第9話 笹山、毒キノコに苦しむ「クソ……っ! せっかく【神】になれたのにっ! このまま俺は死ぬのか……っ! いやだああああああああああっ!」 追放者視点

 優斗たちが美味しそうにキノコを食べていた、一方その頃——


 笹山たちは、やっとフェンリルの群れから逃げおおせた。


「笹山っ! アンタのせいだよ! アンタが左のドアにしようっていうから」


 桜庭は笹山を責めるが、


「お前だって賛成しただろっ! 【あたしサウスポーだから】とか、テキトーなこと言ってなっ!」

「ぐ……っ! クラスメイト見捨てたアンタに、言われたくないわよっ!」 

「し、仕方ねえだろ……。フェンリルに勝てるわけねえし。桜庭も助けなかっただろ? ここに生き残ってるやつは、みんな同罪だっ!」


 笹山と桜庭はお互いに責任をなすりつけ合う。


 不安になるクラスメイトたち……


 見かねた委員長の有栖川が、


「二人とも、お互いに人のせいにしても仕方ないよ。死んじゃったみんなが戻るわけじゃないし……。今は前に進むことを考えましょう」

「それもそうね。笹山、ちょっと休憩しようよ? みんな疲れてるしさ」

「わかった。……でも、フェンリルの件は、俺のせいじゃないからなっ!」


 あくまで自分の責任を認めない、笹山であった。


「腹減ったなあ……。お、見ろっ! キノコが生えてるぞっ!」


 キノコを見つけた笹山が、樹の下に駆け寄る。


「わあ、キノコじゃん。元の世界のシイタケに似てるわね? 笹山、これ、食べられるかも?」

「おい。あっちにもキノコが?」


 シイタケに似たキノコ——ダンジョンドクタケの後ろに、もうひとつキノコが生えていた。


「あれはきっと、毒キノコだな」


 笹山が毒キノコと決めつけたキノコ——ダンジョンマツタケは、唯一ダンジョンで食べられるキノコだった。


 しかし、そんなことを笹山が知るわけもなく。


「あのシイタケを食べてみるか……」


 笹山はダンジョンドクタケを手に取る。


「笹山くん。危ないよ。見た目はシイタケみたいだけど、もしかしたら毒キノコかもしれないし……」


 有栖川が笹山を止めると、


 (あっ! いいこと思いついたぜ……っ!)


 笹山は薄笑いを浮かべながら、


「おーい! ク・ロ・サ・キっ! こっち来てくれー!」


 クラスメイトの一人を呼びつけた。


「な、何……っ? 笹山くん……」


 黒崎藍子。


 クラスで一番、影の薄い女子だ。


 丸いメガネをかけた、おさげ髪。


 すごく根暗な性格で、友達が一人もいない。


 当然、笹山とは一度も話したことがなかった。


「黒崎に、お願いがあるだけど〜〜っ?」

「えっ?!」


 ニタニタ笑う笹山に、黒崎は怯える。


「今から黒崎を、味見係に任命する! このキノコを食べてくれ!」

「い、いやだよ……なんであたしが……?」

「俺に逆らうのか……なら、黒崎も追放だな?」

「えっ?! やだっ! 追放しないで……」

「味見係、やるか?」


 笹山が黒崎の顎を、ぐいっと持ち上げる。


「ううう……っ。や、やります……」


 涙を浮かべながら、黒崎はうなづく。


「よぉし! みんな、黒崎さんが味見係になってくれるそうだっ! 拍手、拍手、拍手っ!」


 パチパチパチパチ「…………!」


 クラスメイトたちは盛大な拍手を送る。


【ありがとうっ! 黒崎っ!】

【黒崎さん、すごいわっ!】

【めっちゃくちゃカッコいい! 黒崎さん大好き!】


 普段は黒崎を「陰キャ」と見下していたクラスメイトたちが、一斉に手のひらをくるっと返す。


【笹山に逆らって、追放されたくない……っ!】


 全員がそう考えていた。


 自分を守るために、誰かを犠牲にしないといけない。


 (ふっふっふっ! 俺はこのクラスの【神】だっ!)


 自分に服従するクラスメイトたちを見て、


 密かにほくそ笑む、笹山——


 自分が今、他人の生死を左右できることに、


 酔っていた。


 だが、しかし……


 この異常な光景に、異を唱える者がいた。


「笹山くん……っ! ひどいよっ! 黒崎さん嫌がってるじゃない!」


 有栖川は笹山に抗議するが、


「おいおい。委員長。黒崎は同意したぜ? 味見係を自分がやります、と」

「でも、それは笹山くんとみんなが無理やり——」

「みんな支持してるだろ? それとも、味見係を委員長がやるか?」

「…………」


 有栖川は黙り込んだ。


「はははっ! 何も言えないな! さあ黒崎に味見を——」

「わかった。あたしが味見役をやる。でも、その代わり笹山くんもキノコを食べて」

「え? なんで俺が……?」

「もしかして、怖いのー? 【俺は剣聖だ!】とか言って、強がってるのに?」


 有栖川は笹山の性格をよくわかっていた。


 プライドがエベレストのごとく高い笹山を挑発すれば、必ず乗ってくることに。  


「怖くねえよ。キノコなんか!」

「じゃあ、食べられるわね?」


 (クソっ! 委員長のくせに〜〜っ!)


 笹山は委員長のせいで、自分が完全な【神】になれないもイラついていた。

 

 (委員長さえ消えれば……。あっ!)


 笹山は悪どいことを閃く。


「せっかく二つキノコがあるんだ。俺はこっちのシイタケぽっいのを食べるぜ」


 笹山はダンジョンドクタケを手に取り、


 少し齧った。

 

「あ……っ! そんなのずるいっ!」

「はははっ! 早いもん勝ちさっ! 委員長はそっちを食べなっ!」


 ダンジョンマツタケを指さす笹山。


 (あれは絶対、毒キノコだ……っ!)


「早く食えよ、委員長? 俺だけに食わせるか?」


 笹山が勝ち誇った顔をしたが、


「…………パクっ!」


 有栖川は目を閉じて、ダンジョンマツタケを食べる。


「…………! すごく、おいしい……っ!」

「えっ?!」


 ダンジョンマツタケの美味に、有栖川は思わず頬が緩んでしまう。


「見た目は酷いけど……おいしくて、なんだか元気になってきて……」

「マジかよ。じゃあそのキノコは食べられるのか……うぐぐぐっ!」


 笹山に激しい頭痛と腹痛が同時に襲う。


「がは……っ! く、苦しい……っ!」


 あまりの痛みに笹山は倒れ込み、


 地面にのたうち回る。


「さ、笹山っ! 解毒魔法をかけるよ!」


 桜庭が解毒魔法の詠唱をする。


 (た、助かった……っ!)


 しかし、


「うぐぐぐぐぐぐぐぐっ!」


 解毒魔法はモンスターの毒には有効だが、


 キノコの毒には、効かないようで。


「ぐぐぐぐぐっ! うがががががが……っ!」


 (クソ……っ! せっかく【神】になれたのにっ! このまま俺は死ぬのか……っ! いやだああああああああああっ!)



 ——毒に苦しむ笹山だが、これからさらに落ちぶれていく。


 気づいた時には、もう遅い。

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