第6話 左のドア、マジで地獄だった件「ははは……無能な湊川が【攻略者】なわけあるか!」 追放者視点

「真っ暗だな……」


 笹山は、薄暗い道を歩く。


 かすかに、不穏な空気が流れていた。


 何か恐ろしいことが起きそうな予感……


 毒霧の罠と、フェンリルがいる——


 たしかに優斗はそう言った。


「ははは……無能な湊川が【攻略者】なわけあるか!」


 笹山は、自分に言い聞かせる。


 後ろを振り返ると、


 左のドアは固く閉まっていた。


 まるで自分たちを、閉じ込めるみたいに……


 不安なクラスメイトたちが、笹山をじっと見ている。


 怯えた動物の目だ。


 (そ、そんなに見るなよ! 俺まで弱気になるじゃねえか……)


「笹山! 大丈夫よ! 陰キャの湊川が、イケてるあたしたちに、嫌がらせしただけだからさ」


 ぽんっと、桜庭が笹山の背中と叩く。


「だよな。あいつの言うことが本当なわけないよな」


 笹山の表情が明るくなる。


「陰キャ野郎のセコイ手に負けちゃダメっ! 笹山はで…あたしたちのリーダーなんだよっ!」


 リーダー、その言葉に笹山は笑顔になる。


 (今、クラスを率いているのは、この俺だ!)


 もともと、目立ちたがり屋の笹山。


 自分が今、【クラスの中心】にいることに、満足感を覚える。


「みんな! 安心しろっ! 剣聖の俺が、みんなを守るからなっ!」


 クラスメイトたちに、笹山は宣言する。


「だから大丈夫だっ! 安心して着いてきてくれっ!」


 笹山の言葉を聞いた、クラスメイトたちは、


【笹山くん……すごく頼もしい】

【笹山ならきっと大丈夫だ】

【笹山がいてよかった……】


 笹山に期待を寄せる。


「笹山、割とイケメンじゃん」


 桜庭も笑顔になる。


「よしっ! 俺たちは生き残れるっ! 絶対に大丈夫だっ!」


 俺たちイケる、俺たちは大丈夫——


 笹山とクラスメイトたちが、そう思った時だった。


【目が見えなくなって……】

【息ができねえ……!】

【ぐるるるるるるしいいいいっ!】


 クラスメイトたちの様子がおかしくなる。


「なんだこれ……身体が痺れて……」

「吐きそうだわ……」


 笹山と桜庭は、身体の動きが鈍くなり、


「まさか毒か……?」

「嘘でしょ……?」


 ——ぐるるるるるるるるるるっ!


 暗闇の向こうから、


 うめき声がする。


 獰猛な魔物の、飢えた唸り。


 少しずつ、笹山たちに近づく足音が……


 鋭い牙と爪を持つ、白い体毛の獣——


「フェンリルだ……っ!」


 ——ぐぎゃあああああああああああっ!


 笹山が気づいた時には、もう遅かった——

 


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