第5話 正しい道を指し示すも、クラスからゴミとして追放される※そっち行くとマジで死ぬぞ

「よしっ! 装備も整えたことだし、先に進むかっ!」


 俺たちは装備と食料を分け合った。


 しかし、世の理ってやつか、平等ではなく——


 強いスキルを持つ者は、よい装備とたくさんの食糧。


 弱いスキルを持つ者は、よくない装備と少ない食糧。


 剣聖の笹山と賢者の桜庭は、一番優れた装備に、一番多くの食料。


 一方、ゴミスキルの俺は一番ダメな装備に、一番少ない食料。


「強い者に資源を集中させたほうがいい……なあ、湊川っ!」


 笹山が薄笑いを浮かべながら、俺の肩を叩く。


 ブロンズナイフに、パン一欠片のみだ。


 (装備も食糧も現地調達できるが……)


「よしっ! みんな、外に出るぞ!」


 笹山がドアを指差した。


 この部屋には、左と右にドアがある。


「そうだなあ……左から行くかっ!」

「そうね。左! あたしサウスポーだし!」


 謎の理由(?)で、桜庭が同調するが、


 (左のドアはマジでヤバいぞ……)


 前回は、左のドアへ入ったら、


 毒の霧が噴き出す罠と、


 血に飢えたフェンリルがいる……


 大半のクラスメイトが、命を奪われた。


 右のドアは安全だ。


 スライムとかゴブリンとか、序盤にふさわしい雑魚しかいない。


 クラスメイトたちは、笹山と桜庭の決定に従う。


 左のドアへ、集まっていく。


 (このままじゃ、ヤバいことになる……)


「なあ、右のドアの方がいいんじゃないか?」

「俺に逆らう気か? 湊川」


 イラついた声で、笹山が俺を睨む。


「そうじゃないけど……」

「ふーん。どうして左のドアじゃダメなんだよ?」

「それは……」


 笹山を説得するには、俺が【攻略者】だと言うしかない。


 隠しておいたほうが得かもしれないが、


 俺はクラスメイトたちを……守りたい!


 たしかに俺はクラスカースト底辺だけど、


 同じクラスの仲間が死ぬのは見たくない……


「はははっ! ビビって何も言えないか?」

「…………今まで黙っていたけど、俺は前回の【攻略者】なんだ」

「はあ? コウリャクシャ……?」

「俺はこの迷宮を脱出したことがあるんだ。それから一度日本に戻って、またこの世界に召喚されたんだ」

「じゃあ、湊川はこの先のことを知っていると?」

「そうだ」


 笹山は額に手を当てて、考え込む。


 (俺の言葉を……信じてくれたのか)


 しかし、そう思った俺は間違っていた。


「……ぷっ。クスクス。湊川が迷宮攻略者? んなことあるわけねえだろ。……マジウケるんだが」

「冗談やめてよ! お腹痛くなっちゃう……ぷぷぷ」


 俺の話を、信じる気は全然ないようで。


 だが、ここで引き下がれば、みんなヤバいことに。


「本当なんだよ……っ! 信じてくれ!」

「あーもうウゼエよ。陰キャのくせにシャシャリ出るなよ。もういいわ……湊川、お前、追放」

「つ、追放……?」

「湊川くんの追放に、賛成の人っ!」


【サンセイ!】

【サンセイ!】

【サンセイ!】


「湊川、追放決定っ!」


 クラスメイト全員一致で、俺の追放が決定した。


 幼馴染の亜美と、委員長の有栖川さんを除いて。


「みんな酷いよ! 同じクラスメイトを追放だなんて!」


 亜美が声を上げたが、


「宮本さん、あんた、湊川のこと好きなのー?」


 ニヤニヤした表情で、桜庭が亜美を煽る。


「そういうことじゃなくて……あたしは同じクラスメイトを——」

「あんたマジキモいわ。あんたも追放!」

「……えっ? そんな!」

「前から宮本のこと、キモいと思ってたのよね。湊川みたいなクソ陰キャとイチャイチャして。吐き気がする」

「おい。宮本は回復術師だぞ。追放したらまずい」


 笹山が諫めるようとするが、


「回復魔法は、賢者のあたしだって使えるから! 別に宮本なんか居なくても全然OKよっ!」

「そっか! なら大丈夫だな……宮本も追放決定っ!」

「酷すぎるよ……」


 亜美が泣き出してしまう。


「はあ。ちょっと可愛いからって、泣いてか弱いフリしちゃってさ……マジでウザイ。さっさと消えろ」


【さっさと消えろ】

【さっさと消えろ】

【さっさと消えろ】


 クラスメイトたちの、消えろコールが響く。

 

 みんな、怖いんだ。

 

 俺たちを追放しないと、自分たちが追放されるかもしれない。


 人間の生存本能のなせる業だ。


 ……そんなふうに割り切れるわけない。


 こいつらは、守ってやらなくていい。

 

 自分が助かるために、平然と他人を犠牲にする。


 まさにクズども——


「……わかった。俺たちは右のほうへ行くよ」

「バイバイ〜〜っ! 二人で最期に乳繰あえよ!」


 笹山たちは、左の道へ進んで行った——


 地獄が待ってるとも知らずに。


「優斗……あたしたち、これからどうしたら?」


 亜美は不安で震えている。


 追放されたショックもあるんだろう。


 安心させてやらないと……


「大丈夫だ。亜美。俺がもう一度攻略してやるから」



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