第12話 ひったくり。

 わたしが街で情報を集めていると、ひったくりを見つける。

「待ちなさい!」

 わたしはその少年を引っ捕らえ、奪った携帯端末を持ち主に返す。

「ありがとうございます」

 高齢な女性が頭を下げてくれる。

「いえいえ。こいつが悪いんです」

「こいつじゃない。ぼくはアッサだ!」

「アッサ。泥棒はよくないのよ」

「へんだ。ぼくだって生きるために必死なのさ」

「まあ、盗っ人猛々しい」

 老婆はそう言い、苛立ちを露わにする。

「……それもこれも母ちゃんが戦死してからだ」

 言葉を失うわたしたち。

「もう、いいだろう? ぼくだって生きたいんだ」

「なら、わたくしのもとにこない?」

 老婆はさっきよりも優しい口調で訊ねる。

「なんだい?」

「わたくしの工場で働けばいい」

「それ本当かい?」

「嘘は言わない」

 なんだか、良い方向に転がっている。

 わたしはそっと二人から離れる。

 この街の人も必死で生きている。

 他者を蹴落としてでも。

 その気持ちに嘘偽りはない。

 だからかしら。

 こんなにも気持ちが揺らいだのは。

 頑張って生きている者を、誰が否定できるだろうか。

 またクロワッサンを買って、宿舎の二階に帰る。

「またクロワッサン。好きだね」

「ええ。まあね……」

 レイナは気にした様子もなく、クロワッサンをくわえる。

 真実を知るのに、彼女は鈍感すぎた。

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