第25話 なかなか眠れない夜※いろいろな意味で「湊川くん。あたしの胸で癒されて……」

「優斗は、あたしの隣で寝るよね? 子どもの頃、一緒に寝てたじゃない。だからと隣に……」


 亜美はぐいっと、俺の腕を引き寄せるが、


「それは子どもの頃の話でしょう? 今は違うんだから宮本くんの隣はあたしです」


 逆方向に、委員長が俺の腕を引っ張って、 


「なんで優斗が委員長の隣なのよ? 優斗はあたしの隣が一番良く眠れるから——」


 さらに強く、グイグイ亜美が俺を引っ張る。


 バチバチバチバチ「…………!」


 なぜか二人の間に、火花が散って、


 背後に般若(?)が見えるような……

 

「……ねえ、ふ、二人とも。湊川くんが寝るところは、湊川くんが決めるべきだと思う……」


 ものすごく小さな声で、黒崎が言う。


「それもそうね。優斗。どこで寝るか決めて」

「湊川くん。早く選んでください。あたしか宮本さんか?」


 じーっ「…………」


 亜美と委員長に、じっと見つめられる。


 (いったいどうすれば……?)


「……そうだな。なら今日は、黒崎の隣で寝るよ」

「「えっ?!」」


 亜美と委員長は目を丸くする。


「湊川くんが決めたら、し、仕方ないね……(やった! 上手く行ったっ!)」

「黒崎。なんか言ったか?」

「……何も」


 ボソッと何か、言ったような気がしたのだが。


「……うん。とにかく、そろそろ寝よう——」


 俺がそう言いかけた時、


「! 湊川くん、待って! 誰か一人、死んじゃったみたい……」


 黒崎が俺の服をまた掴んだ。


 シーカーのスキル【探索】は、ダンジョン内で仲間の位置を把握できる。


 つまりクラスメイトの誰かが死ねば、そのこともわかるのだ。


「だ、誰が死んだ……?」

「尻加さんが、死んじゃったみたい」

「まさか……マジかよ」


 尻加は、笹山に一番気に入られていた女子。


 だから笹山が、全力で守るはずなのだが……


 いったい何があったんだ?


「……笹山はまだ生きてるのか?」

「うん。笹山くんと他の女子たちは生きてる」

「ってことは、尻加だけが死んだのか」

「そうなるね……」


 尻加が見殺しにされた——


 そう考えるのが自然だ。


 笹山と一緒に、俺をバカにしていた女子だが、


 クラスメイトが死ぬのは、やはり忍びない。


「優斗。気にすることないよ。尻加さんは自分で、笹山に着いて行くって決めたんだから」

「全部、笹山くんのせいだからね。……湊川くんは、ちょっと優しすぎるかな」


 亜美と委員長が、俺の肩に触れる。


「ああ。わかってる。ありがとう」


 亜美と委員長の言う通りだ。


 全ては笹山たちの自業自得——


 俺たちが気にすることじゃない。


「……湊川くん。えいっ!」

「ぶほっ!」


 ふにょん♡


 なんだか柔らかいものに包まれて。


「「く、黒崎さん……っ!」」


 亜美と委員長が驚く声。


「み、湊川くん。あたしの胸で癒されて……っ!」


 黒崎が、俺の顔を胸に埋めて——


 (黒崎、意外と胸がデカいんだな……)


 いや、そういう場合じゃなくて。


 ゴゴゴゴゴゴ「…………!」


 俺の背後から、ヤバそうな空気が。


 (今夜、無事に眠れるかな……?)

 

 

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