第12話◆朝の常連客
魔王荘こと
昨夜あの後は、魔王と一緒にアパートまで帰ってきたため、何ごともなく部屋に到着した。
魔王が一緒なら安心とか思わなかったんだからね!!
ちなみにその後、急にお腹を壊してしまい、買いにいっておいてよかったトイレットペーパー。
次引っ越す時は、部屋に入る前に必ずトイレットペーパーと買っておこうと誓った。
そんないきなり一晩が明け、約束通りに朝食を頂きにやって来た。
昨夜変な時間に出歩いてしまったので少し眠いが、たくさん食ってこの人の入らなさそうな喫茶店を赤字にしてやるぞ!
俺の反撃はここから始まるのだーー!!
「おはようございまぁす」
カランカランとドアベルの音をさせながら、喫茶店に入るとカウンターの奥で魔王リシドこと
そしてカウンターには昨日の二人、でっかい金髪とヒョロヒョロの茶髪が並んで座っている。
でっかい方が
昨日は聞き流したが、どちらも頑張れば日本系の名前っぽくもあるがキラキラネーム過ぎないか!? それでこの世界の人の暮らしに紛れ込んでいるつもりか!?
猫屋敷ってなんだよ。そんな名字ありなのかよ!?
陽緋色もそうだよ、そこに陽緋色要素があるんだよ! ヤンキーみたいなくすんだ金髪じゃねーか!!
確かアレックスの方が肉屋で、カルの方が魚屋だったか?
現在の時刻は八時半ちょっと前。こんなところでのんびり朝飯を食っていていいのか?
「うむ、おはよう。よく、来た。朝の定食の中から好きなものを選ぶがよい」
カウンターの中でキュッキュッと皿を拭いているエプロン姿で魔王。
昨日一日であまりに色々なことがありすぎて、実は半分くらい夢だったんじゃないかと疑いたくなるのだが、この魔王の姿を見るとやはり全て現実なのだと思い知らされる。
「好きなもの選べって、お前はいつも自分の作りたいものにメニューを書き換えてるだろ。今日はパンの気分なのに朝定が全部ご飯ものになってるじゃねーか」
と白米を掻き込んでいる金髪男アレックス。
やっぱ、昨日メニューがアジフライ定食だけになっていたのは気のせいじゃなかったし、魔王の奴がメニューを書き換える魔法を使うのは確実らしい。
「今日の仕入れでいい鯖が多かったので、鯖を持って来ましたからね。いいじゃないですか、朝から魚。皆さんもっと魚を食べましょう」
なるほど、魚屋のかる。仕入れの後に飯を食いに来ているのか。
せっかくだし仕入れたばかりの鯖が使われていると思われる、焼き鯖定食にするか。
「じゃあ、焼き鯖定食のご飯大盛りで。コーヒーは……砂糖とミルクを――ちょっとだけ!」
昨日ちゃんと学習したからな。ブラックは苦い。
お、俺はまだ十八歳になったばっかりだから、コーヒーは経験があまりないだけなんだ。
これからちょっとずつならして、すぐに大人の味を攻略しちゃうもんねー!
でっかいのとヒョロいのが並んで座っているカウンター席に並んで腰を下ろし、モーニング焼き鯖定食を注文した。
そういって頼んでできた朝定食は通常五八〇円のモーニングセット。
白米にしじみの味噌汁、焼き鯖、卵焼き、そしてほうれん草の胡麻和えと白菜のお漬物。
いかにも朝食って感じのメニューにコーヒーが最後についてくる。
これで五八〇円はかなりお得なきがするのだが、夜の定食同様に米と味噌汁はおかわりし放題。
ちくしょー、魔王のくせに食べ盛りの学生に優しいメニューを提供しやがってー!
俺は絶対に食べ物で懐柔なんかされないからな! 絶対に!
俺の実家の朝食はパンだから、朝から焼き魚はなんだか新鮮な気分だなぁ。
それにパンはほら、前世がパンが主食だったから……。
前世より今世のパンの方が全然柔らかくてふわふわでそれはそれで美味くて好きなんだけど、なんかつかこう米が美味すぎて日本人になってからお米大好きマンになってしまった。
というわけで、いただきます! 朝からたくさんおかわりをしてやるから覚悟しておけ!!
ちくしょう、朝の味噌汁もまた家庭の味を出しやがって!
こんなどこか懐かしい家庭の味の味噌汁を毎日朝晩出されたら、大学を卒業する頃には魔王の味噌汁がお袋の味状態になりそうだ。
お袋の味が魔王の味なんていやだ! でもしじみの味噌汁は美味しい!
味噌汁だけでなく、ほうれん草の胡麻和えはほんのり甘くて美味しいし、焼き鯖も表面パリッの中はしっとり柔らかで美味しい。
卵焼きはしょっぱい派なのだが、この甘塩っぱい卵焼きは悔しいけれどありだな。
はー、お漬物もあるしご飯と味噌汁おかわりしよ。
「朝からよく食うなぁ……これが成長期というやつか? 俺にはそういう時期が……あったっちゃあったか?」
「アレックスさんも成長期があったんですか? 僕は普通の化け猫族ですから、普通に成長期はありましたよ。めちゃくちゃお腹が空くというか、そんな自覚はないのですが後で振り返るとよく食べてたなーって思います」
「ぐ……食べ過ぎた……ご馳走様でした。あ、今ならブラックのコーヒーが美味しく感じるか……も……?」
「うむ、昨夜に続きよい食べっぷりであった」
昨日の夕食に引き続き、またしてもおかわり自由に釣られ食べ過ぎてしまった。
アッ……こんなだお腹いっぱいだと、砂糖やミルクが入った甘いコーヒーより苦いコーヒーの方が欲しくなるかも。
ア……俺もしかして今大人の階段を上った!?
昨日と同じようにカウンターに突っ伏している俺の横ででかいのとヒョロいのが呑気に喋っている。
普通の化け猫ってなんだ!? てか、化け猫にも成長期があるんだ。
でかい方は日本人には見えないが、パッと見は人間なんだよなぁ。めちゃくちゃ鍛えている白人系の怖いお兄さんみたいな感じ。
しかしおそらく人間ではない。いったい何の種族なのだろう。
カウンターの突っ伏したまま顔を横に向け、食べ過ぎの苦しさを紛らわすように俺達以外に人の気配がない店内に視線を彷徨わせる。
あれ?
目が留まったのは窓際の席。
そこに座るのは白地に赤い模様の入ったワンピース姿の女性。
一応客は入っているのだ。
全く気配を感じなかったから、今の今まで気付かなかった。
俺達のように朝食を食べに来ているのかと思えば、テーブルの上にはコーヒーが一つだけ。
なんだろうこの違和感。
あ……。
そのワンピース、ノースリーブだ。
今は四月になったばかり。
気温の高い日の昼間ならは半袖でも平気だが、朝晩は長袖でもまだまだ肌寒く感じる時期。
そんな時期にノースリーブは早すぎる。
彼女のいる横の座席には何も置かれていなく、上に羽織る上着を持っている様子もない。
いや、上着どころかバッグもない。
やだ、背中がゾクゾクしてきた。
カウンターに突っ伏した体勢のまま、視線だけを女性の足の方へスライドさせていく。
ああーーーー、やっぱりーーーー!!
足! 足が透けているよおおおおおおおお!!
ヘイ! そこの彼女、もしかして幽霊!?
「もしかして、気付いちゃいました?」
「む? 見えるっていうのはマジだったか」
びっくりしてガバッと頭を上げると、すぐ横からカルとアレックスの声。
いやいやいやいや、いるならいるって教えてくれよ! ていうか、なんで幽霊が朝から喫茶店でコーヒーを飲んでいるんだ!? もしかしてお客さん!?
「彼女は常連客だから気にすることはない。時間になれば帰っていくし、代金代わりにこの辺りの物の怪情報を置いていってくれる」
今、魔王が常連客って言ったーーーー!!
客がいなさそうな店だなって思っていたけれど、お客さんは幽霊!?
幽霊相手の商売をしているのか!? 幽霊は金が払えないから代金は情報!? んな、無茶な!!
ナチュラルに店の中にいる幽霊にびっくりはしたけれど、幽霊をそれなりに見慣れていて騒がなかった俺を褒めて欲しい。
てか、このでかいのとヒョロいのといい、この店って人間以外の客しかいねーの!?
新生活二日目の朝――俺の一日はいきなり普通ではない始まり方をした。
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