第18話 椿

 今日も今日とて橘秋人の個展に来ていた。

 ふと、一枚の絵の前で立ち止まる。

 髪の毛に椿の花を付け、眉を下げ、困ったように笑う女性。ナツメさんの笑い方に、そっくりだ。

 やっばりこの絵の女性は、ナツメさんなんだろうか。

「ナツメさん」

 リュックサックに向けて声をかけたが、返事はなかった。眠ってしまったのだろうか。

「ナツメって、芝ナツメ?」

 不意に背後から声がかかり、びくりと肩が跳ねた。

 振り返ると、ひょろりと背の高い一人の男性が立っていた。

「ああごめん、驚かせたかな」

「あなたは……」

「僕はこの個展の主催者、橘秋人だよ」

 とても綺麗な人だ。ナツメさんも美人だから、並んだら美男美女でお似合いのカップルになるだろう。

 穏やかな眼差しをしている。この人がナツメさんを生首にしたとは思えないほど。

「芝……ナツメさん、というのは?」

「この絵の女性さ。僕の想い人なんだ」

「だからこんなに沢山……」

 絵の中のナツメさんは、目を瞑っていたり、イタズラが成功したように笑っていたりと表情豊かだ。色んな表情をそばで見てきたのだろう。

 ナツメさんの生首が居ることを、私は橘さんに伝えるべきだろうか。

「よかったら、これ」

 橘さんから渡されたのは、一枚の名刺だった。連絡先が記載されている。

「いつでも連絡してきて」

 橘さんは私の家にナツメさんが居ることを知っているのだろうか。見透かしたようなその目に、思わずどきりとする。

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