしかして招き猫効果!?
あ、やべ、俺も仏具屋に入りたくなった。
そうだな、昨日も幽霊に追いかけられたし、今日も幽霊お姉さんと妙に縁があるから、少し高い線香を買っておこうかなぁ。
家具を揃えるように親にお金を渡されているし、身の安全のために少しくらい線香に金を使ってもいいだろう。
そう、線香の効果は値段相応。地獄の沙汰も幽霊も金次第なのだ。
で、結局お高い線香を買ってしまった。
おのれ招き猫……店にとっては商売繁盛の妖怪かもしれないが、客にとっては財布が緩む恐るべき存在だぜ。
仏具屋を出た後も別の古い店の入り口で寛ぐ小さな妖怪を目にしては、その術にはまり店に引き込まれるというのを繰り返してしまった。
表通りは綺麗で新しい店が多い、つまり店の入れ代わりが激しいのだろうが、裏通りは見るから昔ながら古い店が多く、そういう店には人にあまり害のなさそうな小さな妖怪が住み着いているところもあるようだ。
長くそこで店を営むうちに、妖怪に気に入られて住み着かれ、気に入っているが故に妖怪もその場所を貸してくれている者に恩返しをしているのかもしれないな。
見えざる者は基本的に隠世で暮らす者がほとんどだと魔王に聞いたが、こんな風に人の暮らしの片隅に間借りするように暮らしている者もそれなりにいるようだ。
神格を持つ者は隠世と現世を行き来することができるとも魔王が言っていたから、もしかすると街で見かけた小さな妖怪達は、小さいけれど地元では昔から慕われている神格持ちなのかもしれない。
それにしても思ったより妖怪の姿が目に付くな。昨日からやたら妖怪やら幽霊をよく見ている気がする。
さすが都会、人の数も多いけれど妖怪や幽霊の数も多いようだ。関わらないようにしとこ。
なんて思っていたのだけれどね、ぶらぶらしているうちに自転車屋の前でまた招き猫の妖怪に引っかかって、つい自転車を買ってしまった。
いや、通学用にいつかは買うつもりだったけれど、アパートの近所で買おうと思っていたのだ。
なのに、どうして別の駅のお店でーーーー!!
急行なら隣だけれど、各駅停車だと間に三駅もあるよおおおおおお!!
引っ越してきたばっかりで道もわからないよーーーー!!
と言ったら、店主のおじいちゃんがスマホホルダーをサービスしてくれた。
これで、スマホで地図を見ながら安心してアパートまで帰れるね! やったー!!
はー、遅くなったけれど昼飯食ってチャリ漕いで帰ろ。
と、昼飯を食った後、スマホの地図アプリを頼りにチャリでアパートを目指し始めたまではよかった。
「うおおおおおおおお!! お姉さん、吹き飛ばされないようにしっかり捕まっててーーーー!! あ、幽霊だから大丈夫? 全然重くないもんね!! ふぇ? すみません、体重の話じゃないっす!! 大丈夫、俺は体力には自信があるのでお姉さんくらい細かったら生身でもチャリの後ろに乗せて余裕で走れます!! っていうか、逃げよう!! 逃げるんだよおおおおおおお!!!」
自転車でアパートに向かい始めて数分後、俺はスマホで道を確認しながら、自転車の後ろにというか、自分のすぐ背後にあの白いワンピースの幽霊お姉さんを乗せて、全力で自転車を漕いでいた。
その後方には昨日のツチノコが猛烈な勢いで追いかけてきている。
お前、また脱走したのか!?
アレックスに三枚に卸されてフライにされちまええええええええええ!!
ていうか、どうしてこうなったーーーーー!?
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