第23話 白

「どうしたの、急に」

「や、何となく」

 ナツメさんの視線から逸れるように、私は顔を背けた。

「そうだなぁ。面倒見がいい人だったかな。ほら、前にも話したでしょ? あたし、子供の頃は小さくていじめられやすかったって」

「うん」

「そういう時、彼は必ずあたしを守ってくれたんだ。表向きは「おばさんに頼まれたから」とか言ってたけど、あれは彼自身の優しさだったとあたしは思ってる」

 懐かしむようなナツメさんの声色に、胸がぎゅうっと締め付けられる。

「でも彼は、段々あたしに執着するようになった。あたしが疫病で倒れた時、禁忌を犯してしまった彼を知って、あたしはね、怖くなったの」

 ハッとなってナツメさんを見る。ナツメさんは、後悔したように目を伏せた。

「あたしがそばに居ると、彼はどんどんおかしくなってしまう……。首を切られた時、そう理解したの」

 幼なじみの彼への愛情はあれど、ナツメさんの口ぶりは再会を望んでいないように聞こえた。

「……ナツメさん。幼なじみの彼さんが現代に居たら、また会いたいと思う?」

 私の声は、震えていた。

 ナツメさんは震えた声に気づいたのか、気づかなかったのか、小さく笑った。

「いいや。きっと、会わない方がいいんだよ」

 その言葉を聞いて、私は心底ホッとした。

「ああ、ほら。雪だよ」

 ナツメさんの声に顔を上げると、空からちらちらと雪が降り出していた。雪は静かに街を白く染め上げていく。

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