第14話 委員長、追放されて嬉しい 有栖川視点「だって全部、湊川くんの言う通りだったでしょ? 左の部屋には、毒の罠とフェンリルがいるって。湊川くんが正しかった」

「委員長、追放だっ!」


 笹山くんが追放を宣言した。


 (やった……っ! あたしを追放してくれたっ!)


 これは有栖川の策だった。


 笹山のほうから、自分を追放させる。


 そうすれば、自然な流れで優斗を探すことができる。


 (計画通りね……っ!)


 内心、ガッツポーズを取る有栖川。


「かわいそうに〜〜っ! 委員長、死んじゃうじゃん」


 尻加が有栖川を嘲笑う。


「委員長、今ならまだ、許してやってもいいぜ。土下座して【儀式】をやるならなっ!」


 ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべる笹山。


 どうしても有栖川に、自分の【モノ】を……させたいようで。


 (本当にキモいっ! 吐き気がするわ……っ!)


 耐え難い嫌悪感を抱きつつも、有栖川は話を続けて、


「笹山くんこそ、本当にいいの? 今、あたしに謝るなら許してあげる」

「はははっ! 委員長、ついに狂ったのか?!」


 笹山は、まったく事態をわかっていない。


 (本当にバカね……可哀想なくらい)


 心の中で、やれやれと呆れる有栖川。 


「さっさと出て行きなさいよっ! ブスっ!」


 尻加も有栖川を罵倒して。


 (はあ……もう仕方ないわね)


「わかったわ。あたしたちは出て行きます。そして、湊川くんを探す」

「あたしたち、だと……?」


 あたしたち——有栖川ひとりが離脱するわけではない。


「お、お前ら……俺を裏切るつもりか?」


 男子全員が有栖川のところへ集まる。


 女子では、笹山に味見係にさせられそうになった黒崎と、


 もうひとり、意外な人物がいて。


「えっ?! 桜庭……お前も裏切るのかっ?」


 賢者の桜庭が、有栖川の隣に立った。


 さすがに鈍感な笹山も、焦りを隠せない。


 今まで味方だと思っていた桜庭が、自分から離脱しようとしていることに。


「そうよ。もう笹山には着いていけない。あたしも湊川を探すわ」


 (手のひらを返すの早すぎ……でも、生き残るためには仕方ないわ……)


 有栖川は、桜庭を信用したわけではない。


 みんなのために、仕方なく離脱組に引き入れた。


 一方、桜庭の裏切りに、笹山はかなり動揺して、


「なんでクソ雑魚の湊川を探すんだ?」

「笹山くん、本当に何もわかってないのね……」


 有栖川は大きなため息をつく。


「だって全部、湊川くんの言う通りだったでしょ? 左の部屋には、毒の罠とフェンリルがいるって。湊川くんが正しかった」

「そ、そんなの、たまたまだろ……」

「偶然なわけないじゃない……罠とフェンリルの存在を二つも言い当てるなんて、迷宮のことを知らなきゃできないよ」

「…………」


 笹山は言い返すことができない。


 優斗が言ったことが正しかったのは、紛れもない事実だからだ。


「だから、笹山くんが間違っていたの」

「……俺は剣聖だっ! ゴミスキルしかない湊川と一緒にいても、すぐに死ぬぞ!」

「それは違う。湊川くんは、みんなのことを大切にしてくれる。でも笹山くんは自分のしか考えてない。だからもう笹山くんには着いていけない」


 雑魚・陰キャ・ゴミ——


 そうやってバカにしていた湊川に、クラスの半分が着いて行くと言う。


 しかも、剣聖である自分を捨てる。


 冷や汗をかき、焦りまくる笹山だが、


「じゃあ、笹山くん。バイバイ〜〜っ!」

 

 有栖川たちは、くるっと笹山に背を向けた。


 (なんとしても湊川くんを探し出すんだっ! それから謝って、許してもらおう……っ!)



 ——今まで雑用を押し付けていた男子たちと、


 最強の魔法使いである賢者を失った笹山。


 これだけでも大打撃だが、


 この後、さらにヤバいことが起こることに……



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