第15話 人の善意

 情報処理がうまいサファイヤなら敵国の民間人を巻き込むことなく、戦争を終わらせられる。

 そう思った。

 でも、実際には無理だった。

 サファイヤの計算が正しければ、民間人の被害は一万人を超える。

 それだけの人があそこにはいる。

 軍属を中心にした混成民間人。

 軍の家族や、その軍人への食事、娯楽を提供する民間人もいる。

 最前線という危険を顧みず、それでも自国の軍を信じてとどまる人々。

 厄介なのは、それが善意だと思っているところだ。

 じゃあ、自分は?

 私も、自分が正しいと思って行動している。

 この世界は変わらなくちゃいけない。

 そうでなければ、亡くなっていった人々も、病気で苦しんでいた人々も助けられる。

 宗教が人を救う時代は終わった。

 これからは科学が人を救う。

 忌み嫌われていた核戦争からの科学への風評被害。

 だが、科学も所詮は扱う人次第なのだ。

 扱う人が変われば、人を救うことだってできる。

 それを理解しない保守派の敵国。

 もとは同類なのに、なぜ人はこうも争うのか。

 あちらとて、科学を利用し、戦争の道具にしているというのに。


 この世界の矛盾を感じ取り、わたしは静かに絶望する。

 もう争わないと決めたはずなのに。

 今もなお、争い続けている。

 人はいい加減、学ぶべきなのかもしれない。

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