第13話 気に入らない強者

 東京湾に面した埠頭は、案外人気がなかった。


 まだテレプシコラーの【世界蹂躙】から四年。


 テレプシコラーは軍事施設やクラウドサーバーだけでなく、流通の拠点も徹底的に潰していった。まだ東京港も復興が間に合っていないのだ。


 かつてこの地にあった巨大クレーターを埋め立てただけでも、よくやったと言えるだろう。


「さて、アルハスラ。適当に海を割ってくれ。海底に降りて俺が苗木を植える」


「はいはい」


 アルハスラが魔力を練り始めたその時、突如として銃声が鳴り響いた。


「ホワイトリスト入りは私が買った権利だ! 返せ! 約束が違う!」


「黙れ! 抜け駆けは許さんぞ!」


「自分だけ生き残るつもりか!」


 そんな怒号が、近くの倉庫の中から聞こえてくる。


「何かもめてるな」


「関わらないほうが良いって。さっさと植樹しよ」


「いや、何かおかしい。アルハスラ、水の結界を!」


「え? りょうかい」


 アルハスラが水をドーム状に展開し、俺たちを覆った。その次の瞬間、倉庫は爆炎に包まれた。


 炎は当然防げる。そして飛んでくる破片も、凄まじい水圧のかかっているアルハスラの水の前では、弾かれる。


 ほんとチートだよな。


「いきなり爆発事故? っていうか、ホワイトリスト絡み?」


「ホワイトリストと聞こえたのが、ウィスパリングフェアリー社絡みだとしたら、面倒なことになっているな」


「どういうこと? 勝手に潰し合う分には構わないじゃん」


「いや、違う」


 俺は周囲を警戒しながら声を潜める。


「ウィスパリングフェアリー社の手の者が、近くにいる!」


 そう気づいた瞬間、銃声が轟いた。


 苗木を入れていた水槽が割れ、中身の水が零れる。


「ほら来た! 逃げるぞ」


「いや、あれくらい問題ないでしょ」


 迫りくる黒ずくめの男たち5人を相手に、アルハスラは余裕の表情を見せる。

「ひれ伏せ」


 男たちは突然、強大な重力に呑まれたかのように、地面にうずくまった。


 敵の体内の水分すらも支配下に置く、【水の大聖女】だからこそなせる業だ。


「尋問する? しないなら頭吹っ飛ばす」


 物騒な物言いだな。だが、こんな性格になってしまったのは8割方俺の所為だ。異世界放浪生活で純朴な少女を連れまわしてしまったことが、申し訳なく思えた。


「尋問する。もっとも、口を割らなければ捨て置いて構わない。殺すなよ?」


「つまんな」


 そう言いつつも、アルハスラは魔法を解いた。


 その瞬間、男たちの頭は爆散した。またしても血しぶきが飛び散る。


「おい、殺すなと言ったろ」


「私じゃないから! こいつらが勝手に吹っ飛んだの!」


 そうなのか。なんかデジャヴを感じるな。


 俺を包丁で刺そうとしてきた男も、そういえば頭が破裂して死んでいたな。


【別天鏡】絡みと、ホワイトリスト絡み。


 敵の狙いこそ違うが、同じ技術で口封じをされた。裏にいるのは、同じ技術提供者というわけか。


 だが今はそんなことはどうでもいい。ウィスパリングフェアリー社が、大規模集団自殺を計画している。さらに、それを免れるための権利を高値で取引している。


 これほど気に入らない事実はない。

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