第14話 暗殺者

 人殺しは悪いことだ。それは厳然たる事実。だがその罪を裁くのは司法だ。俺ではない。


 俺はしがない詐欺師だ。


 気に入らない連中の計画を潰して、鼻を明かす。そんでもって、金も稼げれば御の字。


 それだけが動機だ。


「ホワイトリスト入りを目指す連中まで救う義理はない。今はとにかく、ウィスパリングフェアリー社の陰謀の証拠を揃えないとな」


 すると、何者かの気配がした。


 振り向くと、眼前までナイフが迫っていた。


 俺は上半身を捻り、どうにか避ける。本来であれば避ける必要はない。


 アイオロスの権能があるからな。


 だがこのナイフ、なにかおかしい。


 明らかに風の楯を貫通して迫ってきていた。


 異世界の技術か。


「口封じのために来た殺し屋か。依頼主は?」


 ヘルメットで顔の見えない暗殺者に、俺は問いかける。


「……」


「だんまりか。だが、沈黙が何より雄弁に事実を語ることもある。お前はウィスパリングフェアリー社の雇った暗殺者だ。このタイミングで現れたんだからな。そして、異世界の魔法対策をしている。つまり、ウィスパリングフェアリー社も異世界技術に手を出している。ただのSNS運営会社ではないということだな」


 まぁ、状況的にこれだけのことは誰でも分かる。迂闊だったな。


 だが相手は予想以上に素早い。攻撃を避けながら喋るのも辛くなってきた。


「終わりにするか」


 俺はアイオロスの権能を解き、精神を集中させる。


「金剛八式【川掌】」


 掌に気を集め、素早く振り抜く。俺の掌は、暗殺者の鳩尾にクリーンヒットした。


 だが。


「ふんっ」


 俺は腕を掴まれ、そのまま投げ飛ばされた。


「え」

 すぐさまアイオロスの権能を復活させ、ふわりと着地する。


 こいつ、予想以上の使い手だな。俺とて、異世界で魔力に頼らない戦闘技術も鍛えてきたのだが。プロ相手には通用しないか。


「大河、植樹完了! さっさと逃げるよ」


 なんと、アルハスラは苗木を植え終わっていたらしい。


 さすがの機転だな。だがちょっとは俺の心配もしてくれよ。それだけ俺の強さを信頼しているんだろうけどさ。


「ハハハ! 残念だったな暗殺者! 魔法対策したくらいで俺を殺せると思わないことだ! じゃあな」


 俺はいかにも小悪党らしい捨て台詞を吐き、その場から飛び去った。


「魔法対策されただけであのザマ? ざっこ」


「うるさいな。お前みたいな魔法対策が意味をなさないレベルの化け物とは違うんだよ」


「バケモノじゃないし。大聖女だから。もっと敬いなさい。そして今の発言撤回しなさい」


「じゃあ雑魚と言ったのを先に取り消せ」


「嫌ですぅ」


「こいつ……」


 まともに取り合うだけ無駄だな。アルハスラは案外幼稚な面を見せることもあるので、ここは大人な対応をしなければな。


 というか、一瞬とはいえガチで言い争いしてしまった俺も大人気ないな。アルハスラと同レベルには落ちないようにしよう。

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詐欺師と聖女のジャイアントキリング 川崎俊介 @viceminister

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