第7話 つまずき
◆
結局、剣術を習う場も働く場も見つからないまま、半月があっという間に過ぎた。
旧都をウロウロしているのに、有名な建築物や庭園を見に行くわけでもなく、世界有数の蔵書量を誇る大図書館へ行くでもなく、皇国博物館で宝物を見ることもなく、ただ忙しない日々だった。
ウルハも少しずつ心配し始めているようだけど、励ましてくれることが多かった。
「旧都は大きな街だけど、人も多いからね。そううまくはいかないものよ。そのうちどこか、うまくはまるところがあるはずだから、気を落とさないで」
そんな言葉を向けられても、私はなんとか笑みを作るので精一杯だった。
自分にも何かができる。そう考えてこの都市へやってきたはずだった。
でも何もできていない。させてもらえない。
機会さえあれば、と思うのは甘えだろうか。今、何かを成している人はみんな最初から成功していたのだろうか。
今の自分の境遇が、未来の絶望を示しているようで、日に日に気が塞いで行く。
黒い羽織の剣士にはあれ以来、会っていない。そもそも私が移動する範囲が狭い気もするし、もちろん、旧都が広大な上に広大だということもある。
時間はあっという間に流れるのに、私の生活に新しい要素はなく、蹉跌の日々というしかなかった。どれだけ苦しくても明日は来て、苦しみの後にはまた次の日が来る。
そうして時間ばかりが過ぎる。
やっぱりその日も何の手応えもないまま、夕方に集合住宅の部屋に戻り、ウルハに迎えられた。
「まあまあ、オウカ、そんな顔をしないで。まだこれからよ」
食事の席で、そんな声をかけてくれる。
「それにね、もしオウカが見つけられないなら、私が知り合いを頼って、何かのお仕事を探してあげてもいいのよ。それくらいのことはできるんだから、いつでも頼ってね」
はい、と答える私の言葉は、力ないものだった。
そもそも旧都に来た目的は、剣の腕を磨くこと、その上で剣士として身を立てることだった。
女性の剣士はまったくいないわけではないが、珍しい。そもそも女性は男性より体力で劣るから、大きな不利を背負うことになる。
それでも皇国を見渡せば、名の通った女剣士は何人もいる。そんな存在が私の憧れで、目指すべき高みだった。
それがまさか、こんなつまずき方をするなんて。
なんでもない会話をしながら食事が進んだけど、不意に私もウルハも口を閉じる場面があった。
その沈黙が、私にそれを口にさせた。
「ウルハさん、テンジントウ、って知ってますか?」
途端に、ウルハさんが眉をひそめ、私を睨むように見た。
「天刃党、知っていますよ。あの黒い羽織で揃えている連中でしょう」
口調にも不快感が滲んでいる。
ここでこの話題を終わりにするべきだったかもしれない。
そうできなかったのは、私の中にあるあの黒い羽織の男性の様子と、ウルハの口調から感じる印象が、まるで違っていたからだ。
「テンジントウっていうは、何のことですか? 私、よく知らなくて」
「天刃党っていうのはね、剣士の集まりよ。何でも東方から流れてきた連中で、皇都守護省の飼い犬みたいなものね。守護省長官のいいなりになって、悪党を誰彼構わず切り殺す汚れ仕事の専門家」
私はまじまじとウルハを見てしまったけれど、彼女はまったく堂々と私の視線を受け止め、こちらの方が視線を外すことになった。
飼い犬? 汚れ仕事の専門家?
とてもそうとは見えなかったけど、それは私の幻想だろうか。ウルハの方が旧都とも皇都とも呼ばれるこの街を熟知しているのは間違いない。きっと私が知らないことを彼女は多く知っているだろう。
二つのすれ違う認識がある。
どちらが正しいか確かめるには、実際に当たってみるしかないだろう。
それにしても、あの黒い羽織の人たちは、何者なんだろう。
私は今度こそ話題を変えて、食事を再開した。ウルハもそれ以上はテンジントウに関する話題に時間を使いたくなかったようだ、打って変わって明るい口調で応じ始めた。
すでに日は暮れている。
明日、テンジントウについて調べてみようと、内心で私は決めていた。
(続く)
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