第5話 恋する漢は強いのだ!?

 俺とゲインさんは街道を進む。すると、ピエン王国方面から逃げ出すような人々が俺たちに向かって走ってきて、すれ違いざまに


「大変だ! スタンピードだ! ピエン王国の王都は魔物たちに囲まれてる。あんた達も早く逃げるんだ!」


 と叫んで教えてくれた。


「おお! なんてことだ! 王都には娘が!?」


 なにーっ!? 俺の未来の妻(確定じゃない)が居るならば助けに行かなくては!!

 とそこで正気にかえる俺。


 俺って弱かったよな……


 そこまで考えた時にゲインさんの必死の叫びが俺に届いた。


「赤鎚のマルオくん!! 頼む!! 君のその力を使って私の娘を助けてくれっ!! 頼むーっ!!!」


 血を吐くような叫びが俺の目の前に正座したゲインさんから出ている。それを見て俺は社長の教えを思い出した。


『いいか、丸頭まるおおとこにはなぁ、無理だと思ってもヤらなきゃいけない時があるんだ! 今はまだ分からないだろうが、きっとそんな時がお前にも来る! その時に逃げ出すような無様な真似はするなよっ!! 俺との約束だ、丸頭まるお!!!』


 俺はあの時に「はい! 社長!!」と大きな声で返事をした筈だ。そして、今が社長の言ったその時で間違いない!!

 俺は取っておきの笑顔でゲインさんを立たせて支え、言った。


「フッ、お義父とうさん。今からちょこっと行って未来の妻どストライクをパパッと助けてくるっすよ。お義父とうさんはここで朗報を待ってて下さい」


 言うなり俺は駆け出した。


「やってやらあっ!! このピコピコハンマーで滅多打ちにしてやらあっ!!!」


 雄叫びを上げて駆け出すと異形の群れが王都だろう防壁の前に群がろうとしていた。

 その前に立ちはだかるのは異世界定番の冒険者や騎士たちだろうと思う。


 ここで俺は大声を出した。


彷徨さまよえる異世界人、赤鎚のマルオ様の参上だーっ!! 魔物ども、覚悟しやがれっ!!!」


 俺の大声は群がる魔物たちの間を抜けて冒険者たちにも届いたようだ。ザワザワとした気配が俺にまで届いたが、それを気にする余裕は俺には無い。


 何故ならば……


 怖くて足がガクガクしてるのに、一番強そうな奴が俺の叫びを聞いて向かってきたからだ。

 コイツは恐らくだがトロールキングとかいう魔物だろうと思う。

 俺は心の中でトロキンと名付け、震える足を叱咤してピコピコハンマーを構えて待ち受けた。


 そして奴が射程圏内に入った俺に向かって鉄の金棒を振り下ろしてきた。俺はその金棒に向かってピコピコハンマーを振るう。


【ピコッ】という音で金棒に当たったのは間違いない。だが押し切られて俺に金棒が当たるのも間違いないだろう。俺はその瞬間が来るのを目を瞑って待っていた。というかピコピコハンマーを振った瞬間から目を瞑っていたのだが……


 オオオーッ!!! という大きなどよめきが魔物たちからも人たちからも聞こえた。俺はなかなか来ない金棒の衝撃を不思議に思い目を開いた。


 すると……


 トロキンの金棒を持っていた腕が吹っ飛んでいるではないか!! うおおーッ! また奇跡が起こったようだ。ならばそれが続いている間にコイツらを殲滅する!


 俺は腕を失い倒れたトロキンの頭にピコピコハンマーを打ち込み、結果を見ずに魔物たちの群れに飛び込み、何処に振っても当たるのを幸いにピコピコハンマーを振り続けた。


 二十分後……


「凄いなっ!! あんた!!」

「彷徨える異世界人だって!! やっぱり伝説はホントの話なんだな!」

「私はこの王都を守る第一騎士団の団長だが、陛下に貴方の事をお教えしても良いだろうか?」


 などと俺を称える人々に囲まれていた。俺は人を待たせているからと抜けさせて貰い、待っていたゲインさんの元に向かう。俺の姿を見たゲインさんが満面の笑みで立ち上がる。


「おお!! 赤鎚のマルオくん! 無事だったか!!!」


「お義父とうさん! 魔物は殲滅しましたよ。さあ、王都に向かいましょう!!」


 俺とゲインさんは連れ立って王都に向かった。しかし、そこで問題が起こる。俺は一刻も早く未来の妻どストライクと会いたいのに、先ずは王城に来てくれとさっきの騎士さんが言うのだ。

 ゲインさんも騎士さんに賛成して先ずは王城に行こうと言うから渋々と俺はそれを受け入れた。


 但し、条件としてゲインさんも一緒に行き謁見する事を承知させた。だって、王城からゲインさんの家の場所なんて俺には分からないからな。


 社長の教えを守って良かったと思いながらも、俺の頭の中にはまだ見ぬ未来の妻どストライクで一杯になっていたのは言うまでもない。

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